新訳・親友を裏切った男が絶望するまで

はにわ

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ノープラン

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王都を発ってややもしないうちに俺はディオとこれからについて打ち合わせをすることにした。
まさか単身このまま真っすぐ魔王山へ突っ込むわけではないだろうから、どんなプランを持っているか聞いておきたかったのだ。
本当ならすぐにでも聞きたかったのだが、王都では完全にディオのお見送りな雰囲気になっていたし、俺もあんな風にカッコつけてディオに合流してしまった以上、出発せずにその場で打ち合わせをするのも何かカッコつかなかったからだ。
俺のこういう、周りの空気を読み過ぎてしまうところ、ちょっと何とかしよう・・・。


「ファッ!?まさかノープランだったのか!」


ディオからの返答は見事なノープラン。とりあえず魔王山へ行くつもりだったらしいが、そこまで猪突猛進じゃなくても・・・。
いくら俺とディオがルーチェ国でトップを競った実力を持っているといっても、たった二人だけで魔族の本拠地である魔王山へ突入するのは気が引けてしまう。
ディオは何だかんだ悪運の強いやつだから、もしかしたらなんとかなってしまうのかもしれないが、ついていく俺はそんな悪運なんて持ってないだろうし、今回もいつものようにディオの悪運を発揮するかはわからない。

魔王山へは修行のときに行ったこともあるが、あの時はちょっと戦って満足したら戻ってくれるということができた。
だが、今回は魔王山のどこかにいるというアリス様を救出しなければならないのだ。きっと敵陣深くまで潜らないといけないし、いろいろと準備も要るだろう。
ていうか情報が足りない。俺達が修行で行ったときはあまり深くまで突っ込んだわけじゃないし、地理もどんな魔族がいるのかもろくにわからないのだ。
流れで魔王山に行くことになったのは仕方がないが、せめて救出成功のための確度は上げておきたい。
せっかくカッコよく発ったのに、また王都に情報収集のために戻るのも恥ずかしいな・・・


「誰か知ってる人いるかな・・・いるわけないか・・・  ん、あれ?」


考えを巡らせていると、ふと心当たりが浮かんだ。
いるぞ。魔王山の様子も、魔族のことも、果ては魔王のことまで知っている人がいる。


「よし、ディオ。急がば回れだ。寄り道をしていかないか」







----------




俺達が出向いたのは王都から北にある雪山だった。
ちなみに魔王山は遥か東に位置するところにあるので、遠回りどころの話ではない。
だが、この雪山には魔王山攻略の鍵があるのだ。


「ここだな。かつて20年前に魔王を倒した勇者が隠居しているという山は」


俺の言葉にディオは頷いた。

20年前に魔王を倒した勇者はルーチェ国の英雄としてもてはやされたという。
だが勇者は王都に居着くことはなく、今は俗世を離れたこの地に籠っているのだという。理由はわからない。
大自然の中に身を置き、己を高めるためだというのもあれば、大失恋をしただとか、国王とそりが合わなかったとか、借金を重ねて逃げただとか、様々な憶測が憶測を呼んだが、結局真相は明らかになっていない。
勇者が魔王を討伐したのは俺とディオが生まれる前の話なので、俺達も人づてにしか聞いたことの無い話だ。
そんなわけで伝説の中でしか存在を知らない勇者だが、魔王を倒したことがあるということは事実だろうであるだろうから、その魔王山のことを何か聞ければと思って訪ねてみようと思ったわけだ。
俗世間から離れて生きるということは、少しは変わり者かもしれない。しかし元は勇者様だったわけだから、話くらいは聞いてくれるはずだ。


「さて、行くか」


俺とディオは雪山を昇り始めた。
雪には真新しい足跡が複数あった。俺達以外にも雪山に昇った人間がいるらしい。


「もしかしたら騎士団かもしれないな」


俺はなんとなくそう思った。未曾有の国の危機に、かつての勇者の力を借りたいと思うのは当然といえば当然だ。使える手は何でも使う。今の王城はなりふりなんて構っていないだろう。

そんなことを考えながら進んでいると、何度か魔族の襲撃に遭った。俺やディオにかかればあしらえる程度なのだが、それでも強力な部類といえばそういえるだけの力をもった魔族だ。
そのような場所なので、やはりというかなんというか嫌なものを見てしまうことになった。


「もしもし」

「・・・・・・」


返事がない。ただの屍のようだ。

ルーチェ国騎士団の身なりをした死体が複数転がっていた。麓から続いていた複数の足跡がこの現場で途絶えているので、どうやら勇者を訪ねたと思われる騎士団はここで全滅したようだ。

「これは思った通りにはいかないかもしれないな」

当初、俺は苦労してでも勇者に会えば、簡単に話くらいは聞いてもらえると思っていた。
だがそうはいかないかもしれない。

こんな危険な場所に一人引きこもっている人間がマトモなわけがないからである。
そして実際に俺は勇者から協力してもらうのに苦労することになるのであった。
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