聖騎士は 愛のためなら 闇に墜つ

反逆

崩壊の下準備

アドルが呼び出しの手紙を受け取る少し前・・・
カイはアドルの屋敷を堂々と訪れていた。

本来アドル邸周辺を巡回しているはずの神殿騎士は、ミカエルの命令によって遠ざけられていたので、誰にも止められることなくカイは邸内へ入ることが出来た。
神殿騎士程度が束になったところでカイを制することは出来ないが、しかし彼が後にやりたいことを考えれば極力いざこざは避けたい。そんなカイがミカエルに「アドル団長に復讐がしたい。神殿騎士を遠ざけてもらいたい」と願うと、これ以上ないくらい呆気なくそれは了承された。

アドルとミカエルの並々ならぬ確執についてはカイも良く知るところだった。だから、恐らくミカエルはカイの要求を飲むだろうと思ってはいたが、二つ返事でミカエルが頷いたときにはカイは苦笑いを浮かべそうになった。
ミカエルが優先するのはアドルへの復讐心。
それを果たす人間がいるのなら、聖職者としての矜持などどうでも良いらしい。


「あ、貴方はっ！？」


ミカエルの計らいもあってカイが難なくアドル邸へ足を踏み入れたとき、カトレアは声を張り上げて驚いた。


「ご無沙汰しております」


カイはたびたびアドル邸へ訪れていたので、アドルの家族とは顔なじみだった。むしろ二人の息子はカイに良く懐いてすらいた。


「貴方達に危害を加えるつもりはありません」


カトレアは相手の話の真偽を確かめることが出来る。
彼女は意識してカイの言葉の真偽を探るが、嘘ではないことがわかった。それによって一旦は警戒を少し緩めたカトレアは、一体どうして反逆などしたのかを問う。

カイが来ていることに気が付いた息子達もやってくると、カイはその場にいた全員に自分が何故反逆を起こすことになったのかを話した。

恋人でありパートナーだった聖女イリスが死ぬ呪いにかかったこと。
それを解くために反逆者とならざるを得なかったこと。

そして、助かると思った矢先にアドルによる不意打ちによってイリスが刺されたこと。
それをカイは嘘にならぬよう話した。

カトレアも、彼女の真偽確認の力を受け継いでいるレイドも、カイの言葉に嘘がないことを確認し、驚愕して言葉を失った。
レイドの能力は基本的にはよほど親しい人にしか本人は話していなかったが、カイのことは信頼していたので話していた。その能力はカトレアから引き継がれたということも。

カイはそれを逆手にとってアドルの家族たちを信用させることが出来た。
どうしてこんなことをしたか？それは彼の復讐に必要なことだったからだった。