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26.「好き」?

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 祭りが終わって、会場を出る。
「家まで送るね。」
「だ、大丈夫だよ。」
「ううん。」
まだもう少しだけ瑞木さんと居たい。そして、を確かめたい。
「楽しかった。ありがとう。」
「うん!私もすごく楽しかったよ!それに……佐和田くんが、私に胸の内を明かしてくれて、それから本当の意味で楽しんでくれたのも、嬉しかった。」
「……ありがとう。」
「さ、佐和田くんが楽しんでくれないと、私も楽しめないしね。……つ、次は、いつ遊ぶ?やっぱりみんなでも遊びたいよね。」
「うーん。僕はいつでも暇。瑞木さんが遊びたい時に誘ってよ。ふたりでもみんなでもいいし。」
「う、うん。……い、今さらだけど、浴衣、似合ってるね。」
「え、そうかな?……へへっ。」
「も、もしかして恥ずかしいの?」
「うん。」
「さ、佐和田くんも恥ずかしいとか思うんだ。」
「思うよそりゃ。女の子にそんなこと言われるの初めてだし。」
「そ、そっか……。」
「僕、瑞木さんの今日の髪型好きだよ。爽やか度が増してる。」
「あっ、ほ、ほんと?あ、ありがと……。」
頬を染めて俯く瑞木さんに胸の中のがざわめいた。これの正体。

瑞木さんは、僕のことが好き?

僕は、瑞木さんのことが好き?

このふたつ。前者は、多分、そう。自惚れてるわけじゃないけど、そうなんだろうなぁと思う。後者は、分からない。僕の心を包み込む優しさに溺れそうになって混乱してるのは確かだ。この気持ちは、知ってる。昔から知ってる。僕の好きな感情だ。道で猫が轢かれてた、飼っていた金魚が死んでしまった、学校で育てたアサガオが枯れてしまったと言ってはめそめそ泣いていた僕をぎゅーっと抱きしめて、頭を撫でるんだ。
「あ、佐和田くん、ありがと。」
瑞木さん家に着いた。
「うん。ばいばい。」
「またね!気をつけて~。」
「うん。」
僕の方をちらっと見てドアを閉めた。僕は来た道を引き返した。瑞木さんの笑顔を直視できなかった。眩しい。わくわくするけど、不安な気もする、変な気持ち。瑞木さんとまた遊びたいと思う。一緒に居たら楽しい。もう1回ふたりで遊んだら、もう溺れてしまいそうだ。これは「好き」なんだろうか。よく分からない。もっと瑞木さんを知りたい。もっと話がしたい。ゆっくり、自分の気持ちと向き合っていこう。今考えたってよく分からない。左手首に当たる青い石を見て、思わず笑ってしまった。何考えてんの、僕。変なの。

 翌日。僕ん家。太ももの上には八神乃希が寝てる。
「乃希、小鳥遊さんと付き合ったんじゃなかったの。僕とこんなことしてていいの。」
「うん。今日はいのりは図書館で1日本を読む予定だったから、邪魔しないでって。」
「そ、そう……。」
乃希の額を撫でる。
「ねぇ、なんで小鳥遊さんと付き合うの。瑞木さんは?」
「あ、怜に言ってなかったっけ。俺、瑞木さんに告ってフられたんだよ。」
「え……。」
「他に好きな人がいるって。」
ドキッとした。
「まぁ、でもね、俺はその好きな人を聞いたっていうか、気づいた時に諦めたんだよ。俺じゃ勝てないもん。その人だったら、瑞木さんのこと幸せに出来るんだろうなって信じられるしね。そんな俺に、いのりが好きと言ってくれたのですよ。嬉しいでしょ。あと……やわっちは?」
「や、やわっち。」
「うん。」
やわっちっていうのは、僕が飼ってたサボテンの名前。乃希は焦った顔で僕の太ももから起き上がって僕のことをぎゅーっと抱きしめた。息できないよやめてくれないかな。
「あっ、違う違うごめんごめん、泣かないで。」
「泣いてない。」
「ほんと?」
「な、泣いて、ない……し。」
僕のほっぺを両手で挟んで心配そうに僕の目を見つめた。心配するなら聞かないでって話。
「ご、ごめんね?」
あーだめだめだめ、泣かないでよ僕……。
「あぁ、ご、ごめんって!」
また僕のことをぎゅーっと抱きしめた。これで強く拒めないのが悔しい。
「乃希離れしようとしてんの?」
「うん。」
「なんで?」
他人ひとの彼氏だし。」
「それはやわっちが居なくなった後じゃん。いつもすぐ俺に言ってくるじゃん。」
「……も、もういい加減やめようって思ったの。なんでもかんでも乃希に頼ってってすんのは。」
「あっそ?俺は頼られないの寂しいよ?」
「……し、知らないよそんなん。……ってか放して。」
「やーだ。」
何なんだよこの人。
「瑞木さんのこと好き?」
「はい?」
「好きになった?」
「……乃希に似てた。」
「な、なんて?」
「乃希と似てた。」
「ど、どこが?」
「優しくてあったかいとこ。」
「じゃあ、好きじゃん。」
「そうかもね。」
そういえば、来週末また瑞木さんと遊ぶことになっている。
「怜くんよぉ。」
「なに。」
「乃希離れは寂しいぜ。」
「うん、そう。」
「でも、瑞木さんとはもっと仲良くなれ!」
「……はいはい。」
乃希が僕の頭を撫でた。……怜離れだって寂しいわ。ち、ちょっと。


To be continued…
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