勇者がログインしました ~異世界に転生したら、周りからNPCだと勘違いされてしまうお話~

ぐうたら怪人Z

文字の大きさ
49 / 53
第17話 ラスボス⇒降臨

【3】対神初戦

しおりを挟む

「思うんだけど」

 涼しげな声が耳に届く。

「貴方、遠距離攻撃が得意な癖に、やたらと接近戦を好むわよね?」

 “オーバーロード”だ。アスヴェルの拳は彼女に届いていない。女の人差し指にそっと触れている・・・・・・・・だけだ。どれだけ力を込めようと、腕はピクリとも前へ進まない。そのか細い腕に似合わぬ異常な膂力。
 つまるところ、勇者が繰り出した会心の一撃が、指一本で止められたという結果だ。

「――ふっ!」

 その事実を確認するや、アスヴェルはすぐさま身を翻し――左足を軸に回転すると、その勢いのまま蹴りを仕掛ける。

「ふぅん――身体に磁装マグネットコーティングを施して、稼働効率と反応速度を上げてるわけ」

 空振り。
 脚の過ぎ去った場所には、既に女の姿は無い。
 瞬時に後方へ移動していたのだ。
 すぐさま追撃――

「ま、“竜”相手なら十分有効な魔術なんでしょうけど、われわれ相手へ使うにしては随分とお粗末じゃない?」

 手刀。
 足刀。
 貫手。
 鉤手。
 正拳。

 直蹴り。
 踵落とし。
 あびせ蹴り。
 脛蹴り。
 回し蹴り。

 一挙一動が大気を切り裂く神速の技。
 それらを上段、中段、下段と振り分け、併せて37手を数秒の間に繰り出し――その全てが不発となった。
 悉くを回避されたのだ。

「どう? この華麗な動き♪ 見惚れちゃわない?」

 軽口が飛んでくるが、言うだけある。彼女はアスヴェルの一撃を必要最小限の動きで避けているのだ。ミリメートル単位の、正しく紙一重で避けてくる様は、優雅さすら感じられる。

(こっちからすれば、かわされているという感覚でも無いが)

 胸中で愚痴る。
 攻撃を放った瞬間、既に相手はその場所に居ない・・・・・・・・のである。手と足が、ただひたすらに空を切ってしまう。“オーバーロード”はすぐ眼前へ居るというのに、まるで届く気がしない。独りで演武でもしているような気分になる。

(おそらく。こちらの行動を高精度で予測し、完璧な回避をとっているのだろう)

 戦いを仕掛けて早々にこのような状況へ陥れられた。こちらの全力が悠々と対処されている。いや、遊ばれている・・・・・・と表現した方が正確か。
 一見して打開策の無い局面でアスヴェルは――

(思った通り。やはりこの女、素人・・だ)

 ――顔には出さず、ほくそ笑んでいた・・・・・・・・
 先程までの会話の最中、その細かい所作からも感じられていたことでもある。

 確かに“オーバーロード”の動きは洗練されている。美しい所作だ。だがそれは“美術品”としての美麗さに近い。
 足運びに始まる重心の移動や、四肢の動作連動が戦闘者のソレではない。

(計算で導かれた最適解にただ従っているだけ・・・・・・・・・。これまでに“戦い”と呼べる行為を行ったことがあるかどうかすら怪しいな)

 そう結論付けた。
 ならば、手はある――というより、アスヴェルは最初からソレを前提として動いていた。熟練の戦士には通じないが、戦闘未経験者には効果的な一手。
 もったいぶった言い方をしてしまったが、要するに“フェイント”である。

「なぁに? まだ続けるの? 自分の身の程、理解できてないのかしら?」

 訝しむ声を尻目に、アスヴェルは再度“オーバーロード”に向けて接近戦を挑む。“仕上げ”を実行するために。

 ……戦いの初めから、攻撃の中にある一定のパターンを紛れ込ませていた。ある“Aという行動”を起こした後は、必ず“Bという行動”をとるようにしていたのである。簡単に例えるなら“大きく打ち込んだ直後、バックステップする”という動作であったり、或いは“上段を狙った後に足元へ攻撃を移す”という動作だ。
 これまでの無為とも言える突貫は、このパターンを相手の無意識に刻み付ける・・・・・・・・・作業だったのである。

(そのパターンを――崩す)

「あら?」

 綺麗に。
 ものの見事に。
 “オーバーロード”は引っ掛かった。

 それは刹那の逡巡である。
 僅かな戸惑いに過ぎない。
 だがそれでも、“一つ当てる”だけならば、十分な隙。

(二度目は無い。分かっている。一度見せた以上、次は必ず対策される)

 きっと“オーバーロード”はそういう存在だ。
 だからこそ、一撃で決める。


悪夢ユメウタう、死を記録シルす、終焉オワリを捧げる』


 紡がれるは呪詞のりと。構築するは必討の魔術・・・・・

「磁式・終淵――!」

 発動と同時に右の掌へ“黒色の欠片”が生じる。アスヴェルは一切の躊躇なく、その“欠片”を“オーバーロード”の身体へと埋め込んだ・・・・・

「――あ」

 小さな吐息が、女から漏れる。
 次の瞬間、“オーバーロード”の身体が分解を始めた。体表からテクスチャーが剥がれ落ち、徐々にその全身が掻き消えていく。

「これは――情報破壊クラッキング

 壊れていく四肢を見つめながら、そんな言葉を“オーバーロード”が紡ぐ。
 正に御名答。あの“欠片”は情報の塊コマンドだ。対象の情報データ侵入しハック、それを改竄するクラック――今回の場合は消去デリート、だが。強いて言うなら、この仮想空間においてのみ作用する“即死魔術”。“ゲーム”の際、運営に対して使ったものと同種の代物である。

「――――」

 そして音も無く、何の抵抗も無いまま。
 余りにあっさりと、“オーバーロード”は姿を消した。

「やった――訳が無いか」

 一息つく間すら無く。


「もっちろん♪」


 目の前に、再度“オーバーロード”が現れた。先程までと変わらぬ笑みを携えて。
 女はゆったりとした動作でこちらへ手をかざしてくると、

「えい、デコピン!」

 言葉の通り、中指を弾いてくる。デコピンとか言ってるわりに、額にはまるで届いていなかったりする、が。

「おぉおおおおおっ!!?」

 衝撃・・で吹き飛ばされた。強引に床へ足を突き立てるも、巻き起こる突風は地面そのものを捲り上げる。故に体勢を立て直せず、アスヴェルの身体は地を跳ね無様に転がり続け――“神殿”の壁にぶつかり、ようやく止まった。

「ぐ、はっ!?」

 背中を強打して肺が息を漏れる。身体のあちこちにも裂傷が走っている。“ゲーム的”言えば、一瞬でHPの大半を削られた、といったところか。
 すぐ立ち上がり反撃を――とも行かず。

「ぬぐっ!」

 首を掴まれ強引に立ち上がらせられた。華奢腕に見合わぬ剛力。首に食い込んだ指を剥がそうとしても、微動だにしない。

「――大したものね」

 やっていることとは裏腹に、女は優し気な声で語りかけてくる。

「ああ、分かってると思うけど、あんなチャチな・・・・情報操作のこと言ってるんじゃないわよ? 褒めてるのは、われわれに攻撃を当てることができた事実に対して。流石、格上と戦い続けてきただけあって、大物食いジャイアントキリングはお手の物ってわけね。全く意味が無かった・・・・・・・・・とはいえ、その戦闘センスには目の見張るものがあったわ」

 言っている最中にも、彼女の指は容赦なくアスヴェルの首を絞めつける。気を抜くと意識を持って行かれそうだ。

「というか、最初からそれが目的だったのかしら? “ここ”での死は“3次元世界”での死に繋がらないことは、貴方だって十分理解してるんだもの」

 首を傾げ、目を細めながら独り言を続ける。

「怒ったフリ・・をして、われわれに自分の有能さをアピールしたかったとか? だとしたらその目論見は成功よ。ええ、われわれは今、貴方のことを先程よりも強く意識しているわ。少し――ほんの少しだけど、このまま握りつぶしてやりたい・・・・・・・・・・という欲求が湧いています」

 随分と好き勝手な妄言を垂れてくれたものだ。

「本当ならこのまま帰るつもりだったのだけれど。これだけのことをしてくれたのだから、ご褒美をあげなきゃね――情報操作クラッキングの見本、見せてあげるわ」

 その台詞と共に、彼女の手から“何か”が流れ込んできた。先程アスヴェルが使った魔術と同種のモノ。いや、それよりも遥か高度に組上げられた“情報”。ソレが、己の内側データを侵食してくる。

「――――!!?」

 身体から力が抜けた。
 筋肉が萎んでいく。
 全身が衰えていく。
 自分がこれまで積み上げてきたものが、消え失せていく・・・・・・・のを感じる。

「……なに、を」

 掠れる声を絞りだす。幸い、相手の耳には届いたようで、

「貴方をLv1に戻したの・・・・・・・・。感謝しなさい。われわれにここまで面倒看て貰えるなんて、早々無いことなのよ?」

 首を掴んでいた手が離れる。足に力が入らず、そのまま倒れ込んだ。

「せっかくだし、その状態で“Divine Cradle”を愉しでみたら? ふふ、最初から“強くてスタート”したら、ゲームの醍醐味は味わえないもの」

 倒れたまま動けないアスヴェルを嘲笑うように微笑みを浮かべ、

「じゃ、この辺りで失礼するわ。次は“三次元世界あっち”で会えると良いわね?」

 一方的に告げると、“オーバーロード”は忽然と姿を消した。程なくして風景も変貌を遂げ――気付けば、元居た場所に戻っていた。
 視界の端にはこちらへ駆けて来る2人――ミナトと魔王が見える。彼等が無事であることを確認し、アスヴェルは脱力して手足を投げ出す。

「……なかなかしんどいことになりそうだ」

 こうしてオーバーロードとの初戦は、勇者の敗北という形で幕を閉じた。








「……ご息女の容態は如何ですか?」

「今のところ健康体そのものだ。当面の間は大丈夫だろうが――“オーバーロード”の言った通り、期限は1ヶ月だね」

「医療用資材が必要なのでしたら搬入させますが」

「結構だよ。この時期にそちらが派手な動きをするのは流石に避けたい。それにどのみち、この1ヶ月で決着をつけるつもりだったんだ。計画に支障はないとも」

「ですが――魔王、貴方の切り札勇者は“オーバーロード”に敗北を喫したではないですか。本当に彼を信じても良いのでしょうか?」

「それも問題ない。あれは負けるべくして負けただけだ」

「つまり、敗北を前提として勝負に挑んだと?」

「そうさ。その証拠に、負けた後もアスヴェルはしっかりと生きている。ここで自分が殺されることは無いと見切っていたんだ」

「……理解しかねます。ただ短絡的に危険な橋を渡っただけようにも思えますよ。生きていたとはいえ、彼は大きな弱体化ペナルティを課されました。いったい何のために彼は戦ったのです?」

「それは勿論――そうすることが必要だったからだろう」

「要領を得ない物言いですね」

「互いに示し合わせた訳でも無いのでね。ある程度推察はできるけれど――“オーバーロード”はその気になれば僕達の会話を傍聴することもできる」

「不便なものです」

「全くだよ。まあ、いちいち僕達の話を盗み聞く程、あちらは僕達に興味を持っていないだろうけど」

「そこに突破口がある、ということですか。分かりました。
 元より貴方とは一蓮托生の身。貴方の信じる勇者を疑うような真似はよしましょう」

「ありがとう。では、陛下には引き続き蜂起のための根回しを続けて欲しい」

「承りました。そちらはどうなさいます?」

「当初の予定通り――と言いたいところだが、まずは勇者の“レベリング”を優先しないとだね」


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

処理中です...