新訳・親友を裏切った男が絶望するまで

はにわ

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進むも地獄、戻るも地獄  ~騎士団長目線~

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私の名はミカエル・シューマッハ。ルーチェ国の騎士団長にして暫定国主。
私は国王の政務室にて部下の報告を聞いていた。


「そう・・・か、捜索隊第三波も未帰還か」


「はっ!いかがいたしましょう」


「無論、次の捜索隊を出すまでだ。明後日・・・いや、明日までに人数を更に倍に増やして編成しろ」


「倍・・・しかし、もうそれほど編成出来るほど余剰兵員は・・・ 既に城の警備隊も手薄になりつつあります」


「もはや魔王はいないのだ!魔族も攻めてこぬだろうし、警備など薄くともどうとでもなる。貴族、平民身分に関係なく何とか人数を絞り出せ。高位貴族を組み込んでもかまわん。任務拒否を目的とした自分からの除隊は認めないとも伝えろ」


「はっ!」


私が怒鳴ると、部下は慌てて敬礼をして部屋を出ていった。
ここ数日、このようなやり取りばかりが続いている。原因はアリス様捜索のための捜索隊が、派兵しても全滅、もしくは壊滅状態で戻ってきてしまうことだった。

そう、アリス様捜索に難航しているのである。
魔王を倒したのだから、魔族の戦意も落ちているだろうと皮算用して乗り込んだところ、全然そんなことはなく魔王山付近まで接近してところで現地の強力な魔族にコテンパンにされてしまうというのだ。

我がルーチェ国の騎士団は残念ながら、上級騎士でも魔王山の強力な魔族と戦って勝てる者は少ない。この私でもやっとのことで倒せるレベルである。魔王山の邪気をたらふく食って育った強力な魔族相手には一般兵を何人つぎ込んだところで勝てるはずもないのだ。
・・・そう、これはもはやアリス様捜索以前の問題なのである。


「はぁ・・・なんてことだ」


失策も失策。私はディオを拘束し、挙句結界に押し込めてしまったことを後悔している。
ディオが魔王山から帰ってきた日にアリス様捜索隊を翌日に出すと話をしたとき、我々が余裕のない兵力から何とか捻出しようとしてでも捜索を行おうと思ったのは、ひとえに魔族と戦えるディオがいたからだ。なんだか場の空気に酔ってしまったせいかすっかり忘れていた。

その夜のうちに陛下暗殺事件があったとはいえ、即刻ディオを処刑することを決めたのは早計であったと悔いている。罰としてアリス様捜索の手助けくらいはさせて良かった・・・いや、そうするべきだったかもしれぬ。
その後は無期懲役、もしくは鉱山奴隷として遠方の地へ送ってやれば良かった。私の覇業の邪魔者を消したい一心で、とんでもなく短絡的なことをしてしまったものだ。

恐らく、今度派兵する捜索隊も全滅するだろう。
このままでは私の求心力の低下が深刻なところまで来てしまう。・・・いや、これまで熱い視線を向けてくれたメイドや、部下の騎士達の私を見る目が冷たいし、出される食事も囚人が食うような粗末なものになっているから既に求心力の低下は始まっているのだろう。

しかしアリス様の救出という実績がなければ、私が国王となることも難しいかもしれない。進むも地獄、留まるも地獄、何をしていても地獄だ・・・


そんな私の絶望を更にかきたてることが起きた。


「閣下!ディオが結界を破り脱走しました!!」


「な、なんだってーっ!?」

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