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第17話 ラスボス⇒降臨

【EX】Rの開放

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 適度な大きさの岩に腰かけ、勇者アスヴェルは考える。

(……“オーバーロード”の言うことにも一理有る。私はもっとこの世界を見て回るべきだ)

 それは決してあの女に諭されたからという訳ではなく、魔王と話していた際に決めていたことだった。
 当初、アスヴェルの目的は“元の世界へ戻ること”であった。こちらの世界において自分はあくまで外様であり、それ故にこちらの事情へ余り深く立ち入ることはしないよう自分を諫めていたのだ。だが、反政府活動に関わる以上、ここに住む民の実情を把握しなければならない。

(何せ、私は住民が受けているという弾圧を言葉でしか知らないからな)

 所詮、アスヴェルの知識はミナトやハル、サイゴウや魔王からの受け売りに過ぎないのだ。彼等の言葉を疑うつもりは無いが、実感が足りていないというのも事実である。

(それに少なくとも、“Divine Cradle”内で人々はそう不自由なく暮らしているように見えた)

 命を懸けた“ゲーム”への強制参加、己の子を取り上げられるという理不尽を除けば・・・、平穏な暮らしが約束された社会――そのように捉えることもできる。

(見極めねばならない)

 何が正しく、何が悪か。レジスタンスと政府の戦いは、どのような形で決着するのが望ましいのか。当事者の一人として責任を負うのだから、十分に考え抜かねばなるまい。

(司政官にも面会してみたいところだ)

 政府側の事情も知りたいところではある。ただの屑の集まりであれば、話は早いのだが。
 ハルから話を通して貰えないものか……いや、そこまで彼女に負担をかけるのも忍びない。

(まあ、どちらにせよあの女には然るべき報いを与える訳だが)

 そこは変わらない。例え、それによって多くの人が不幸に・・・・・・・・なるとしても・・・・・・、だ。自分への仕打ちはともかく、ミナトへ手を出したことは許しがたい。落とし前は着ける、必ず。ただ、オーバーロードを倒しミナトを救い、それでめでたしめでたし――と終わる案件ではない、というだけの話で。


「おい、変な顔してどうしたんだ?」


 と、考え事をしている最中に声をかけられた。

「――ミナトか。もう検査は終わったのか?」

「ああ、特に問題無いって。ログアウトできないこと以外は。
 ハハハ、まいったまいった。せっかく“ゲーム”から生還できたってのに、今度はゲームから抜けられなくなるなんてな。人気者は辛いぜ」

 笑ってはいるものの表情は強張っており、強がりが見え見えである。彼女の境遇を考えれば無理のないことだ。

「そちらもすぐ解決する。私がいるのだからな、大船に乗った気でいるといい」

「その自信は一体どこから来るんだよ? いやその、信じてるけど、さ」

 少女は少し頬を赤らめてそっぽ向いた。しかしすぐに調子を戻し、

「オマエの方こそ大丈夫なのかよ。Lvが1になっちゃったんだろ? 具合悪くなったりしてないのか?」

「私の方も色々検査は受けた。力を失ったことを除けば、悪影響はないようだ」

 改めて、身体を動かしてみる。握る手にまるで力が入らない。物を持てないという程に酷くは無いが、かつてのような動きはできないだろう。

「……普通、力を失うのって大問題なんだけど」

「鍛え直せばいい。1ヶ月もあればなんとでもなる」

「マジか」

 ミナトが目を丸くした。
 ……こうは言ったものの、本当にたったの1ヶ月で万全な状態を取り戻せるとはアスヴェルも思っていない。ただ、今の目的は“オーバーロードないし現行政府を処理する”ことであり、“力を取り戻すこと”では無い。ならば、色々と手はある筈だ。

「……ひょっとしてアスヴェル、“オーバーロード”になるつもりなのか?」

「ん?」

「“オーバーロード”が言ってたんだろ。自分みたいになれば、この街をオマエにあげるって」

「ふむ、それも選択肢の一つではあるな」

 いい様に弄ばれた挙句に相手の思惑へ乗るというのはかなり癪だが。

「簡単に言うけど、宇宙人になんてなれるもんなの?」

「本人曰く普通の宇宙人とは少々違うとのことだが――ヒントは貰ってる」

「普通の宇宙人ってまたツッコミどころ満載な単語だな……ま、いいけど。
 で、ヒントって何?」

「あの女は、態々私のLvを1に戻したが、これは弱体化というデメリットだけでなく“成長の余地”というメリットが産まれたとも捉えられる。元々の私は完成し尽くされていたためにこれ以上の強化は難しかったからな」

「さらっと自慢入れてきやがったな」

「その上であいつは、“Divine Cradle”を愉しめと言った訳だが――これはつまり、この仮想現実における成長レベルアップの過程に、“オーバーロード”化への手掛かりが仕込まれている、ということではないだろうか」

「……オマエの理解力が高すぎて怖い。ちょっと前までここが現実世界だと疑ってなかった奴とは思えねぇ」

 何故だかミナトは若干引き気味だった。

「でも、単なる嫌がらせって言う線は無いのか?」

「うーむ、そういうことをする奴には見えなかったなぁ。私に対して悪意が無いとは言わないが、“正解に辿り着けなくする”直接的な妨害を行うのではなく、もっと陰湿な――“正解に辿り着けない無能さを嘲笑う”タイプのように思う」

「あー、言われると確かにそれっぽいかも。表立って文句言わないで、裏で陰口叩いてそうな」

 アスヴェルの推理に、ミナトもうんうん頷く。“オーバーロード”への第一印象は互いにそうずれていないようだ。

「もっとも、この解釈があっていようがいまいが、

「じゃあ、アスヴェルはこれから“Divine Cradle”を遊び倒すってことだな」

「遊ぶという単語はニュアンスとして正しく無いような気もするが、概ねその通りだ」

「ほっほーう。いいだろう、なら熟練者であるこのミナトさんが、初心者であるアスヴェルくんに“Divine Cradle”をレクチャーしてやろうじゃないかね」

 急に偉そうな態度のミナトである。

「では、早速一つ頼みたいことがある」

「お、なんだ?」

「今日の宿、どうにかならないか?」

「うん?」

 言われて少女は周囲を見渡す。この辺りはアスヴェルとテトラが暴れたせいで瓦礫しか転がっていない。

「……寝れそうな場所、無さそうだな」

「別に野宿でも構わないが、用意できるのであれば寝床が欲しい」

「本当なら、アスヴェル用の家を構築しようってことだったんだけど――“オーバーロード”が急に出てきたことへの対処で皆それどころじゃなくなっちまったんだよなぁ」

「そうだったのか」

 唐突に敵の親玉が現れたのだ、サイゴウ達もさぞ肝を冷やしたことだろう。今はそれの後始末に追われているということか。

「すると、また野宿か……」

「……それなんだけど、さ」

 どこか言い難そうな風で、ミナトが口を開いた。

「オレの<マイルーム>、このサーバーに繋げて貰ったから。なんなら、来るか?」

「シャキーン!!」

「うぉ!?」

 途端、活力が漲る。
 自室へのお誘い→しかもミナトは今<ログアウト>できない→つまり一夜を共にする→後は分かるな?

「オーケー、オーケー。全て理解した。私の方は全く持って問題無く万全だ。さあ行こうすぐ行こう今行こう」

「がっつきぷりがハンパねぇ!? オマエ、分かってんのか!? 泊めるだけだぞ!? 他は何も無いんだからな!?」

「大丈夫! 分かっている! 野暮なことは口にしなくていい。後は私に全てを任せておけ!」

「まるで安心できねぇ!? あれ、ヤバい!? オレ、早まったか!? あ、待て、引っ張るな! 手を引っ張るんじゃない!!」

「勇者は拙速を尊ぶと言った筈だ!!」

「目が血走ってるぅうううっ!!? そもそもオマエ、オレの<マイルーム>の場所知らないだろ!?」

「匂いだ! 匂いで分かる!!」

「嘘つけぇえええっ!!?…………え、嘘だよな?」

 喚く少女を引きずりドナドナしながら、人生のゴールに向けて力強く歩き出した。





◆勇者一口メモ
 現在のアスヴェルはLv1相当の性能しか持たない。
 つまりLv71のミナトであれば、抵抗は容易なのだが――?

 彼等がこの夜どうなってしまうかは「勇者がログインしましたR」で確認を!


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