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無力を感じる ~騎士団長目線~
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私の名はミカエル・シューマッハ。
ルーチェ国の騎士団長をしているが、今このときほど自分が不甲斐ないと思ったことはない。
今日、次期国王たるディオ様がかつて勇者として魔王を倒したウラエヌス様を連れて王城へ帰ってきた。
聞くと魔王を倒したものの、アリス様は見つけられなかったとのことで、二人の表情は暗かった。また一緒に魔王討伐に出た勇者バリー様も戦いにより亡くなり、他に同行していたあの武闘会で準優勝を果たした優秀な魔術使いレイツォも事故により行方不明とのことであった。
魔王を倒したことは喜ばしいことだが、アリス様は見つからず、討伐メンバーの半数を失ったとあってはお二人の心情は察してあまりあるものがある。
国王様も労いの言葉をお二人にかけし早めに休むようにとおっしゃっていたが、アリス様の安否が心配で仕方がないのかご自身も早々にお休みになられてしまわれた。
私は自分が情けなくて仕方なく思う。
今も王城は先日の魔族の襲撃による城の被害のケアで手一杯であり、魔王討伐には何一つ貢献することが出来なかった。故に魔王に関しては全てをディオ様に丸投げしてしまう形で託してしまったが、こうして傷ついて帰ってきた彼らに対し、自分は気の利いたことの一つも言えない、私は実に無力だ。
せめてもの力になればと、明日は世が明けてからディオ様を隊長とした捜索隊を魔王山へ派遣することになった。私に出来ることはそれくらいと思い、足りない人手からなんとか振り絞って派遣する騎士を確保した。
この捜索でアリス様が見つかれば良いなと思う。
そうすれば後は魔王討伐という勇者バリー以来の快挙を成し遂げたディオ様がこの傷ついたルーチェを立て直してくれることだろう。我々はディオ様について全力でそれについて行けば良い。
それでこの国は安泰だ。
私はそう思い、明日からまた忙しくなると床に着こうとしたときだった。
『お前はそれでいいと本当に思っているのか?』
どこからか声がして目を開ける。
ここは騎士団長たる私に与えられた個室で今は当然一人しかいない。部屋の壁とて決して薄いものでもない。だから他の人間の声など私の耳に入ってくるはずがなかった。
空耳か?そう思い、再び私は目を閉じた。
『なぁ、お前は本当に今のままで良いと思っているのか?』
また声がした。
ハッとしてまた周囲を見回すが、誰もいない。
『お前は今のままディオに全てを委ねてしまって、本当に良いのか?本来のお前はそう考える人間ではなかっただろう?』
また声がする。
わかった。この声は私の頭の中に直接語り掛けてきている。
「一体なんだ、なんなんだこの声は」
私の問いかけを謎の声は無視をした。
『お前はアリスを娶り、国王になるのが望みであっただろう?それをディオのような平民上がりの男に譲ってしまっても良いのか?由緒正しき高位貴族であるお前を差し置いて』
謎の声は私に悪魔のように囁いた。
よせば良いのに、私はその声に耳を傾けてしまった。
ルーチェ国の騎士団長をしているが、今このときほど自分が不甲斐ないと思ったことはない。
今日、次期国王たるディオ様がかつて勇者として魔王を倒したウラエヌス様を連れて王城へ帰ってきた。
聞くと魔王を倒したものの、アリス様は見つけられなかったとのことで、二人の表情は暗かった。また一緒に魔王討伐に出た勇者バリー様も戦いにより亡くなり、他に同行していたあの武闘会で準優勝を果たした優秀な魔術使いレイツォも事故により行方不明とのことであった。
魔王を倒したことは喜ばしいことだが、アリス様は見つからず、討伐メンバーの半数を失ったとあってはお二人の心情は察してあまりあるものがある。
国王様も労いの言葉をお二人にかけし早めに休むようにとおっしゃっていたが、アリス様の安否が心配で仕方がないのかご自身も早々にお休みになられてしまわれた。
私は自分が情けなくて仕方なく思う。
今も王城は先日の魔族の襲撃による城の被害のケアで手一杯であり、魔王討伐には何一つ貢献することが出来なかった。故に魔王に関しては全てをディオ様に丸投げしてしまう形で託してしまったが、こうして傷ついて帰ってきた彼らに対し、自分は気の利いたことの一つも言えない、私は実に無力だ。
せめてもの力になればと、明日は世が明けてからディオ様を隊長とした捜索隊を魔王山へ派遣することになった。私に出来ることはそれくらいと思い、足りない人手からなんとか振り絞って派遣する騎士を確保した。
この捜索でアリス様が見つかれば良いなと思う。
そうすれば後は魔王討伐という勇者バリー以来の快挙を成し遂げたディオ様がこの傷ついたルーチェを立て直してくれることだろう。我々はディオ様について全力でそれについて行けば良い。
それでこの国は安泰だ。
私はそう思い、明日からまた忙しくなると床に着こうとしたときだった。
『お前はそれでいいと本当に思っているのか?』
どこからか声がして目を開ける。
ここは騎士団長たる私に与えられた個室で今は当然一人しかいない。部屋の壁とて決して薄いものでもない。だから他の人間の声など私の耳に入ってくるはずがなかった。
空耳か?そう思い、再び私は目を閉じた。
『なぁ、お前は本当に今のままで良いと思っているのか?』
また声がした。
ハッとしてまた周囲を見回すが、誰もいない。
『お前は今のままディオに全てを委ねてしまって、本当に良いのか?本来のお前はそう考える人間ではなかっただろう?』
また声がする。
わかった。この声は私の頭の中に直接語り掛けてきている。
「一体なんだ、なんなんだこの声は」
私の問いかけを謎の声は無視をした。
『お前はアリスを娶り、国王になるのが望みであっただろう?それをディオのような平民上がりの男に譲ってしまっても良いのか?由緒正しき高位貴族であるお前を差し置いて』
謎の声は私に悪魔のように囁いた。
よせば良いのに、私はその声に耳を傾けてしまった。
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