たかが先輩、されど後輩。

うかかなむらる

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第11話「聖なるこの日に」

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 一抹の混乱。今、食べさせて……と?先輩はひな鳥のように、口を開けて待つ。俺は小さな椅子を持ってきて、ベッドの横に置いて座った。少し冷まして、樹さんの口に運ぶ。
「美味しい。優真くん、本当に料理が得意だよね。」
「そうですか?ありがとうございます。」
俺から器を受け取り、ばくばく食べる樹さんを見て、俺は思わず顔をほころばせた。
 おかゆを食べ終えた先輩は、俺にこう言った。
「3時間後にまた熱を測りにきてくれない?それまでは、優真くんの家に、帰ってもいいし、俺の家で、ゆっくりしててもいいよ。何も無いけど。テレビは、勝手につけて、いいからね。」
「わ、分かりました。」
俺は結局のところ、心配で帰ることなどできず、樹さん家のテレビで、クリスマスの特番を見た。

   3時間後。熱を計りに行く。樹さんは、眠っていた。少し息が荒い。
「樹さん。」
樹さんは、ゆっくり目を開けた。そしてまた手を挙げる。お腹のあたりは、小刻みに震えていた。
「寒いですか?」
「うん。この部屋は、あったかいんだろうけど、体の中が、寒い。」
再び、手ごと挟まれる。

ピピピピ

「39度5分です。」
「熱、上がってるね。っけほ、けほっ。」
樹さんは、力なく咳き込んだ。
「だ、大丈夫ですか?」
「う……喉乾いた。」
「あ、はい!どうぞ。」
先輩は起き上がり、俺は、ペットボトルを開けて渡した。
「……飲めない。」
力がうまく入らないらしい。風邪が酷くなっている……。
「優真くん、ここに、座って。」
樹さんは、さっきの椅子を指差しながら言った。
「はい。」
俺が樹さんに向かって垂直に座ると、先輩は俺にポカリを渡し、俺にもたれかかった。樹さんの頭が俺の左胸に……。し、心臓の音が漏れそう。
「……飲ませて。」
下から俺を見上げる樹さんは、先輩より10cmも小さい俺にとって、新鮮な光景だった。俺は、左手で樹さんを支え、右手でゆっくりとペットボトルの口を樹さんの唇につけた。俺の心臓は、大きな音を立てたままだ。
「か、傾けますよ。」
慎重にペットボトルを傾ける。
「飲めました?」
「……うん。」
先輩は、なかなか戻ってくれない。お、俺の心臓が持たない。理性、働け。仕事しろよ。絶対に。何も思うな。何も考えるな。樹さんは病人。理性くん、聞こえる?大丈夫?仕事してね?
「……頭痛い……寒い……。」
俺の体に、樹さんの重さがさらにかかる。俺の腕の中で、樹さんの息はさらに荒くなっていた。
「……ベッドに寝ましょう。」
俺の理性も限界なんです。
「……嫌。」
「ダメです。」
「……けち。」
俺は、樹さんをベッドに寝かせた。樹さんはすぐ、眠りについた。
 俺が、椅子に座ったまま樹さんの寝顔をただただ見つめ続け、1時間が経過した。今日は、色々なことがあった。しかも、なぜか今日は"優真くん"って名前呼びだ。でも……俺は所詮、樹さんの部活の後輩に過ぎないんだ。先輩にとって、それ以上でも、それ以下でもないだろう。そして、同性だ。俺が特別な感情を抱いていることは、誰にも知られてはいけない。もちろん、樹さんにも。俺だけの秘密だ。……そんな事を、色々と考えていた。
 熱は、なかなか下がりそうもない。しかし、樹さんは汗をかき始めていた。汗が出るのは熱が下がる前だったような。
「うっ……。」
ふと、樹さんが呻いた。
「だ、大丈夫ですか!」
俺が思わず出した声に、樹さんが目覚める。
「はぁ……はぁ……優真くん……ずっと、いたの……?」
「あ、は、はい。大丈夫ですか?」
「はぁ……寒い……。」
虚ろな目で、樹さんは俺に手を伸ばした。
「……ほっぺた、ちょうだい。」
ほ、ほっぺた?俺は、先輩の手の近くまで顔を寄せた。樹さんはそっと俺の頬を触った。不覚にも、ドキッとする。手が、すごく冷たい。
「……あったかい……ね……。」
今度は、反対の手で俺の手を握った。俺の心臓は大きな音を響かせる。
「……あったかい。……はぁ、はぁ…………くる、しい……。」
樹さんの意識が遠のいていくのが分かる。
「い、樹さんっ。」
救急車を呼びに行こうと俺が動きかけた、その時。樹さんが、頬を触っていた手で俺の首を掴んで、自分の顔の近くに寄せた。俺はバランスを崩し、ベッドに手をつく。顔と顔の間には、わずか十数cmしか無かった。
「い、樹さん……?」
樹さんの熱い息が、俺の顔にかかる。
「優真くん……。」
樹さんは、顔をさらに近づけた。至近距離で名前を呼ばれ、息が止まりそうになる。
「ゆうま、くん……。」
首を掴んでいた手は、今度は俺の頭の後ろに動いた。
「……風邪……うつしてもいい?」
唇が、触れた。






I wish them happiness…

Thank you for reading!!
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