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終焉

救いを求めた者と救われぬ者。

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「ラビス様・・・僕は、僕は・・・」


体に走る激痛に耐えながら、這うようにしてラビスに縋ろうとするハルトに対し、ラビスは冷たい目を向けるのみであった。


「これがお前が、いやこの国が崇拝してきたものの正体だよ。どれだけ心を砕いて盲信したところで、いざとなったら何も返しちゃくれねぇのさ。俺とイリスに対してそうだったようにな」


カイは面白おかしそうに笑みを浮かべながら言った。
国のために殉じようとし、死を待つ身になっても恨み言一つ言わずにいたイリスのことを救おうとする者は神都には誰もいなかった。


「彼女の魂は栄えある神の元に召され、その名は永遠にサンクレアに刻まれることだろう」


死んだあとの魂がそうであるか、栄誉が、そんな話ばかりで、死に向かおうとしているイリスを助けるという気のある者は誰もいなかった。

カイが欲していたのは救済だ。魂の安らぎだとか、栄誉だとか、そんな話はどうでも良かった。
例え無駄事でも、イリス救済のために親身になってくれる者が一人でもいたら、カイはまた違った道を歩んでいたかもしれない。
カイは『死』に対して抗うことなく、ただただ受け入れようとするサンクレアの民の脆弱な気質に絶望したのだ。


イリスを前にして、アドルもハルトも気まずそうに目を伏せるだけ。それもまたカイを失望させた。
共に戦ってきた仲間でさえ、『死』を前に抗おうとはせず、神の定めだと軟弱なことを考えているのだと。

心のよりどころを失ったカイは何にでも縋ろうとした。だが、ほんの僅かにでも縋れる物すらサンクレア・・・ラビス教には無かったのだ。
唯一縋れるのはサンクレアの禁忌とされていた、封魔殿にあった古の書物のみ。
書物はただのインチキだったようだが、それでも結果としてベルスという縋れる存在が現れた。
しかもイリスを救う方法があるという。

ベルスが例え詐欺師でもどうでも良かった。
嘘でもイリスを救うことを約束してくれたベルスこそが、カイの心の拠り所だったのだ。


「なぁ、ハルト。お前、このままじゃもう死ぬしかないけどさ。こうなれば後は何に縋る?それとも諦めて死を受け入れるか?神のために死ぬなら、魂は救われるんだろ?それは最高の栄誉なんだろ?どうだ?お前の心は救われたか?なぁ?」


カイは狂喜の笑みを浮かべながら、這いずるハルトを足蹴にした。
ハルトは残酷な現実に打ちのめされていたが、しかしそれに対してカイが更に追い打ちをかける。


「ところでさ、大前提からして間違っている気がするんだけどな・・・そこにいる奴は、多分『神様』じゃないと思うぜ?」


「えっ・・・?」


カイの言葉に、ハルトは痛みも忘れて呆然とした。
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