トウジンカグラ

百川カサネ

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1話 邂逅編

5 口淫※

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 ぴぃ――――……ひょろろ――――……

「っん、ふ、ぅ」

 遠くこだまして広がる鳶の声に、淫奔な嘆息が忙しなく重なっている。

 伊角の視線の先で、枯れ野に似たざんばらな髪が揺れていた。ちいさく上下しては鼻から抜ける吐息を漏らしている。重なるようにぐぽ、くちゅと、聞くに堪えない粘ついた水音が重なっていた。
 見上げれば青く青く抜ける空。白が霞を撫で乗せて、あまりにも長閑だった。旋回して去っていく鳶の影を見送って、伊角は場違いにも考える。遂に目にした七宝の美しさと威容とに感じ入っていたのは一体どれほど前のことだっただろう。日の高さは然程変わっていない。

 空から視線を転じ、伊角は眼前の現実を見つめる。相変わらずざんばら頭が上下して、そしてその度にあらぬところに刺激が奔っては伊角の内腿が震えた。

「ぷぁ、は……ァ、は」

 ざんばら髪を乱し、のったりと顔が上がる。完全に熱に熔けた黄金の瞳と、最早や緩みきった口元。その端からは粘ついた液を零している。追ってはみ出た真っ赤な舌先が、ねろりとそれを掬い上げた。

 尋常ならざる膂力で伊角の兵を斬り伏せたあの男――火群が、伊角の股の間に顔を伏せていた。

 伊角の屹立にちいさく舌先を伸ばし、ねとねとと光る液を舐め啜る。ちゅると奇妙に甘やかな音が響く。
 晒された白い喉が隆起し、飲み下すのも待ちきれぬとばかりに火群は首を伸ばした。でっぷりとして真っ赤に熟した果実のような雄の先端に唇をつけ、ちゅ、ぢゅうと管の中身を吸い上げる。かと思えば平べったく開いた舌で雁首から先端まで舐め上げ、そうかと思えば裏の筋や浮いた血管を辿りながら根元に降りていく。そのまま小首を傾げて鼻先を伊角の下生えに埋め、ふうふうと荒く息を吐いていた。
 伊角の草摺くさずり佩楯はいだてもあの尋常ならざる膂力で剥ぎ取り、引きちぎらんばかりの勢いで袴に手を差し込んだ火群はもうずっとこうしている。売女でもここまでではあるまいと、まるで乳を求める赤子のように伊角の陽物を舐めしゃぶり啜り育て上げている。

 それだけではない。ぐぽ、ぬぽと混じる音は口淫からのものだけではなく、更に下からも響いている。伊角の雄をしゃぶる傍ら、火群は己の片手を尻へとやっていた。捲り上げ引っかかる程度の裾の奥でひっきりなしに手を動かしては粘ついた音を響かせ、時折びくんと腰を跳ねさせている。

 伊角も一国の主であるからして、衆道の嗜みはある。何がどうしてこの男が行為を始めたのかはとんとわからないが、恐らくかつて色小姓と戯れに耽った行為と同じものなのだろうとは思う。
 だがあまりにも違う。かつての少年たちは主に差し出すために、主の悦ぶように婀娜っぽく笑い、奉仕し、伊角の望むがまま身体を開いた。幾度か彼らを平らげたが、子こそないものの妻も側室も持つ伊角からすればやはり女の方がいい。むっちりとして柔らかくどこもかしこも男を包むようにできている女の身体の方が、締まりがいいだけで抱くのに手間もかかる硬い男の身体よりも良いに決まっている。

 そう思っていたのだ。だが、だが――これは、何だ。

「ん、ん、ン、んッ、んふっ」

「ッく、ウ」

 小刻みにざんばら頭が上下し、ぢゅぽぢゅぽぢゅぽと粘ついた音が高く響く。伊角には奥歯を噛み締めるのが精一杯で、解放を求めて浮き上がる腰を止めることもできない。それも火群の肘が押さえ込んでしまいもどかしさが募るばかりだった。
 口淫とはこれほどまでに快楽の強いものだったか。女にも男にも迫ったことはあるが、伊角にとっては中に押し入れるために勃たせる程度のものだ。強いてきた相手も伊角が求めるから応じるか奉仕の手順の一つとして施すばかりで、中にはひっそりと顔を顰める者もいた。

 だというのに、この男は。眉間に力を込めながら見下ろせば火群は陰部に懐いている。如何にも旨そうに目を細め、吸いつき、自ら頭を振りかぶって、己の下肢まで慰めながら。
 伊角など知らぬとばかりに、只管、己の欲の赴くまま。だというのにこれまで伊角に奉仕してきたどの女よりも男よりも、悦い。生き物のように絡みつく舌は熱く、口内はねっとりと潤んで、驚くほど奥まで呑み込んでは女の膣のように締めつけてくる。

「ん゛ぶ、ゥ――……ん、ンッ」

「くぁっ――ぉ、あッ!?」

「ぉご、ふッ――……あ、はッ、はは」

 射精の寸前にずるんと引き抜かれ、思わず伊角の喉から堪えていた声が漏れた。
 伊角の先走りで淫らに唇から顎までを汚した火群は嗤う。筒状にした指で喉奥まで咥えていた雄を掴み撓む皮をぬくぬくと弄びながら、伏せていた身体を起こしている。纏わりついて剥がせないほどに熔け煮詰まった黄金の瞳は細く撓り、どろどろと渦巻く真ん中に伊角を捉えている。

「あハ、ほんと、っん……アンタが思ったより若くて、よかったよなァ」

 伊角は、捕らえられている。伊角の雄で遊ぶ指先はそのままに、火群はもう片方の手でもそもそと己の下衣を探っていた。
 直に背筋を伸ばし、火群はのったりと膝を立てた。着物の裾をからげるようにして捲り上げ、薄く砂の貼りつく足のしなやかな細さと白さを存分に晒していた。鬱陶しそうに取り払われた褌はその辺に引っかかり最早何の用も成さない。

 ごくりと、飲み下す音。それは伊角の喉から漏れている。視線の先には火群の隠されるべき場所が詳らかになっている。その奥が、伊角の視線を惹きつけて放さない。
 熟れたように赤く染まった秘孔が、くぱり、くぱりと息づいている。手を伸ばして慰めているとは思っていたが、陽物ではなくこちらを穿っていたのだと一目で知れた。

「どっかの、なんか、エライ? やつ? ってババアが言うからさァ。今までもそんなんばっかだったし」

 伊角の視線に気づいているのか、火群は世間話でもするかのように軽口を叩いている。その指先はにゅぽんと伊角の雄を扱き上げて、手のひらに薄く纏わる先走りを指先で伸ばしては遊んでいた。

「でも年寄りだとさァ、勃つにも、ッン……イくにも、めったやたらに時間かかったり、ぁ」

 そのまま、伊角のもので濡れそぼった指を露わになった秘奥へと伸ばす。ほんの刹那の抵抗を見せて、細くも無骨な火群の指は自身の裡へと潜っていった。
 ぐちゅ、ぐちゅんと潤んだ音を立てて出入りし、熟れた縁を僅かに捲り上げては奥へと呑み込む。ひと息に三本を根元まで挿し込んでは抜いて、開いては縁を伸ばしていく。くぱりと開くそこは内側の赤を白日に晒し、くぷ、と奥に塗り込められた粘りを涎のように垂らした。

「そのクセ挿入れたら挿入れたで、ん、ゥ、ねちこくって、さァ」

 薄い尻がくっと突き出される。滑らかで張りのある尻の肉に陰茎が滑り伊角は息を詰めた。
 少し動かせば、あの赤くいやらしく誘う孔に潜り込む。されど相変わらず身体の主導権は伊角にはない。僅かに腰を揺らすことしかできず、火群は可笑しそうにその動きを見ていた。
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