158 / 203
反逆
もう一人の・・・
しおりを挟む
アドルは幼い頃に母を強盗の手によって失った。
そして騎士だった父は魔物の手によって殺された。
両親ともに失ったアドルは、大切なものを守るために決して負けぬ力を手に入れようと誓った。
サンクレアの騎士団に入ってからも、寝る間を惜しんで騎士団の訓練とは別に独自に訓練を重ねた。
打倒アドルのために猛特訓ミカエルは、いつもアドルに勝つことは出来なかったが、アドルは才能だけで彼に打ち勝っていたわけではない。そもそもの訓練量からしてアドルのそれはミカエルのそれを上回っていたのだ。
騎士として尋常ならざる実力を持ったアドルのことを、周囲は称えた。誰よりも敵を殺し、誰よりも活躍し、誰よりも仲間の命を救う彼は英雄だった。
だが、一部の騎士は疎んでいた。
「あれは人間ではない」
鬼神のように突撃し、自分の命を試すように危険に身を投じ、魔物であれ人であれ、敵対する者はただの障害物として淡々と処理をする。
正直なところどちらが魔物かわからない、そんな声もあった
そこまで剣に全てを費やしたなお、アドルは聖騎士になることが出来なかった。
両親を失ったことを機に身に着けることを決めた「力」。聖騎士にあることで一つの区切りがつけられる、そんな気がして目指した聖騎士の座は、ミカエルの横槍によって呆気なく夢散してしまう。
どこまで自分は力を付ければ良いのだろう。行き場のない感情がアドルを苛んだ。
アドルの最愛の人であるカトレアでさえ、彼の本当の心の内は理解していないだろう。アドルが意図的に隠しているからだ。
だが、そんなアドルのことを唯一理解していたのがカイであった。
アドルはカイに情け容赦なく、自分の培ってきたもの全てを叩きこんだ。耐え切れず壊れてしまえばそれまでのこと、と言わんばかりに一部の妥協なくつぎ込んだ。
アドルは自分の息子達が騎士になりたいことを知ってはいるが、それでも直接本気で教えることは考えてはいなかった。アドルの剣は修羅の剣。人間の使うべきそれは違う・・・決して自分の息子達には教えまい、そう考えていた。
ハルトも弟子だったが、カイほど力を入れて教育してはいない。
カイはアドルにとって本当の意味で自分の全てを叩きこんだ最高傑作だった。
封魔殿のことでも、使えるものは何でも使うというアドルの戦術にのっとり、卑劣にもイリスを手にかけてまでカイの動揺を誘ったのは、自分の打てる全ての手を打ってカイとぶつかりたかった・・・それが理由であった。
カイが起点を利かして爆炎符でアドルの顔を焼いたことも、アドルにしてみれば誇りでもあった。
自分の叩き込んだ『力』は、こうまで昇華してみせたのかと喜びさえ感じていた。
そしてアドルは、ここにきてまたカイによって卑劣な手によって討たれようとしている。アドルが教えた通りだ。使えるものは何でも使う。対人において、人質を取るなど典型も典型だ。
ーーーーー
「カイ・・・」
カイの太刀を浴び、虫の息のアドルは微かな声で彼の名を呼んだ。
「・・・良くやったな・・・私のもう一人の息子よ・・・」
アドルは誇らしげに笑いながら動かなくなった。
最後にアドルが呼んだのは、最悪の家族の名ではなくカイだった。
「ありがとうございました。もう一人の父上・・・」
カイは最後にそう言い、聖剣をアドルの体に突き立てる。
そして騎士だった父は魔物の手によって殺された。
両親ともに失ったアドルは、大切なものを守るために決して負けぬ力を手に入れようと誓った。
サンクレアの騎士団に入ってからも、寝る間を惜しんで騎士団の訓練とは別に独自に訓練を重ねた。
打倒アドルのために猛特訓ミカエルは、いつもアドルに勝つことは出来なかったが、アドルは才能だけで彼に打ち勝っていたわけではない。そもそもの訓練量からしてアドルのそれはミカエルのそれを上回っていたのだ。
騎士として尋常ならざる実力を持ったアドルのことを、周囲は称えた。誰よりも敵を殺し、誰よりも活躍し、誰よりも仲間の命を救う彼は英雄だった。
だが、一部の騎士は疎んでいた。
「あれは人間ではない」
鬼神のように突撃し、自分の命を試すように危険に身を投じ、魔物であれ人であれ、敵対する者はただの障害物として淡々と処理をする。
正直なところどちらが魔物かわからない、そんな声もあった
そこまで剣に全てを費やしたなお、アドルは聖騎士になることが出来なかった。
両親を失ったことを機に身に着けることを決めた「力」。聖騎士にあることで一つの区切りがつけられる、そんな気がして目指した聖騎士の座は、ミカエルの横槍によって呆気なく夢散してしまう。
どこまで自分は力を付ければ良いのだろう。行き場のない感情がアドルを苛んだ。
アドルの最愛の人であるカトレアでさえ、彼の本当の心の内は理解していないだろう。アドルが意図的に隠しているからだ。
だが、そんなアドルのことを唯一理解していたのがカイであった。
アドルはカイに情け容赦なく、自分の培ってきたもの全てを叩きこんだ。耐え切れず壊れてしまえばそれまでのこと、と言わんばかりに一部の妥協なくつぎ込んだ。
アドルは自分の息子達が騎士になりたいことを知ってはいるが、それでも直接本気で教えることは考えてはいなかった。アドルの剣は修羅の剣。人間の使うべきそれは違う・・・決して自分の息子達には教えまい、そう考えていた。
ハルトも弟子だったが、カイほど力を入れて教育してはいない。
カイはアドルにとって本当の意味で自分の全てを叩きこんだ最高傑作だった。
封魔殿のことでも、使えるものは何でも使うというアドルの戦術にのっとり、卑劣にもイリスを手にかけてまでカイの動揺を誘ったのは、自分の打てる全ての手を打ってカイとぶつかりたかった・・・それが理由であった。
カイが起点を利かして爆炎符でアドルの顔を焼いたことも、アドルにしてみれば誇りでもあった。
自分の叩き込んだ『力』は、こうまで昇華してみせたのかと喜びさえ感じていた。
そしてアドルは、ここにきてまたカイによって卑劣な手によって討たれようとしている。アドルが教えた通りだ。使えるものは何でも使う。対人において、人質を取るなど典型も典型だ。
ーーーーー
「カイ・・・」
カイの太刀を浴び、虫の息のアドルは微かな声で彼の名を呼んだ。
「・・・良くやったな・・・私のもう一人の息子よ・・・」
アドルは誇らしげに笑いながら動かなくなった。
最後にアドルが呼んだのは、最悪の家族の名ではなくカイだった。
「ありがとうございました。もう一人の父上・・・」
カイは最後にそう言い、聖剣をアドルの体に突き立てる。
1
あなたにおすすめの小説
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。
柊
ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。
そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。
すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる