聖騎士は 愛のためなら 闇に墜つ

はにわ

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プロローグ

禁忌に触れても助けたい

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赤黒の髪と眼を持つカイは、抜き身の剣を構え、相手を見据えながらそう言った。
瞬間、周辺の空気がピリッとした緊張感に包まれる。静かな殺気がカイの全身から溢れていた。


「それは出来ない。僕は君を止める」


それに答え、同じように剣を構えたのは聖騎士ハルト。綺麗な金髪に、端麗な容姿、神国サンクレアの聖騎士の中でも一番の美形とされる男。
体の線は細く、パッと見は軟弱に見られそうであるが、サンクレアの聖騎士になれるだけあって剣はかなりの腕前だ。

カイとハルト。
彼らは神国サンクレアの四人の聖騎士のうちの二人である。互いに切磋琢磨し、同じ戦場を駆け巡り、命を預け合い、信頼も友情も深めてきた。
その二人が今、互いに剣を向けている。


「悪いが俺は止まらねぇ。命を賭けて救わなきゃいけないものがある。わかるだろう?」


カイがじりっと半歩間合いを詰めた。


「わかるよ。けど、僕だってはいそうですかと君を通すはずもない」


ハルトも同じように半歩間合いを詰めた。



二人の時間が止まったように、しばし硬直した。
時間にして十秒も満たないが、二人には永遠のように永く感じる時間。互いに隙を探り合い、見合う。



「何て顔してやがる」


不意に口を開いたのは、カイの方だった。

ハルトはすぐには何も答えなかった。彼の表情は悲痛に歪み、歯を食いしばっていた。
やがて少し間を開けてライルも口を開く。


「どうしてもやるしかないのか?僕は君とは戦いたくないんだ」


構えは解かない。隙も見せない。
だが、ハルトは声を震わせながらそう訴えかけた。


(イケるな・・・)


表情こそ引き締めているが、カイは内心ほくそ笑んでいた。
ハルトに対し、情に訴えかける作戦をカイは考えていた。


「カイさん!やめてください!!こんなことをしても・・・」


ハルトの後方でバックアップを務める聖女マーサが横から口を挟む。


「こんなことをしても?なんだ?俺はイリスを救いたいからやっている。もうこれしかイリスを救う方法がない。だからやるんだ。やめる理由などないだろう」


カイのその言葉を聞き、カイの後方で杖を構えるイリスはグッと何かを堪えるような表情になった。


「この国を救うために、民を救うために、イリスは呪いを受けることになったんだ!少しくらい禁忌に触れたとしても、見逃してくれたっていいだろう!?」


カイの叫び。
それを聞いたハルトの表情が悲痛に歪む。

聖女イリスは先日、神都サンクレアが魔物の大襲撃を受けたとき、高位の魔物から呪いを受けていた。
魔法での回復は叶わず、どのような薬も通じない。怪我をすればそれが治ることはなく、日に日に衰弱し、やがて死に至る。そのような恐ろしい呪いだ。
魔物はこの呪いを防衛線で戦っていた広範囲の騎士にかけようとしていたが、それを身を挺して自分一人で受け止めたのがイリスだった。

恐ろしく強力な呪いに対し、サンクレアの僧侶や医師たちも治療を諦めた。サンクレアの人間では誰一人としてイリスを救うことは出来ないのである。

だが、その呪術を解く方法というのが存在するのを、あらゆる魔術書を読み漁ったカイは知ることになる。
それがサンクレアが信仰するラビス教が禁忌とする呪法であった。
その呪法が記されているのは『封魔殿』に封印されている『呪法の書』のみであり、カイがこの『封魔殿』を襲撃したのはそれが理由であったのだ。
カイは『呪法の書』にある呪法でイリスの呪いを解き、彼女の命を救おうと考えているのだ。
そのためならば、全てを捨てても良いという覚悟でカイは臨んでいた。

しばし間があったが、やがてハルトが口を開いた。
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