聖騎士は 愛のためなら 闇に墜つ

反逆

強き得物を持つが故の傲り

カイは露骨な挑発を行った。
以前からハルトは挑発には弱かったが、それでもこの時の彼は一層たやすくカイの挑発に乗ってしまった。

なぜなら、ハルトが今持っている得物であるラグナロクならば、カイが持っている聖剣とまともに渡り合えることができるという事実が、油断を引き起こしてしまっていたからだ。
前のハルトの聖剣ならば軽すぎてカイの剛刀とも言える聖剣と打ち合うことは不可能だっただけに、これは皮肉な結果となった。



「カイッ！！」


これまでのハルトならば、到底信じられないほどに大振りな太刀。正直すぎる挙動。
強力な得物を持つことで己が力を過信し、正常な判断力を失ったハルトに対して、カイはまるで脅威を感じない。


「バカ」


カイはハルトを嘲りながら、何の小細工もなくハルトの太刀を迎え撃つ。


キィンッ


「ッッ！！」


ハルトはカイに迎え撃たれ、その太刀の重さに体をよろめかせる。
いかに得物が優れていようと、それを振るうは人間。いかにラグナロクが強力な剣といえど、普段と慣れぬ得物を振り回して、百戦錬磨のカイとまともに戦えるわけがない。
規格外の得物を手に入れたことで、ハルトは無意識のうちに増長してしまっていたのだ。


「あっ・・・！」


そのことに気付いたハルトだが、時すでに遅しとしか言いようが無かった。
カイは追撃で聖剣を振るうが、既にバランスを崩されたハルトは満足に受ける体勢すら作れていない。

太刀を受けるので精いっぱいのハルトに対し、カイは上段から振り下ろす。


ガキィン


目前に迫るカイの太刀を、ハルトはすんでのところでラグナロクで受けた。
だが


バキン


「えっ」


何が起こったか理解する間もなく、ハルトの体をカイの太刀が斬り裂いた。


体から吹き出す鮮血。
崩れ落ちる体。

全てがスローモーションに感じるハルトに見えたのは、刀身の欠けたラグナロクの破片だった。


ドシャッ


ハルトの体が床に突っ伏す。

ラグナロクの力に傲り、戦術を見誤ったハルトはいとも呆気なくカイに敗北した。