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第3話 ステータスって、何?
【1】
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それからややあって。
「ふむ、腫れは引いてきたようだな」
「……もっと苦しめばいいのに」
蹴られたこめかみをさするアスヴェルと、それをジト目で軽く睨むミナト。2人は今、アドモン遺跡の通路を歩いていた。かれこれ30分ほど経ったところで、少女が足を止める。
「どうした? 通路はまだ続いているぞ? ここで一旦休憩するのか?」
「ああ、いや、そうじゃなくて。ここ、待ち合わせ場所なんだよ」
「待ち合わせ?」
「そ。一緒に来た仲間が居るんだ。そいつとここで落ち合う約束なのさ」
「途中ではぐれてしまったのか」
「違う違う。探索中に、魔物の大群と鉢合わせちゃって。その群の対処をそいつに頼んで、オレは先に進ませて貰ったわけ」
「……なかなか良い友人を持っているな」
若干感情の籠っていない声で返答した。それは――そのご友人、無事なのだろうか。最悪、屍がその辺りに転がっていることもあり得るのでは。
「こちらから探した方がいいんじゃないか? 場合によっては、魔物に追われている可能性も――」
「平気平気、アイツすっげぇ強いから! この遺跡の魔物くらいにゃ負けないって!」
「――そ、そうか」
そこまで太鼓判を押すということは、相応の実力者なのだろう。しかしミナトがそこまで強い信頼を持っている相手となると、アスヴェルの中に嫉妬心も沸々と湧き上がってしまう。そのご友人が女性であることを祈るばかりだ。さもなければ――
「あ、来た」
「む!」
――そうこうしてる内に、お相手が到着したようだ。ミナトが向いた方向を自分も確認してみると、
「おお! ミナト殿! お待たせしましたぞぉ!!」
一人の男性がこちらに走って来ていた――のだが。
(……え?)
嫉妬とかそういうもの以前の問題として、アスヴェルは呆けてしまった。こちらに向かってくる“彼”の外観が余りに意表を突くものだったからだ。
装備は問題無い。軽装にも程があるミナトと違い、その“青年”はしっかりと鎧を着込んでいる。道具袋を持っていないのも、<アイテムボックス>の存在を知った今では納得できる。ただ――
(か、かなり、肥え過ぎではないかなぁ?)
――そう、ミナトの待ち人は肥えていた。はっきり言えば肥満であった。ずんぐりむっくりとした体形が、鎧の上からですら確認できてしまう。弛んだ頬肉が、動きに合わせてプルンプルン弾んでいた。
(冒険とは縁のない連中だって、もっと引き締まった体してるぞ!?)
脳内でそんなツッコミまで居れてしまった。そのだらしない体は、とても遺跡探索を生業にしている人間とは思えない。
(……あ、いや、まさか、ミナトを騙している!?)
唐突に、そんな閃きが頭に到来した。
(それこそ金持ちの放蕩息子が、金に物を言わせて超高級な装備で身を固めているだけなのでは!? そしてさも自分は熟練の遺跡探索者だと称して、ミナトに近づいたんだ! 彼女の身体を狙って!!)
改めて見れば、確かに彼の装備品はかなりの業物に見える。しかも“眼鏡”などという高価品まで装着しているではないか。全身からうっすらと魔力を感じとれるところからして、マジックアイテムも幾つか身につけているのではないだろうか。これだけあれば、全く鍛えていなくとも自分が強者であると詐称することはできるかもしれない。
(これは――油断できんな)
気を引き締めて、件の相手に臨むことに決めた。一方、アスヴェルがそう決意している最中にミナト達は挨拶を終えており、
「ほほう、この御仁があの――」
「そうそう、奥の方で見つけたんだ」
こちらを見て、そんな会話をしていた。どうやら、アスヴェルの紹介もしてくれていたらしい。肥満な男はミナトに勧められるまま近づいてきて、
「どーもどーも、初めまして! 拙者はハルと申しま――――おうふっ!?」
「うん?」
急に変な叫びを上げた青年――名前はハルというらしい。彼はガクガクと震えながら驚愕の表情を浮かべ、
「こ、ここ、こいつは結構なイケメェン……!!」
そんなことを呟いてきた。この反応にミナトは呆れ、
「いや、そんな驚く程か?」
「何を仰いますやら、ミナト殿! 端正な顔の作りに誠実そうな雰囲気。ボデーも素晴らしい位に鍛え上げておられる……! やばい位に美男子ではないですか!?」
「んー、まあ、顔は整ってる方だとは思うけどさ」
「ミナト殿、ハードル高ーい!?」
「いや、オマエがおかしいんだろ。なんで男のオマエがイケメンどうこうで盛り上がってんだよ? まさか、ホモだったのか?」
「そ、そんなことはありませんぞぉ!? 男の拙者でもびびってしまう程の美形ってだけでっ!!」
と、アスヴェルを放って2人で話を繰り広げる。話題になっているのは自分だが、これには少々疎外感を感じてしまう。
(しかも、私が美形だのなんだの――そんな当たり前のことで騒がれてもなぁ)
軽く肩を竦めてしまう。だがしかし、このやり取りで分かったこともある。
(ふっ、どうやら私はハル君について勘違いをしていたようだ)
彼が怪しい男だなんてとんでもない。その瞳には知性の光が溢れんばかりに輝いているではないか。ほんの少しばかり余分な肉のついた体にしたって、逆に言えばそんなハンデを負っても十分に力を発揮できる実力者だということだ。
(間違いない、彼は信頼に足る人物……!!)
アスヴェルはそう確信した。チョロいとか言ってはならない。彼の高度な思考能力を駆使して真実を見抜いただけなのだ。
「あー、ハル君だったか?」
「んむぅ? お、おお、こいつは失礼つかまつりました、アスヴェル殿!
拙者ついつい熱くなってしまいまして」
「はっはっは、まあ気にすることは無いさ」
朗らかに笑う。つられて、向こうも照れ笑いを浮かべだした。俯くと首の贅肉に顎が乗っかってしまっているのだけれども、些末事である。
「もう既に知っているようだが、私はアスヴェルという。ラグセレス大陸の勇者だ」
「拙者はハルと申しますぞ。職業は聖騎士なんぞしておりまして」
聖騎士――即ち、教会に認められて騎士位を得た、ということだろうか。やはり彼は高潔な人物に間違いない。その上、紛れも無く貴族ということでもある。実に大した男だ。
「ではでは、これからよろしくお願いしますぞ、アスヴェル殿! ああそれと、君付けは止めて下され、ハルで構いません」
「ならば私にも呼び捨てでいい。アスヴェルと呼んでくれ」
「いやぁ、『殿』を付けてしまうのは拙者の癖のようなものでして。できればこのまま行きたいのですがよろしいですかな?」
「成程、そういうことならそれで構わない」
そう言って、互いに利き腕同士で握手をする。初見の人間に大事な腕を差し出すとは、なんと警戒感が無い――などとは思わない。単に彼もまた、アスヴェルが信頼できる人物と見抜いただけのことだ。
「……おかしい、オレの時はあんなにアレな態度だったに、まともっぽい言動してやがる」
すぐ隣で愚痴を言うミナトへの対応は、一先ず置いておくことにする。しかし、“美少女”と“好青年”とでは、どうしても対応が異なってしまうものなのだ。そこはどうか分かって欲しい。
「あー、ところでアスヴェル殿? 不躾ですが、ステータスを見せて頂いても?」
「ステータス?」
ハルから出た聞きなれない単語を聞き返した。
「ふむ、腫れは引いてきたようだな」
「……もっと苦しめばいいのに」
蹴られたこめかみをさするアスヴェルと、それをジト目で軽く睨むミナト。2人は今、アドモン遺跡の通路を歩いていた。かれこれ30分ほど経ったところで、少女が足を止める。
「どうした? 通路はまだ続いているぞ? ここで一旦休憩するのか?」
「ああ、いや、そうじゃなくて。ここ、待ち合わせ場所なんだよ」
「待ち合わせ?」
「そ。一緒に来た仲間が居るんだ。そいつとここで落ち合う約束なのさ」
「途中ではぐれてしまったのか」
「違う違う。探索中に、魔物の大群と鉢合わせちゃって。その群の対処をそいつに頼んで、オレは先に進ませて貰ったわけ」
「……なかなか良い友人を持っているな」
若干感情の籠っていない声で返答した。それは――そのご友人、無事なのだろうか。最悪、屍がその辺りに転がっていることもあり得るのでは。
「こちらから探した方がいいんじゃないか? 場合によっては、魔物に追われている可能性も――」
「平気平気、アイツすっげぇ強いから! この遺跡の魔物くらいにゃ負けないって!」
「――そ、そうか」
そこまで太鼓判を押すということは、相応の実力者なのだろう。しかしミナトがそこまで強い信頼を持っている相手となると、アスヴェルの中に嫉妬心も沸々と湧き上がってしまう。そのご友人が女性であることを祈るばかりだ。さもなければ――
「あ、来た」
「む!」
――そうこうしてる内に、お相手が到着したようだ。ミナトが向いた方向を自分も確認してみると、
「おお! ミナト殿! お待たせしましたぞぉ!!」
一人の男性がこちらに走って来ていた――のだが。
(……え?)
嫉妬とかそういうもの以前の問題として、アスヴェルは呆けてしまった。こちらに向かってくる“彼”の外観が余りに意表を突くものだったからだ。
装備は問題無い。軽装にも程があるミナトと違い、その“青年”はしっかりと鎧を着込んでいる。道具袋を持っていないのも、<アイテムボックス>の存在を知った今では納得できる。ただ――
(か、かなり、肥え過ぎではないかなぁ?)
――そう、ミナトの待ち人は肥えていた。はっきり言えば肥満であった。ずんぐりむっくりとした体形が、鎧の上からですら確認できてしまう。弛んだ頬肉が、動きに合わせてプルンプルン弾んでいた。
(冒険とは縁のない連中だって、もっと引き締まった体してるぞ!?)
脳内でそんなツッコミまで居れてしまった。そのだらしない体は、とても遺跡探索を生業にしている人間とは思えない。
(……あ、いや、まさか、ミナトを騙している!?)
唐突に、そんな閃きが頭に到来した。
(それこそ金持ちの放蕩息子が、金に物を言わせて超高級な装備で身を固めているだけなのでは!? そしてさも自分は熟練の遺跡探索者だと称して、ミナトに近づいたんだ! 彼女の身体を狙って!!)
改めて見れば、確かに彼の装備品はかなりの業物に見える。しかも“眼鏡”などという高価品まで装着しているではないか。全身からうっすらと魔力を感じとれるところからして、マジックアイテムも幾つか身につけているのではないだろうか。これだけあれば、全く鍛えていなくとも自分が強者であると詐称することはできるかもしれない。
(これは――油断できんな)
気を引き締めて、件の相手に臨むことに決めた。一方、アスヴェルがそう決意している最中にミナト達は挨拶を終えており、
「ほほう、この御仁があの――」
「そうそう、奥の方で見つけたんだ」
こちらを見て、そんな会話をしていた。どうやら、アスヴェルの紹介もしてくれていたらしい。肥満な男はミナトに勧められるまま近づいてきて、
「どーもどーも、初めまして! 拙者はハルと申しま――――おうふっ!?」
「うん?」
急に変な叫びを上げた青年――名前はハルというらしい。彼はガクガクと震えながら驚愕の表情を浮かべ、
「こ、ここ、こいつは結構なイケメェン……!!」
そんなことを呟いてきた。この反応にミナトは呆れ、
「いや、そんな驚く程か?」
「何を仰いますやら、ミナト殿! 端正な顔の作りに誠実そうな雰囲気。ボデーも素晴らしい位に鍛え上げておられる……! やばい位に美男子ではないですか!?」
「んー、まあ、顔は整ってる方だとは思うけどさ」
「ミナト殿、ハードル高ーい!?」
「いや、オマエがおかしいんだろ。なんで男のオマエがイケメンどうこうで盛り上がってんだよ? まさか、ホモだったのか?」
「そ、そんなことはありませんぞぉ!? 男の拙者でもびびってしまう程の美形ってだけでっ!!」
と、アスヴェルを放って2人で話を繰り広げる。話題になっているのは自分だが、これには少々疎外感を感じてしまう。
(しかも、私が美形だのなんだの――そんな当たり前のことで騒がれてもなぁ)
軽く肩を竦めてしまう。だがしかし、このやり取りで分かったこともある。
(ふっ、どうやら私はハル君について勘違いをしていたようだ)
彼が怪しい男だなんてとんでもない。その瞳には知性の光が溢れんばかりに輝いているではないか。ほんの少しばかり余分な肉のついた体にしたって、逆に言えばそんなハンデを負っても十分に力を発揮できる実力者だということだ。
(間違いない、彼は信頼に足る人物……!!)
アスヴェルはそう確信した。チョロいとか言ってはならない。彼の高度な思考能力を駆使して真実を見抜いただけなのだ。
「あー、ハル君だったか?」
「んむぅ? お、おお、こいつは失礼つかまつりました、アスヴェル殿!
拙者ついつい熱くなってしまいまして」
「はっはっは、まあ気にすることは無いさ」
朗らかに笑う。つられて、向こうも照れ笑いを浮かべだした。俯くと首の贅肉に顎が乗っかってしまっているのだけれども、些末事である。
「もう既に知っているようだが、私はアスヴェルという。ラグセレス大陸の勇者だ」
「拙者はハルと申しますぞ。職業は聖騎士なんぞしておりまして」
聖騎士――即ち、教会に認められて騎士位を得た、ということだろうか。やはり彼は高潔な人物に間違いない。その上、紛れも無く貴族ということでもある。実に大した男だ。
「ではでは、これからよろしくお願いしますぞ、アスヴェル殿! ああそれと、君付けは止めて下され、ハルで構いません」
「ならば私にも呼び捨てでいい。アスヴェルと呼んでくれ」
「いやぁ、『殿』を付けてしまうのは拙者の癖のようなものでして。できればこのまま行きたいのですがよろしいですかな?」
「成程、そういうことならそれで構わない」
そう言って、互いに利き腕同士で握手をする。初見の人間に大事な腕を差し出すとは、なんと警戒感が無い――などとは思わない。単に彼もまた、アスヴェルが信頼できる人物と見抜いただけのことだ。
「……おかしい、オレの時はあんなにアレな態度だったに、まともっぽい言動してやがる」
すぐ隣で愚痴を言うミナトへの対応は、一先ず置いておくことにする。しかし、“美少女”と“好青年”とでは、どうしても対応が異なってしまうものなのだ。そこはどうか分かって欲しい。
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