聖騎士は 愛のためなら 闇に墜つ

反逆

かつての友

「よう」


中心街の端にある広大な墓地にカイはやってきた。
彼が声をかけたそれは、一般人のそれよりも倍はある大きな墓である。墓石には「聖騎士トルドー・マルチネス」と名が刻んであった。


「あんまり挨拶に来れないうちから悪いが、これで最後になるかもしれないから来たわ」


カイはそう言って街で買った花束を添える。

トルドー・マルチネス。
かつてカイと共に魔族と戦った戦友であり、魔王との決戦に置いて命を散らした男だった。カイの同期の4人の聖騎士の一人である。


「無口だったなぁお前。いてもいなくてもわかんねーよって冗談言っちまったことがあったけど、やっぱお前がいるといないとじゃ全然違ったわ。悪かったな」


思い出話をしながら、カイは両手を組み膝を折り祈る仕草をする。

カイ、ハルト、トルドー、クリス。
それぞれに癖のある聖騎士だったが、その実力から『奇跡の世代』と呼ばれるほどの豊作であるとかつてアドルは言った。
歴代最強とされるほど飛びぬけた戦闘力を持つ聖騎士が集まったが、彼らはそれまで膠着状態にあった人間と魔族との戦況を大きく変えついに終止符を打った。
だが、トルドーは戦況を大きく変えた一戦・・・魔王との戦いにて命を落としてしまったのだ。

寡黙であまり自分を語らぬ男だったが、最後は魔王と刺し違え、魔王の動きを封じ攻撃の機会を作った。
それが決定打となり、魔法はカイの聖剣により体を切り裂かれ絶命したのだ。
当時サンクレアは聖騎士トルドーの死を大いに悲しんだが、同時に魔王の討伐成功を喜びもした。

トルドーの死の悲しみは、一週間後には魔王討伐の喜びにおおよそ塗り替えられた。
暗い話題よりは明るい話題。それはわかってはいたが、国のために人類のために命を落としたトルドーの死をもう少し慈しんでも良いのではないか・・・
当時カイはそう考えていた。


トルドーとパートナーであり、例に漏れず婚約者でもあった聖女ミーアはトルドーの死後、聖女の職を辞した。悲しみのためか、トルドーの死が軽んじられたことに憤慨したせいか、それはわからない。

「すまないなトルドー。先に謝っておくわ」

カイは祈るのをやめ、スッと立ち上がる。


「お前が死んでまで護りたかったサンクレアを・・・壊してしまうかもしれん」


カイはそう言って踵を返した。