8 / 203
プロローグ
逃走、そして別れ
しおりを挟む
カイが発動させた爆炎魔法の護符は、辺り一面を炎で包ませた。
しかし封魔殿が吹き飛ぶほどの威力ではない。逃走用に用意していた、目くらまし程度の爆炎を上げるものだ。
とはいえアドルは最接近した状態で爆炎をもろに受けたので無傷ではいられない。髪も皮膚も焼け、醜い姿になったアドルはすぐさまカイ達の姿を探す。目も表面を少し焼いてしまったようで、視界が極端に悪い。
僅かな視界を頼りにカイ達を探すが、その場には既に彼らの姿はなかった。既に逃走を終えてしまっているようで、アドルは歯ぎしりをする。
回復魔法に専念していたマーサと意識不明のハルトは距離があったためにアドルほどの被害はないが、ハルトは瀕死で一刻を争う状況なのでマーサが治療の手を止めることはできない。アドルは目視が効かず、追跡も戦闘も困難だ。
アドルは完全にカイにしてやられてしまった形になってしまっていた。
「はっ・・・切り札は最後の最後まで仕舞っておけ・・・その私の教訓も覚えていたか」
カイは自分と同じ聖騎士であるハルトを倒したのみでなく、アドルをも挑発して誘い込み、一泡吹かせてみせた。皮肉なことに、かつての自分の弟子の優秀さをこのような形で思い知らされることになったアドルは溜め息をついて呟いた。
「カイか・・・なんとも惜しいなぁ」
ーーーーー
一方、封魔殿からの脱出に成功したカイは、息も絶え絶えに全力でイリスを背負い走っていた。
そして半刻ほど走り続けた後、ここで漸くイリスを下ろす。
「はぁはぁ・・・」
逃走用に威力を弱めた爆炎魔法とはいえ、至近距離で使えば相応のダメージを受ける。アドルがそうであったように。実際に護符を手に持って使用したカイも全身に大やけどを負っていた。巻き込まれないよう、イリスをかばうようにカイが抱きしめていたのでイリスはほとんど火傷はない。
カイは手に持っているポーションを自分に使ったりはしなかった。これはまだ他に使い道があるからだ。
カイは火傷により全身を刺すような痛みが走るが、気にも留めずに封魔殿から奪取した呪術の本を袋から取り出す。
「急げば、急げば何とかなるはずだ・・・!」
分厚い呪術の本を開き、内容に目を通す。
イリスは瀕死だが、すぐに呪術によって彼女の呪いを解呪し、手に持つポーションを使って回復させようと考えていたのだ。
分厚い本の中から、イリスの解呪の仕方を見つけ出し、解呪を実行する・・・顔も目も焼けただれ、視界も悪く、皮膚がボロボロになっている手では激痛で本をめくるのも一苦労なこの状況では、絶望的もいいところである。
だがカイは諦めなかった。
最愛の人を救うため、自分の生きる意味を本当の意味で教えてくれた人のため、必死でカイは本をめくり続けた。
「・・・イ」
イリスが口を開いた。
「しゃべるな!体力を消耗する!!」
カイは叫ぶが、イリスは聞かなかった。
「・・・ありがとうカイ。私は・・・最後の最後までお前と一緒に居られて幸せだったよ」
別れの時が来ていることをイリスは察していた。
だから口から血を吐きながらも、カイに聞いてほしい言葉を紡ごうとしている。
「馬鹿なことを言うな。これが最後なものか!」
半狂乱になってカイが叫ぶ。
「・・・カイ、お前だけは生きてくれ。私なんかに囚われず、私の分まで幸せになってくれ」
「うるせぇ黙ってろ!!」
イリスの手を握り締めなが、カイは叫ぶ。皮肉なことに聖騎士としての能力のせいか、イリスの命が消えそうなのがオーラで分かってしまっていた。
「私の最後の力だ・・・幸せになってくれ」
イリスがカイの聖剣に手をかざすと、ぼうっと小さく発光した。
「やめろ!!」
カイは叫ぶが、イリスはやめなかった。
そしてわかってしまう。イリスが息絶え、魂が消滅したことを。
イリスはカイの持つ聖剣に、自分の魂を削り全ての聖力を注ぎこんだ。絶命するほどイリスの魂を注がれた聖剣は、もうパートナーである聖女イリスがこの世を去っても姿を消すことはない。カイが生きている限り、永遠に残り続ける。
「イリス・・・」
呆然とイリスを見つめ、カイは動かない。
イリスがいなくなったのなら、もう自分に生きる意味はない。
イリスを見殺しにしたサンクレアが、串刺しにしたアドルが、邪魔をしたハルトが、全てが憎い。
だが、復讐をしようとは考えなかった。復讐をしようと聖剣を振るうたび、イリスのことを思い出してしまうだろう。
やがて、火傷のダメージのせいかカイの意識も虚ろになってきた。
しかし、イリスに使う必要のなくなったポーションを手に取ることはない。このままイリスの亡骸を抱き、自分も彼女の元へ行こう。そう考えていた。
そしてカイはそのまま意識を失った。
しかし封魔殿が吹き飛ぶほどの威力ではない。逃走用に用意していた、目くらまし程度の爆炎を上げるものだ。
とはいえアドルは最接近した状態で爆炎をもろに受けたので無傷ではいられない。髪も皮膚も焼け、醜い姿になったアドルはすぐさまカイ達の姿を探す。目も表面を少し焼いてしまったようで、視界が極端に悪い。
僅かな視界を頼りにカイ達を探すが、その場には既に彼らの姿はなかった。既に逃走を終えてしまっているようで、アドルは歯ぎしりをする。
回復魔法に専念していたマーサと意識不明のハルトは距離があったためにアドルほどの被害はないが、ハルトは瀕死で一刻を争う状況なのでマーサが治療の手を止めることはできない。アドルは目視が効かず、追跡も戦闘も困難だ。
アドルは完全にカイにしてやられてしまった形になってしまっていた。
「はっ・・・切り札は最後の最後まで仕舞っておけ・・・その私の教訓も覚えていたか」
カイは自分と同じ聖騎士であるハルトを倒したのみでなく、アドルをも挑発して誘い込み、一泡吹かせてみせた。皮肉なことに、かつての自分の弟子の優秀さをこのような形で思い知らされることになったアドルは溜め息をついて呟いた。
「カイか・・・なんとも惜しいなぁ」
ーーーーー
一方、封魔殿からの脱出に成功したカイは、息も絶え絶えに全力でイリスを背負い走っていた。
そして半刻ほど走り続けた後、ここで漸くイリスを下ろす。
「はぁはぁ・・・」
逃走用に威力を弱めた爆炎魔法とはいえ、至近距離で使えば相応のダメージを受ける。アドルがそうであったように。実際に護符を手に持って使用したカイも全身に大やけどを負っていた。巻き込まれないよう、イリスをかばうようにカイが抱きしめていたのでイリスはほとんど火傷はない。
カイは手に持っているポーションを自分に使ったりはしなかった。これはまだ他に使い道があるからだ。
カイは火傷により全身を刺すような痛みが走るが、気にも留めずに封魔殿から奪取した呪術の本を袋から取り出す。
「急げば、急げば何とかなるはずだ・・・!」
分厚い呪術の本を開き、内容に目を通す。
イリスは瀕死だが、すぐに呪術によって彼女の呪いを解呪し、手に持つポーションを使って回復させようと考えていたのだ。
分厚い本の中から、イリスの解呪の仕方を見つけ出し、解呪を実行する・・・顔も目も焼けただれ、視界も悪く、皮膚がボロボロになっている手では激痛で本をめくるのも一苦労なこの状況では、絶望的もいいところである。
だがカイは諦めなかった。
最愛の人を救うため、自分の生きる意味を本当の意味で教えてくれた人のため、必死でカイは本をめくり続けた。
「・・・イ」
イリスが口を開いた。
「しゃべるな!体力を消耗する!!」
カイは叫ぶが、イリスは聞かなかった。
「・・・ありがとうカイ。私は・・・最後の最後までお前と一緒に居られて幸せだったよ」
別れの時が来ていることをイリスは察していた。
だから口から血を吐きながらも、カイに聞いてほしい言葉を紡ごうとしている。
「馬鹿なことを言うな。これが最後なものか!」
半狂乱になってカイが叫ぶ。
「・・・カイ、お前だけは生きてくれ。私なんかに囚われず、私の分まで幸せになってくれ」
「うるせぇ黙ってろ!!」
イリスの手を握り締めなが、カイは叫ぶ。皮肉なことに聖騎士としての能力のせいか、イリスの命が消えそうなのがオーラで分かってしまっていた。
「私の最後の力だ・・・幸せになってくれ」
イリスがカイの聖剣に手をかざすと、ぼうっと小さく発光した。
「やめろ!!」
カイは叫ぶが、イリスはやめなかった。
そしてわかってしまう。イリスが息絶え、魂が消滅したことを。
イリスはカイの持つ聖剣に、自分の魂を削り全ての聖力を注ぎこんだ。絶命するほどイリスの魂を注がれた聖剣は、もうパートナーである聖女イリスがこの世を去っても姿を消すことはない。カイが生きている限り、永遠に残り続ける。
「イリス・・・」
呆然とイリスを見つめ、カイは動かない。
イリスがいなくなったのなら、もう自分に生きる意味はない。
イリスを見殺しにしたサンクレアが、串刺しにしたアドルが、邪魔をしたハルトが、全てが憎い。
だが、復讐をしようとは考えなかった。復讐をしようと聖剣を振るうたび、イリスのことを思い出してしまうだろう。
やがて、火傷のダメージのせいかカイの意識も虚ろになってきた。
しかし、イリスに使う必要のなくなったポーションを手に取ることはない。このままイリスの亡骸を抱き、自分も彼女の元へ行こう。そう考えていた。
そしてカイはそのまま意識を失った。
0
あなたにおすすめの小説
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。
柊
ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。
そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。
すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる