聖騎士は 愛のためなら 闇に墜つ

反逆

最後を共に

「あ・・・が・・・・」


激痛でのたうち回るほどの余裕もないほどの傷を、ハルトは負った。
出血が多量であり、何も以上はこのまま死ぬことになるだろう。

ハルトの目の前には欠けたラグナロクが転がっている。ハルトは信じられないとばかりに目を見張ってそれを睨みつけていた。


「そん・・・な・・・馬鹿な・・・」


剣を握ってわかった。ハルトが持っていた剣は間違いなくラグナロクであると。
かつて自分が持っていた聖剣以上の力を、オーラを感じていた。

だが、ラグナロクはカイの聖剣に打ち負けた。


「どうして・・・」


歯を食いしばり、ハルトは身を起こそうとする。
立ち上がらなければならない。恋人マーサの復讐をしなければならない。

ハルトは武器を失ってもなお、その執念でカイに立ち向かおうとしていた。


ドゴッ


だが、ハルトは起き上がろうとするその体を思い切りカイに蹴とばされた。


「ぐぅっ！」


元より深い切り傷がある中での攻撃は、ハルトに気を失いそうなほどの激痛を与え、体は無様に床を転がった。

だが、それでもハルトは歯を食いしばって意識を留めた。


「悔しいか？イリスが刺されたときも俺は同じくらい悔しかったよ」


再度蹴り。


「っ・・・が・・・」


切り傷の上からの容赦ない蹴りに、ハルトは失神しそうなほどの激痛に見舞われる。


「あ・・・ぁぁ・・・」


口からよだれを垂らしながら、虚ろ目でハルトはカイを見た。
カイの目は怒っているような、憐れんでいるような複雑な色を帯びているように見える。


「どうだよ？反逆者と罵った男に恋人を殺され、あろうことか二度までも負け、こうして足蹴にされるのはよ？」


カイはハルトを罵るが、もう攻撃は足で傷口を踏みつける程度だった。これ以上やれば意識を完全に失うか、あるいは死ぬ・・・それがわかっていたからだ。



「まだ寝て貰っちゃ困るんだよな」


カイは懐から何かを取り出した。それは回復薬のポーションである。
それを微量、ハルトに無理矢理飲ませた。


「ぐっ、がはっ・・・！」


「吐くなよ。これがお前の命を救ってくれるんだからよ」


ポーションを投与されたことで、ハルトは先ほどよりも意識がすっきりしてきた。
斬られた傷はまだ大半が治っていないが、それでも致命傷ではないところまでは傷が塞がっていた。


「俺の恩人の特別性のポーションだ。良く効くだろ？お前にはまだ見てもらいたいものがあるんだからな」


「何・・・を？」


カイはハルトの質問には答えずに、ハルトの首根っこを掴んでそのままズリズリと引きずってた。
そして立ったのが、サンクレアの心臓を守る最後の砦である施錠された大扉である。


「サンクレアの最後だ。一緒に拝もうぜ」