聖騎士は 愛のためなら 闇に墜つ

はにわ

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反逆

起こらないはずの奇跡

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「不思議なものだな」


神都から続々と避難民が列を作って出てくるのを眺めながら、ユーライ国軍の前衛隊の隊長はそう口から漏らした。


「不思議とは?」


隊長にそう質問するのは、神都内に侵入し、爆炎符の貼り付けや攪乱を行ってきた斥候だった。
彼らは神都の北口を遠巻きに隊を展開し、避難民の動向を見守っていた。もちろん、約束の通りに見守るだけで特に手を出すことはない。


「本来ならば戦にもならぬほどの戦力差のある我々が、サンクレア軍を籠城どころか内部崩壊にまで追い詰めている。どんなご都合主義の舞台劇とてここまで極端な内容の脚本は出てこないだろう。これはもう奇跡を超えた何かであるとしか言いようがない」


隊長はそう言って嘆息する。


「俺はな。今回ここで死ぬつもりで前衛で指揮を執った。元聖騎士のカイ殿の立てた作戦がうまくいくとは思わなかったし、大国であるサンクレアをこうも良いようにやり込めるなんて想像もしてなかった。それでも、われらの口を蹂躙した神の使いを気取った悪魔どもに一矢報いることが出来るのならば、それでも良いと思ったんだ。そう思ってたんだが・・・」


普通に戦えば、いかにユーライ国軍が強襲をかけようと、サンクレアは微動だにもしなかっただろう。聖騎士ハルトの猛攻によって前衛がズタボロにされ、そこへ騎士団が飛び込み、数の力もあって一瞬でユーライは敗北したはずだ。
だが、実際には開戦後から面白いほどにカイの読みが的中した。
唯一残った聖女は既に亡き者になり、サンクレアの戦力は大きく削がれたことになる。動揺もすぐには収まらないほどのものだろう。

聖女が死んだのをきっかけに神都内部は崩壊した。神の加護があり、絶対安全であるはずの神都から人が逃げ出している。聖女が神都にて凶刃に倒れた段階で、既にサンクレアに神の加護があるという前提が崩壊しているので当然であった。
むしろこうなった今もなおサンクレアに神の加護があると信じている者は、目が曇り現実が見えていない愚か者とすら言える。
誰よりも神の加護を受けているはずの聖女が護られていないのに、ただの人間が護られるはずがないのである。


「この奇跡を起こせたのも、カイ殿だけでなく諸君ら斥候のお陰だ。礼を言う」


「いえ、我々など大したことは出来ていませんよ。全てはカイ殿の用意した秘薬のお陰です」


隊長の言葉に、斥候は首を横に振って謙遜する。


「姿を消す秘薬・・・確かに、バニシュ草という希少な植物を素材として、そのようなものを作ることが出来るとは古代錬金術師の残した書籍にあると聞きましたが、まさか現実にあるとは思いませんでした。カイ殿はとある人に渡されたと言いましたが、一体あんなものを誰が用意できたというのでしょう・・・」


斥候達は全員がカイに渡された薬を使って姿を消していた。だから任務をこなすにあたり、全く誰一人犠牲を払うことなく遂行することができた。
今サンクレアが崩壊しているという事実が奇跡というならば、まずそこからが奇跡というのだろうと斥候は思った。
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