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聖アリスティア
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俺とディオは魔族を片付け終わると、アリスの消えた方向へ向かって走った。
首尾よく片付いたとはいえ、随分と時間がかかってしまった。既にもう魔王山にはいないかもしれない・・・
そんなことを考えていながら走っていたが、それは杞憂に終わった。
アリスは魔王山の自室のバルコニーにいたのだ。遠くルーチェ城を見渡すことの出来るあのバルコニーだ。
「景色でも眺めて楽しんでいたのか?」
ホッとするあまりつい軽口を叩いてしまう俺。
外を見ると今にも雷がきそうなほどの分厚い雲がルーチェ城までかかっていて、決して眺めている気にはなれないような天気だった。
「えぇ、そうです。景色を見て楽しんでいたんです。この景色を見られるのも最後だから」
アリスは俺の問いに、綺麗な笑顔を浮かべてそう言った。相変わらず美しい顔だが、その心の内のカオスさを知ってしまった今となってはただ恐ろしい。綺麗な薔薇には棘があるなんてもんじゃない。
「覚悟しろ、アリス」
ディオは問答は無用だとばかりに剣を構えた。
俺も詠唱を口にしようとする。そのときだった。
「せっかちさんですわね。私、とっても面白い余興を用意しましたの。それを見てからにして下さりませんか?」
「・・・は?」
コロコロと笑いながらそう言うアリスに、俺は思わず間抜けな返答をしてしまう。
「余興なら既にたっぷり楽しんださ」
先ほどの魔族との戦闘を思い出して俺は言った。
「そうおっしゃらないで。まだ力に慣れてなかったけど、ようやく慣れて準備も出来ましたの。貴方がたがここに来られるまでに間に合えばと思いましたが、間に合って良かったですわ」
準備?何のことだと思ったが、そこでようやく俺は気付いた。分厚い雲が空を覆っていると思っていたが、その雲から魔力を感じるのだ。
「あの雲・・・まさかアリスが!」
ディオも気付いたようだ。空を覆っている雲は、自然に出来たものではなくアリスが魔力によって生み出したもの・・・雷系の魔術の超上級のものと考えて間違いないだろうか。
「そう。これより私の雷を、ルーチェに降らせることにします。王都はこれにて灰になるのです」
「なんだと!?」
アリスは微笑みを絶やさぬまま、バルコニーから飛び降りた。
と、思ったら、俺は使ったのと同じ浮遊魔術で宙に浮いている。どうやら本当に力が彼女に馴染んできたようだ。
「私の期待を裏切ってきたあのルーチェはもう要りません。消えてもらうことにします。その後に新しく都を建ててましょう。名は私の名にちなんで『聖アリスティア』なんてどうでしょう?住民は魔族しかいませんが。ウフフ」
それのどこが聖なんだ・・・
駄目だこいつ早く何とかしないと・・・
「さぁ、余興の開始です」
アリスがサッと右腕を上げた。
稲光がし、俺の知る最大の雷魔法の倍以上な規模の雷が、ルーチェ城に落ちようとしていた。
首尾よく片付いたとはいえ、随分と時間がかかってしまった。既にもう魔王山にはいないかもしれない・・・
そんなことを考えていながら走っていたが、それは杞憂に終わった。
アリスは魔王山の自室のバルコニーにいたのだ。遠くルーチェ城を見渡すことの出来るあのバルコニーだ。
「景色でも眺めて楽しんでいたのか?」
ホッとするあまりつい軽口を叩いてしまう俺。
外を見ると今にも雷がきそうなほどの分厚い雲がルーチェ城までかかっていて、決して眺めている気にはなれないような天気だった。
「えぇ、そうです。景色を見て楽しんでいたんです。この景色を見られるのも最後だから」
アリスは俺の問いに、綺麗な笑顔を浮かべてそう言った。相変わらず美しい顔だが、その心の内のカオスさを知ってしまった今となってはただ恐ろしい。綺麗な薔薇には棘があるなんてもんじゃない。
「覚悟しろ、アリス」
ディオは問答は無用だとばかりに剣を構えた。
俺も詠唱を口にしようとする。そのときだった。
「せっかちさんですわね。私、とっても面白い余興を用意しましたの。それを見てからにして下さりませんか?」
「・・・は?」
コロコロと笑いながらそう言うアリスに、俺は思わず間抜けな返答をしてしまう。
「余興なら既にたっぷり楽しんださ」
先ほどの魔族との戦闘を思い出して俺は言った。
「そうおっしゃらないで。まだ力に慣れてなかったけど、ようやく慣れて準備も出来ましたの。貴方がたがここに来られるまでに間に合えばと思いましたが、間に合って良かったですわ」
準備?何のことだと思ったが、そこでようやく俺は気付いた。分厚い雲が空を覆っていると思っていたが、その雲から魔力を感じるのだ。
「あの雲・・・まさかアリスが!」
ディオも気付いたようだ。空を覆っている雲は、自然に出来たものではなくアリスが魔力によって生み出したもの・・・雷系の魔術の超上級のものと考えて間違いないだろうか。
「そう。これより私の雷を、ルーチェに降らせることにします。王都はこれにて灰になるのです」
「なんだと!?」
アリスは微笑みを絶やさぬまま、バルコニーから飛び降りた。
と、思ったら、俺は使ったのと同じ浮遊魔術で宙に浮いている。どうやら本当に力が彼女に馴染んできたようだ。
「私の期待を裏切ってきたあのルーチェはもう要りません。消えてもらうことにします。その後に新しく都を建ててましょう。名は私の名にちなんで『聖アリスティア』なんてどうでしょう?住民は魔族しかいませんが。ウフフ」
それのどこが聖なんだ・・・
駄目だこいつ早く何とかしないと・・・
「さぁ、余興の開始です」
アリスがサッと右腕を上げた。
稲光がし、俺の知る最大の雷魔法の倍以上な規模の雷が、ルーチェ城に落ちようとしていた。
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