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反逆

カイにとってのアドル

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カイは家族を失い、天涯孤独となったタイミングでたまたまアドルの目に留まり、騎士への道を示された。
それはアドルの下心によるものだったが、カイにしてみればこれは幸運以外の何物でもない。

カイの家族が騎士団の関係者であるならば、サンクレアなら戦災孤児として手厚い保護が受けられる。しかしただの傭兵の息子でしかなかったカイには、運よく神都暮らしが出来るとしても、郊外エリアで泥を啜るような生活をして暮らしていく運命が待っている。
そんなカイからすれば、アドルの敷いたレールの上を歩かされるとはいえ、神都の騎士団見習いとしての立場を用意してもらえることは破格の待遇であった。


「お前には私の全てを叩きこむ」


アドルはカイにそう言った。
サンクレアの騎士団でも有望株で、異例の速度で出世をしているというアドルに何故目をかけられたのかはカイは理解していた。自分には戦いのセンスがある。ただそれだけ・・・慈悲でもなんでもない、自分の能力を利用するためにアドルは自分に道を示したのだとわかっていた。


「キツイと思う暇もないほどの地獄を味わうかもしれん。だが、それでもついてきてもらうぞ」


アドルは笑いながら言っていたが、漠然とカイは冗談で言っているのではないということは理解していた。
それでもーー


「ええ。這ってでも、貴方の目指す頂まで行きます」


カイは自分に与えられた機会を、生かすことに決めた。

アドルの特訓は熾烈を極めた。
騎士団の訓練も決して楽ではなかったが、それすらが準備運動ではないかと思うほどの厳しさであった。
目を瞑ってでも四方八方からの攻撃に対処できるように感覚を研ぎ澄ますこと、ナマクラで自然石を切り裂くこと、生身で獰猛な野生動物を絞め殺すこと。
人の騙し方、揺さぶりのかけ方、神に仕える聖教国の騎士に必要とは思えないほどの悍ましい思考まで叩きこまれた。
騎士というよりは単純な人間兵器を作り上げるかのようなカリキュラムである。

アドルから徹底して仕込まれていたカイに対して当初は嫉妬による嫌がらせが起きたこともあったが、じきにその訓練の苛烈さで嫉妬よりもむしろ同情的な視線を浴びるようになるほどだった。

だが、カイはアドルに感謝していた。
アドルに下心があったとしても、カイを育て上げてくれたことは事実なのだから。

いつしかカイはアドルのことを第二の父親のようにすら思っていた。
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