50 / 53
第17話 ラスボス⇒降臨
【EX】Rの開放
しおりを挟む適度な大きさの岩に腰かけ、勇者アスヴェルは考える。
(……“オーバーロード”の言うことにも一理有る。私はもっとこの世界を見て回るべきだ)
それは決してあの女に諭されたからという訳ではなく、魔王と話していた際に決めていたことだった。
当初、アスヴェルの目的は“元の世界へ戻ること”であった。こちらの世界において自分はあくまで外様であり、それ故にこちらの事情へ余り深く立ち入ることはしないよう自分を諫めていたのだ。だが、反政府活動に関わる以上、ここに住む民の実情を把握しなければならない。
(何せ、私は住民が受けているという弾圧を言葉でしか知らないからな)
所詮、アスヴェルの知識はミナトやハル、サイゴウや魔王からの受け売りに過ぎないのだ。彼等の言葉を疑うつもりは無いが、実感が足りていないというのも事実である。
(それに少なくとも、“Divine Cradle”内で人々はそう不自由なく暮らしているように見えた)
命を懸けた“ゲーム”への強制参加、己の子を取り上げられるという理不尽を除けば、平穏な暮らしが約束された社会――そのように捉えることもできる。
(見極めねばならない)
何が正しく、何が悪か。レジスタンスと政府の戦いは、どのような形で決着するのが望ましいのか。当事者の一人として責任を負うのだから、十分に考え抜かねばなるまい。
(司政官にも面会してみたいところだ)
政府側の事情も知りたいところではある。ただの屑の集まりであれば、話は早いのだが。
ハルから話を通して貰えないものか……いや、そこまで彼女に負担をかけるのも忍びない。
(まあ、どちらにせよあの女には然るべき報いを与える訳だが)
そこは変わらない。例え、それによって多くの人が不幸になるとしても、だ。自分への仕打ちはともかく、ミナトへ手を出したことは許しがたい。落とし前は着ける、必ず。ただ、オーバーロードを倒しミナトを救い、それでめでたしめでたし――と終わる案件ではない、というだけの話で。
「おい、変な顔してどうしたんだ?」
と、考え事をしている最中に声をかけられた。
「――ミナトか。もう検査は終わったのか?」
「ああ、特に問題無いって。ログアウトできないこと以外は。
ハハハ、まいったまいった。せっかく“ゲーム”から生還できたってのに、今度はゲームから抜けられなくなるなんてな。人気者は辛いぜ」
笑ってはいるものの表情は強張っており、強がりが見え見えである。彼女の境遇を考えれば無理のないことだ。
「そちらもすぐ解決する。私がいるのだからな、大船に乗った気でいるといい」
「その自信は一体どこから来るんだよ? いやその、信じてるけど、さ」
少女は少し頬を赤らめてそっぽ向いた。しかしすぐに調子を戻し、
「オマエの方こそ大丈夫なのかよ。Lvが1になっちゃったんだろ? 具合悪くなったりしてないのか?」
「私の方も色々検査は受けた。力を失ったことを除けば、悪影響はないようだ」
改めて、身体を動かしてみる。握る手にまるで力が入らない。物を持てないという程に酷くは無いが、かつてのような動きはできないだろう。
「……普通、力を失うのって大問題なんだけど」
「鍛え直せばいい。1ヶ月もあればなんとでもなる」
「マジか」
ミナトが目を丸くした。
……こうは言ったものの、本当にたったの1ヶ月で万全な状態を取り戻せるとはアスヴェルも思っていない。ただ、今の目的は“オーバーロードないし現行政府を処理する”ことであり、“力を取り戻すこと”では無い。ならば、色々と手はある筈だ。
「……ひょっとしてアスヴェル、“オーバーロード”になるつもりなのか?」
「ん?」
「“オーバーロード”が言ってたんだろ。自分みたいになれば、この街をオマエにあげるって」
「ふむ、それも選択肢の一つではあるな」
いい様に弄ばれた挙句に相手の思惑へ乗るというのはかなり癪だが。
「簡単に言うけど、宇宙人になんてなれるもんなの?」
「本人曰く普通の宇宙人とは少々違うとのことだが――ヒントは貰ってる」
「普通の宇宙人ってまたツッコミどころ満載な単語だな……ま、いいけど。
で、ヒントって何?」
「あの女は、態々私のLvを1に戻したが、これは弱体化というデメリットだけでなく“成長の余地”というメリットが産まれたとも捉えられる。元々の私は完成し尽くされていたためにこれ以上の強化は難しかったからな」
「さらっと自慢入れてきやがったな」
「その上であいつは、“Divine Cradle”を愉しめと言った訳だが――これはつまり、この仮想現実における成長の過程に、“神”化への手掛かりが仕込まれている、ということではないだろうか」
「……オマエの理解力が高すぎて怖い。ちょっと前までここが現実世界だと疑ってなかった奴とは思えねぇ」
何故だかミナトは若干引き気味だった。
「でも、単なる嫌がらせって言う線は無いのか?」
「うーむ、そういうことをする奴には見えなかったなぁ。私に対して悪意が無いとは言わないが、“正解に辿り着けなくする”直接的な妨害を行うのではなく、もっと陰湿な――“正解に辿り着けない無能さを嘲笑う”タイプのように思う」
「あー、言われると確かにそれっぽいかも。表立って文句言わないで、裏で陰口叩いてそうな」
アスヴェルの推理に、ミナトもうんうん頷く。“オーバーロード”への第一印象は互いにそうずれていないようだ。
「もっとも、この解釈があっていようがいまいが、
「じゃあ、アスヴェルはこれから“Divine Cradle”を遊び倒すってことだな」
「遊ぶという単語はニュアンスとして正しく無いような気もするが、概ねその通りだ」
「ほっほーう。いいだろう、なら熟練者であるこのミナトさんが、初心者であるアスヴェルくんに“Divine Cradle”をレクチャーしてやろうじゃないかね」
急に偉そうな態度のミナトである。
「では、早速一つ頼みたいことがある」
「お、なんだ?」
「今日の宿、どうにかならないか?」
「うん?」
言われて少女は周囲を見渡す。この辺りはアスヴェルとテトラが暴れたせいで瓦礫しか転がっていない。
「……寝れそうな場所、無さそうだな」
「別に野宿でも構わないが、用意できるのであれば寝床が欲しい」
「本当なら、アスヴェル用の家を構築しようってことだったんだけど――“オーバーロード”が急に出てきたことへの対処で皆それどころじゃなくなっちまったんだよなぁ」
「そうだったのか」
唐突に敵の親玉が現れたのだ、サイゴウ達もさぞ肝を冷やしたことだろう。今はそれの後始末に追われているということか。
「すると、また野宿か……」
「……それなんだけど、さ」
どこか言い難そうな風で、ミナトが口を開いた。
「オレの<マイルーム>、このサーバーに繋げて貰ったから。なんなら、来るか?」
「シャキーン!!」
「うぉ!?」
途端、活力が漲る。
自室へのお誘い→しかもミナトは今<ログアウト>できない→つまり一夜を共にする→後は分かるな?
「オーケー、オーケー。全て理解した。私の方は全く持って問題無く万全だ。さあ行こうすぐ行こう今行こう」
「がっつきぷりがハンパねぇ!? オマエ、分かってんのか!? 泊めるだけだぞ!? 他は何も無いんだからな!?」
「大丈夫! 分かっている! 野暮なことは口にしなくていい。後は私に全てを任せておけ!」
「まるで安心できねぇ!? あれ、ヤバい!? オレ、早まったか!? あ、待て、引っ張るな! 手を引っ張るんじゃない!!」
「勇者は拙速を尊ぶと言った筈だ!!」
「目が血走ってるぅうううっ!!? そもそもオマエ、オレの<マイルーム>の場所知らないだろ!?」
「匂いだ! 匂いで分かる!!」
「嘘つけぇえええっ!!?…………え、嘘だよな?」
喚く少女を引きずりながら、人生のゴールに向けて力強く歩き出した。
◆勇者一口メモ
現在のアスヴェルはLv1相当の性能しか持たない。
つまりLv71のミナトであれば、抵抗は容易なのだが――?
彼等がこの夜どうなってしまうかは「勇者がログインしましたR」で確認を!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる