74 / 203
反逆
邪魔者
しおりを挟む
ハルトは騎士として実直な男だった。
剣を手に取った時から自分の体は騎士団、ひいては国、そしてラビス教のためにあると考え、自分の命は、力は、全てはそれらのために捧げたものとして考えていた。
だから、ハルトは聖女マーサとの結婚が決まっている今となっていても、自分はラビス教のために剣を振るうべきと考えていた。
それによって命を落とすことになったとしても、それは本懐であると。彼は本気でそう考えていた。
一方で、ハルトのパートナーであるマーサの考えは違った。
彼女は目の前にある危機への対処よりも、自分達の将来のことについて考えていた。そして、自分達は既にただの聖騎士と聖女という枠組みから外れ、高度な政治的事情の絡む存在になっているということを自覚していたのだ。
ハルトが思うように本当に死んでしまっては大きな混乱も起こるし、サンクレアの損失は計り知れないものになる。そのことをしっかりと自覚し、軽はずみな行動はすべきではないと考えていた。
「もう私達には自分の立場というものがあるわ。軽はずみに動いていいものじゃないのよ」
カイの討伐など、現場の人間に任せてしまえば良いーー 極端に言えばマーサの考えはそれであったし、実際ハルトの立場的にはそうするのが正解である。アドルがカイに対し待ちの体勢を取るように指示したのも、つまるところそういう思惑が動いているからだ。
そこではハルトの意思など関係ないのである。
「わかってるよ。わかってる・・・」
ハルトはそう言うが、本心ではそうでないことはマーサにもわかった。どこまでも現場主義の人間であるハルトには、本当は今にでもユーライにすっ飛んで行きたいのが本音であった。ハルトはまだ大人になり切れていないのである。
「心配しなくても、僕は動くことはない。僕だって自分の立場は理解してる」
ハルトはそう言って、暗にこの話は終わりだとばかりにその場を去って行った。
その姿を見送ったマーサは、僅かに顔を顰める。
「カイ・・・どこまでも邪魔をするのね」
そう吐き捨てるマーサの言葉を、聞いた者はいなかった。
剣を手に取った時から自分の体は騎士団、ひいては国、そしてラビス教のためにあると考え、自分の命は、力は、全てはそれらのために捧げたものとして考えていた。
だから、ハルトは聖女マーサとの結婚が決まっている今となっていても、自分はラビス教のために剣を振るうべきと考えていた。
それによって命を落とすことになったとしても、それは本懐であると。彼は本気でそう考えていた。
一方で、ハルトのパートナーであるマーサの考えは違った。
彼女は目の前にある危機への対処よりも、自分達の将来のことについて考えていた。そして、自分達は既にただの聖騎士と聖女という枠組みから外れ、高度な政治的事情の絡む存在になっているということを自覚していたのだ。
ハルトが思うように本当に死んでしまっては大きな混乱も起こるし、サンクレアの損失は計り知れないものになる。そのことをしっかりと自覚し、軽はずみな行動はすべきではないと考えていた。
「もう私達には自分の立場というものがあるわ。軽はずみに動いていいものじゃないのよ」
カイの討伐など、現場の人間に任せてしまえば良いーー 極端に言えばマーサの考えはそれであったし、実際ハルトの立場的にはそうするのが正解である。アドルがカイに対し待ちの体勢を取るように指示したのも、つまるところそういう思惑が動いているからだ。
そこではハルトの意思など関係ないのである。
「わかってるよ。わかってる・・・」
ハルトはそう言うが、本心ではそうでないことはマーサにもわかった。どこまでも現場主義の人間であるハルトには、本当は今にでもユーライにすっ飛んで行きたいのが本音であった。ハルトはまだ大人になり切れていないのである。
「心配しなくても、僕は動くことはない。僕だって自分の立場は理解してる」
ハルトはそう言って、暗にこの話は終わりだとばかりにその場を去って行った。
その姿を見送ったマーサは、僅かに顔を顰める。
「カイ・・・どこまでも邪魔をするのね」
そう吐き捨てるマーサの言葉を、聞いた者はいなかった。
0
あなたにおすすめの小説
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。
柊
ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。
そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。
すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる