新訳・親友を裏切った男が絶望するまで

はにわ

文字の大きさ
24 / 92

ルーチェ昔話その7 ~バリー目線~

しおりを挟む
魔王を倒してから8年が経過した。

私ははるか前からだが、すっかり勇者としての威厳の持つために一人称が「私」で固定された。ウラエヌスと会うときくらいは「俺」と言っていたのだが、それをプレスにすっぱ抜かれそうになったため、いつでもどこでも勇者らしくあるべきと思いそうした。
ウラエヌスは一人称が「わし」になるくらい老けてきた。じいさんキャラとしてやっていくらしい。そこまでの年じゃなかった気がするが、僧侶で元勇者となるとそのほうが威厳が出るからそうしたいらしい。なるほどわからん。

だが、一つこの国で大きな変化が訪れ、それによって更なる変化を我々は強いられることになった。

「ナオール草?」

「左様。それが新しく発見された薬草の名じゃ」

私とウラエヌスが酒場で飲んでいたとき、彼から近頃ルーチェ国内でのみ発生する新種の薬草が発見されたと聞いた。名をナオール草というらしい。

「これまでにあった気休め程度の薬草ではなく、初級の回復魔法くらいの効能を持つ革新的な薬草じゃ。雑草のように強く、どこにでも生える。何度でも生える。群生地の再生力ときたら、全て採取してもふと目を離せばほとんどがまた生え直しているようだ」

「そんなバカな」

「それが本当にあるんじゃよ。ここ数年、ちらほら見かけた程度だったんじゃが、今はそこら中で見かけるようになった。ルーチェにしか存在しとらんから、もしかしたら魔王山からの瘴気の影響で育っているのかもしれんの」

「怖っ」

「実際に魔物の一種なのではないかという説もある。だが、怖いのは確かじゃな。今この国では回復術師の需要が無くなりつつある」

なるほど。確かにそこら中に生息する薬草が初級回復魔術ほどの効果があるのなら、中途半端な回復術師など必要ないということになる。そうして失職した回復術師が、今どんどん国外に職を求めて出ていっているらしい。

「採取してから時間が経つとどんどん薬草としての効果が失われてしまうようじゃ。だが、隣国くらいなら輸出してもまだ効能は半分弱ほど残るらしい。それでも需要はあるから、ルーチェ国としてはこれからどんどんナオール草を輸出して外貨を稼ぐそうじゃ」

国からしてみれば降ってわいた金の種、まさに神からの祝福であろう。
だが、回復術師として生計を立てていた者は職を追われることになった。皮肉な話だ。

「ならウラエヌスはどうなるのだ?」

ウラエヌスもなまぐさだが僧侶で回復術に長けている。それを生かして冒険者に随伴して指導するなどといった仕事をしていたはずだ。

「まだまだナオール草なんぞにはわしの仕事は奪われんわい」

ウラエヌスが怒る。
確かに彼の超がつく上級回復術は薬草などでは代用できないだろう。

「じゃがのぅ・・・まぁ、ちょっと思うところもあるので、しばらく隣国の冒険者に交じってみようかのぅ」

「えっ?」

「そんなわけでバリー。ルーチェのことは頼んだぞい。わしはちょっと国を出る」


そう言った翌日にウラエヌスは本当に国を出ていった。

それから数か月しないうちにナオール草は知らぬ者はおらぬほど爆発的にルーチェ国に普及した。これによって腕の半端だった医者、回復術師が職を失い、国を出ていくか転職をすることになった。

だが私はあくまで無関係だとタカをくぐっていた。
しかしそんなはずはなかったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...