聖騎士は 愛のためなら 闇に墜つ

はにわ

文字の大きさ
73 / 203
反逆

考え方の違い

しおりを挟む
「ハルト!」


騎士団長室を出たハルトは、突然声をかけられた。
ハルトの婚約者であり、聖女であるマーサであった。


「マーサ。どうしてこんなとこに」


騎士団庁舎に聖女であるマーサが入ってくるのは珍しいことであった。
ハルトの問いに、マーサは焦っていう様子で答えた。


「ハルトがユーライ国に発つかもしれないって聞いて、慌てて来たの!・・・ねぇ、本当にユーライに発つの?」


恐る恐るといったようにマーサがそう訊ねる。
ハルトは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべ、地面に視線を落としながら答えた。


「いや、僕はユーライには行かないよ。ここサンクレアでカイが来るのを待つべきだーー そう言われてる」


ハルトの本心としては、カイが身を寄せているというユーライに今すぐにでも発ちたかった。
そして決着をつけたいーー そう思っていたが、それは叶わなかった。それがハルトには悔しくて仕方がなかった。


「そうーー 良かったわ」


だがそんなハルトとは対照的に、マーサは心底安堵したようにため息をついた。


「良かった?どうして?決着をつけるのがどんどん遅れることになるじゃないか」


ハルトが問うと、マーサは首を小さく横に振る。


「私は嫌よ。ハルトがこれ以上危険に身をさらすことになるなんて。今回は中止になっちゃったけど、私たちの婚約の儀だってもうすぐなのに・・・」


婚約の儀が終われば、ハルトとマーサは実施的に聖騎士と聖女として勤めることはなくなる。
サンクレアでは聖騎士聖女の座が空白となるが、魔族という最大の敵を壊滅させた以上、それは大きな国家不安にならないとされていた。


「それはそうだけど・・・けど、今は僕がやるしかないじゃないか。降臨の儀のときにも、僕は演説で教徒達に約束をした。なのに」


「なのにじゃないわ」


納得できないようにしているハルトの言葉を、マーサは遮った。


「私たちは、もう実質的には現場に出ちゃいけない立場なんだよ?わかるでしょう?危険に簡単に身を晒して良い身分じゃないの」


「・・・!」


マーサに言われ、ハルトは押し黙る。
既に自分達の動向には、様々な政治的な影響がついて回るようになっている。
唯一残った聖騎士であるハルトが動くことで、教徒達に対するイメージ的なメリットもあるが、既に未来の重鎮として道の開けているハルトを積極的に前線で運用しようという考えは上層部には無かった。


「私たちは、もう十分に戦ったわ。これからは、自分達の幸せのことも考えていきたいの・・・」


マーサの言葉を聞いて、ハルトはぐっと息を飲んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

シリアス
恋愛
冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...