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反逆

大司教の誘導

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大司教はラビス教会内部にて孤立しかかっていた。
枢機卿の息子であり、大司教であるどころか、聖女の父でもあるという、そんな彼は教会でも突出した有望株であり、将来は法王となることも現実味を帯びていた。

実子である聖女マーサが聖騎士であるハルトと結婚すれば、もはや地盤は盤石。後は何をしなくても自分は教会の最高位に就けるのではないか・・・大司教はそう思っていた。


ところが、その実子マーサの凶報が彼の将来への道を閉ざすことになった。
聖女と聖騎士はセットが原則。
それを勝手に聖女としての使命と騎士としての使命をそれぞれ優先し、二人別行動した挙句に、満足な護衛を伴わない聖女が討たれてしまった。

聖騎士のみならず聖女もサンクレアの保有する強大な力の一つ・・・それを聖女自身の判断とはいえ失うことになり、サンクレアを危険に晒したとしてマーサの父である大司教への風当たりは強いものになっていた。
大司教の教会内での躍進の追い風になってくれていたはずのマーサが、まさか逆に足を引っ張ることになるとは誰が想像できようか。

大司教はサンクレアが置かれている厳しい現状よりも、今の自分の身の上のほうが気がかりだった。
非常時である今は良いが、もし危機が去り、サンクレアが日常を取り戻したときが問題だ。大司教は査問にかけられ、聖女マーサの失態の責任を負わされて失脚させられる可能性があると考えていたからだ。


「これまで私の歩んできた道が・・・一体どうすれば・・・」


大司教は娘の死を嘆くより、自分の立場ばかりを考えた。


「あの木偶の棒ハルトめ・・・女子一人満足に守れないとは・・・ん・・・?」


もし自分に起死回生の可能性があるとするならば、ハルトを利用するしかないということに大司教は気付く。
例えばハルトがユーライ国軍を勢いづかせている要因の一つである反逆者カイを討てば、ハルトの評価が上がると同時に、婚約者に据えていたマーサの評価が上がるのではないか。
あくまで可能性の一つでしかないが、進退窮まった大司教にはもはやハルトに縋る他なかった。


だから大司教はあえてハルトをカイ討伐に積極的になるように誘導した。
そしてハルトは実際に彼の思惑通りの反応を示したのである。
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