聖騎士は 愛のためなら 闇に墜つ

はにわ

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反逆

もう一人の・・・

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アドルは幼い頃に母を強盗の手によって失った。
そして騎士だった父は魔物の手によって殺された。

両親ともに失ったアドルは、大切なものを守るために決して負けぬ力を手に入れようと誓った。
サンクレアの騎士団に入ってからも、寝る間を惜しんで騎士団の訓練とは別に独自に訓練を重ねた。

打倒アドルのために猛特訓ミカエルは、いつもアドルに勝つことは出来なかったが、アドルは才能だけで彼に打ち勝っていたわけではない。そもそもの訓練量からしてアドルのそれはミカエルのそれを上回っていたのだ。

騎士として尋常ならざる実力を持ったアドルのことを、周囲は称えた。誰よりも敵を殺し、誰よりも活躍し、誰よりも仲間の命を救う彼は英雄だった。
だが、一部の騎士は疎んでいた。

「あれは人間ではない」


鬼神のように突撃し、自分の命を試すように危険に身を投じ、魔物であれ人であれ、敵対する者はただの障害物として淡々と処理をする。
正直なところどちらが魔物かわからない、そんな声もあった

そこまで剣に全てを費やしたなお、アドルは聖騎士になることが出来なかった。
両親を失ったことを機に身に着けることを決めた「力」。聖騎士にあることで一つの区切りがつけられる、そんな気がして目指した聖騎士の座は、ミカエルの横槍によって呆気なく夢散してしまう。

どこまで自分は力を付ければ良いのだろう。行き場のない感情がアドルを苛んだ。
アドルの最愛の人であるカトレアでさえ、彼の本当の心の内は理解していないだろう。アドルが意図的に隠しているからだ。

だが、そんなアドルのことを唯一理解していたのがカイであった。
アドルはカイに情け容赦なく、自分の培ってきたもの全てを叩きこんだ。耐え切れず壊れてしまえばそれまでのこと、と言わんばかりに一部の妥協なくつぎ込んだ。

アドルは自分の息子達が騎士になりたいことを知ってはいるが、それでも直接本気で教えることは考えてはいなかった。アドルの剣は修羅の剣。人間の使うべきそれは違う・・・決して自分の息子達には教えまい、そう考えていた。
ハルトも弟子だったが、カイほど力を入れて教育してはいない。

カイはアドルにとって本当の意味で自分の全てを叩きこんだ最高傑作だった。
封魔殿のことでも、使えるものは何でも使うというアドルの戦術にのっとり、卑劣にもイリスを手にかけてまでカイの動揺を誘ったのは、自分の打てる全ての手を打ってカイとぶつかりたかった・・・それが理由であった。

カイが起点を利かして爆炎符でアドルの顔を焼いたことも、アドルにしてみれば誇りでもあった。
自分の叩き込んだ『力』は、こうまで昇華してみせたのかと喜びさえ感じていた。

そしてアドルは、ここにきてまたカイによって卑劣な手によって討たれようとしている。アドルが教えた通りだ。使えるものは何でも使う。対人において、人質を取るなど典型も典型だ。



ーーーーー


「カイ・・・」


カイの太刀を浴び、虫の息のアドルは微かな声で彼の名を呼んだ。


「・・・良くやったな・・・私のもう一人の息子よ・・・」


アドルは誇らしげに笑いながら動かなくなった。


最後にアドルが呼んだのは、最悪の家族の名ではなくカイだった。


「ありがとうございました。もう一人の父上・・・」


カイは最後にそう言い、聖剣をアドルの体に突き立てる。
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