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第7話 NPCって、何?
【3】
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はてさて、PCやNPCとはいったいどういう意味なのか。ミナトにそれを尋ねてみれば、
「ああ、PCはプレイヤーキャラクター、NPCってのはノンプレイヤーキャラクターのことで――」
「ちょ、ちょっと待つでござる、ミナト殿!!」
慌てた様子で、ハルが待ったをかけてきた。2人はそのまま少し離れ、こそこそと話し合いだす。
「……その辺をアスヴェル殿に説明するのは、如何なものかと」
「……え? そ、そうか? まずいかな?」
「……まずいでござろう。ゲームのキャラに、“貴方はゲームの中だけの存在なんですよ”とか宣言しちゃうのは。バグってしまうかもしれませんぞ」
「……むー、それもそうか、な?」
部分部分聞こえる内容を統合するに、余り説明したい事柄では無い模様。
だがアスヴェルは、ミナトの零した単語から一つの事実を閃いていた。
(ノンプレイヤー――祈り無き者だと!?)
確かに彼女はそう言っていた。つまりこれは――
(――宗教問題なのか!)
ロードリア大陸に来てから、事ある毎に“加護”という単語を耳にした。それだけ広く神の力が行き届いているということだ。だがその割に、ミナト達が祈りを捧げているような場面に出会ったことが無い――いや、一つ心当たりがある。
(ログアウト)
そう、彼女に限らず、この世界の住人は<ログアウト>して別の大陸へ移動することができるという。そここそが神の住まう場所。加護を得るための神聖な儀式が行われる祭場なのではないだろうか。
(そして、祈り無き者……!)
ミナトはかつて、アスヴェルを指してNPCと呼んだことがある。そして自分には<ログアウト>ができない、とも。つまりNPCとは加護を得るための儀式を行わない・行えない者の総称であり、この大陸には一定数そういう区分の者達が居る、ということだ。
(単に信仰が違うだけでも人は差別を生む。ましてや、“加護”という分かりやすい力の差があれば、それはより顕著に社会構造へ現れる筈)
先程殴られた青年――既に回復したようで、どこぞへ歩き去ってしまっている――は、NPCだから不当な扱いを受けても文句を言えない。ミナトを始めとするPC――祈り有る者は、NPCの上位者として君臨している、ということか。
ならば、ハルが解説を阻んだのも納得がいく。傍目から見て、ミナトもハルも良識を持った人物だ。NPCであるアスヴェルに対し、なんら差別的発言や扱いをしないことからもそれは窺える。だからこそ、斯様な社会システムを大陸外の人間に話すのを躊躇ってしまったのだろう。もっと単純に、説明を禁ずる戒律があるのかもしれないが。
(どちらにせよ、放っておいていい案件ではないな)
先刻の事件を鑑みるに、NPCの扱いは明らかに不当である。偶然か必然か、この大陸に来訪してしまった勇者として、この問題は解決せねばならないだろう。ひょっとしたら、自分はそのためにここへ召喚されたのかもしれない。
そんな感じに、決意を新たにしていると。
「何してくれんだぁ!!!」
野太い声でがなり立てられた。青年を殴り、アスヴェルに首を絞められた、例の男だ。そいつはこちらを一瞥すると、
「誰かと思えば『エルケーニッヒ』のハルとミナトか!? てめぇら自分が飼ってるNPCもろくに躾けられてねぇのかよ!! コレどう落とし前付けてつけてくれんだぁ!? ちっとばかし名が売れてるからっていい気になってんじゃ――ひゃっ!?」
一発の銃声が男を黙らせた。ミナトだ。彼女が奴の足元に銃弾を撃ち込んだのである。少女は凄みのある目で――顔が整っている分、迫力はなかなかのものだ――男を睨み付けると、
「逆立ちしてもオレに勝てねぇ強さの分際で吼えるじゃねぇか。オレだってオマエの“アレ”は気に食わねぇんだ。何ならここで一戦やるか?」
「――あ、ぐっ」
一瞬、男の方が言葉に詰まる。アスヴェルを諫めたミナトではあったが、彼女自身、先程の言動は腹に据えかねていたらしい。
傍から見て男は完全に気圧されているのだが、それでも意地があるのか懸命に少女を睨み返し、
「じょ、上等だ! そのむかつく顔ぐちゃぐちゃにしてやらぁ!!」
「ほう。それはいったいどうやって?」
「あ?」
会話に割り込んだアスヴェルに、男が怪訝そうな顔を向けてくる。分かっていない彼に、状況説明を試みる。
「丸腰の君が、どうやって彼女と戦うというんだ?」
「丸腰っててめぇ何言って――あれ? 無い?」
身体をペタペタと触りながら、男は戸惑いを隠さずにいた。そんな彼に対し、アスヴェルはニッコリと微笑んでから、
「探し物はこれかな?」
「あー! それぇ!!?」
アスヴェルの手にある“長剣”を一瞥した男が絶叫した。先刻締め上げた際、ついでに奪っておいたのだ。凶器の無力化は鎮圧の基本である。
「か、返せ! 返せよぉ!!」
必死に剣へ手を伸ばそうとする男。当然返却してやる気などさらさら無く、アスヴェルは剣を両手で持つと軽く力を込めると、
「ふんっ!!」
折った。刃の中ほどから真っ二つに。
「――へ」
男の目が点になる。2つに分かれた剣を、ただじっと見つめていた。身じろぎ一つしない彼に対し、アスヴェルは説教を開始する。
「いいか、今回はこれで手打ちにしてやろう。しかし次また同じことをすれば――」
「うわあぁああああああああああああああ!!?」
しかし台詞は途中で遮られる。他ならぬ、目の前の男の泣声によって。
「俺のぉっ!!? 俺の“フレイムブリンガー”がぁっ!!? 1週間ドロップ粘った“フレイムブリンガー”!! +15まで鍛えたのにぃっ!!! うお、あ、あ、あ、うわああぁぁああああんっ!!?」
泣いていた。大の男が、本気で涙を流していた。恥も外聞も無く、泣き散らしていた。ところでフレイムブリンガーというのは剣の名前か。
「あ、あのー」
「なんでぇっ!? なんでこんなことにぃっ!? なんでなんでっ!!? おろろぁぁあああああああんっ!!!」
「……えーと」
話しかけても無駄だった。今の男にこちらへ耳を傾ける余裕は無さそうだ。大の男がひたすら滂沱の涙を流している。
予想していなかった事態に――武器が壊れただけでここまで動揺するなんて誰が思う?――アスヴェルが戸惑っているところへ、
「アスヴェル殿、いくら何でもこれは……」
「やり過ぎだぞ、オマエ……」
追い打ちが来た。ミナトもハルも、非難がましい視線をこちらに送ってくる。
「え、いや、だって、こんな風になるなんて――」
何が何だか分からない。何故男はここまでショックを受けているのか。何故自分はここまで責められているのか。何もかもがよく分からないが――
「――ご、ごめんね?」
とりあえず、アスヴェルは頭を下げるのであった。
◆勇者一口メモ
折った剣は魔法で直しました。
「……あ、アイツ、破壊したアイテムを直したぞ?」
「……そのようですな。ぬむむむぅ、壊れた装備を直す手段は、今のところ実装されていない筈、なのですが」
「ひょっとして、装備修復スキルが近々実装される?」
「或いは――アスヴェル殿だけが使えるNPC専用スキルの可能性もあるやもしれませぬ」
「…………」
「…………」
「……な、なんだかオレ、アイツのこと好きになってきたかも♪」
「Noooooo!!? ミナト殿、それは想い人を見つめる瞳では無く、お宝を目の前にした時の目にござるよ!!?」
「ああ、PCはプレイヤーキャラクター、NPCってのはノンプレイヤーキャラクターのことで――」
「ちょ、ちょっと待つでござる、ミナト殿!!」
慌てた様子で、ハルが待ったをかけてきた。2人はそのまま少し離れ、こそこそと話し合いだす。
「……その辺をアスヴェル殿に説明するのは、如何なものかと」
「……え? そ、そうか? まずいかな?」
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「……むー、それもそうか、な?」
部分部分聞こえる内容を統合するに、余り説明したい事柄では無い模様。
だがアスヴェルは、ミナトの零した単語から一つの事実を閃いていた。
(ノンプレイヤー――祈り無き者だと!?)
確かに彼女はそう言っていた。つまりこれは――
(――宗教問題なのか!)
ロードリア大陸に来てから、事ある毎に“加護”という単語を耳にした。それだけ広く神の力が行き届いているということだ。だがその割に、ミナト達が祈りを捧げているような場面に出会ったことが無い――いや、一つ心当たりがある。
(ログアウト)
そう、彼女に限らず、この世界の住人は<ログアウト>して別の大陸へ移動することができるという。そここそが神の住まう場所。加護を得るための神聖な儀式が行われる祭場なのではないだろうか。
(そして、祈り無き者……!)
ミナトはかつて、アスヴェルを指してNPCと呼んだことがある。そして自分には<ログアウト>ができない、とも。つまりNPCとは加護を得るための儀式を行わない・行えない者の総称であり、この大陸には一定数そういう区分の者達が居る、ということだ。
(単に信仰が違うだけでも人は差別を生む。ましてや、“加護”という分かりやすい力の差があれば、それはより顕著に社会構造へ現れる筈)
先程殴られた青年――既に回復したようで、どこぞへ歩き去ってしまっている――は、NPCだから不当な扱いを受けても文句を言えない。ミナトを始めとするPC――祈り有る者は、NPCの上位者として君臨している、ということか。
ならば、ハルが解説を阻んだのも納得がいく。傍目から見て、ミナトもハルも良識を持った人物だ。NPCであるアスヴェルに対し、なんら差別的発言や扱いをしないことからもそれは窺える。だからこそ、斯様な社会システムを大陸外の人間に話すのを躊躇ってしまったのだろう。もっと単純に、説明を禁ずる戒律があるのかもしれないが。
(どちらにせよ、放っておいていい案件ではないな)
先刻の事件を鑑みるに、NPCの扱いは明らかに不当である。偶然か必然か、この大陸に来訪してしまった勇者として、この問題は解決せねばならないだろう。ひょっとしたら、自分はそのためにここへ召喚されたのかもしれない。
そんな感じに、決意を新たにしていると。
「何してくれんだぁ!!!」
野太い声でがなり立てられた。青年を殴り、アスヴェルに首を絞められた、例の男だ。そいつはこちらを一瞥すると、
「誰かと思えば『エルケーニッヒ』のハルとミナトか!? てめぇら自分が飼ってるNPCもろくに躾けられてねぇのかよ!! コレどう落とし前付けてつけてくれんだぁ!? ちっとばかし名が売れてるからっていい気になってんじゃ――ひゃっ!?」
一発の銃声が男を黙らせた。ミナトだ。彼女が奴の足元に銃弾を撃ち込んだのである。少女は凄みのある目で――顔が整っている分、迫力はなかなかのものだ――男を睨み付けると、
「逆立ちしてもオレに勝てねぇ強さの分際で吼えるじゃねぇか。オレだってオマエの“アレ”は気に食わねぇんだ。何ならここで一戦やるか?」
「――あ、ぐっ」
一瞬、男の方が言葉に詰まる。アスヴェルを諫めたミナトではあったが、彼女自身、先程の言動は腹に据えかねていたらしい。
傍から見て男は完全に気圧されているのだが、それでも意地があるのか懸命に少女を睨み返し、
「じょ、上等だ! そのむかつく顔ぐちゃぐちゃにしてやらぁ!!」
「ほう。それはいったいどうやって?」
「あ?」
会話に割り込んだアスヴェルに、男が怪訝そうな顔を向けてくる。分かっていない彼に、状況説明を試みる。
「丸腰の君が、どうやって彼女と戦うというんだ?」
「丸腰っててめぇ何言って――あれ? 無い?」
身体をペタペタと触りながら、男は戸惑いを隠さずにいた。そんな彼に対し、アスヴェルはニッコリと微笑んでから、
「探し物はこれかな?」
「あー! それぇ!!?」
アスヴェルの手にある“長剣”を一瞥した男が絶叫した。先刻締め上げた際、ついでに奪っておいたのだ。凶器の無力化は鎮圧の基本である。
「か、返せ! 返せよぉ!!」
必死に剣へ手を伸ばそうとする男。当然返却してやる気などさらさら無く、アスヴェルは剣を両手で持つと軽く力を込めると、
「ふんっ!!」
折った。刃の中ほどから真っ二つに。
「――へ」
男の目が点になる。2つに分かれた剣を、ただじっと見つめていた。身じろぎ一つしない彼に対し、アスヴェルは説教を開始する。
「いいか、今回はこれで手打ちにしてやろう。しかし次また同じことをすれば――」
「うわあぁああああああああああああああ!!?」
しかし台詞は途中で遮られる。他ならぬ、目の前の男の泣声によって。
「俺のぉっ!!? 俺の“フレイムブリンガー”がぁっ!!? 1週間ドロップ粘った“フレイムブリンガー”!! +15まで鍛えたのにぃっ!!! うお、あ、あ、あ、うわああぁぁああああんっ!!?」
泣いていた。大の男が、本気で涙を流していた。恥も外聞も無く、泣き散らしていた。ところでフレイムブリンガーというのは剣の名前か。
「あ、あのー」
「なんでぇっ!? なんでこんなことにぃっ!? なんでなんでっ!!? おろろぁぁあああああああんっ!!!」
「……えーと」
話しかけても無駄だった。今の男にこちらへ耳を傾ける余裕は無さそうだ。大の男がひたすら滂沱の涙を流している。
予想していなかった事態に――武器が壊れただけでここまで動揺するなんて誰が思う?――アスヴェルが戸惑っているところへ、
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「やり過ぎだぞ、オマエ……」
追い打ちが来た。ミナトもハルも、非難がましい視線をこちらに送ってくる。
「え、いや、だって、こんな風になるなんて――」
何が何だか分からない。何故男はここまでショックを受けているのか。何故自分はここまで責められているのか。何もかもがよく分からないが――
「――ご、ごめんね?」
とりあえず、アスヴェルは頭を下げるのであった。
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「……そのようですな。ぬむむむぅ、壊れた装備を直す手段は、今のところ実装されていない筈、なのですが」
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