I want your soul.

ばどすけ

文字の大きさ
2 / 9

帰宅時には背後にお気をつけ下さい。

しおりを挟む
 「嫌よ。何で見知らぬ男に魂をあげなきゃいけないの。」
 いつもの疑いの意をもった目、拒絶の声色。
 この世界の人間は、俺が死神だということを信じない。死神がいるということ自体を信じていない。
 だからいつも、望まない結果をうむ。
「殺したくないんだよ、俺は。『人間』を。」
 だから、俺は拳銃を抜く。
 そして俺は慣れてしまった手つきで女の体に痕を残した。



 女の左胸に手をかざす。すると、そこから小さな光の玉が浮き上がり、俺の手の中で実体化する。
 俺はそれを小瓶にしまうと、立ち上がり、帰路に就こうと振り返ると目に人影が映し出された。
 暗くて肝心の顔が見えないが、身長、体格からして男だろう。
 見られたことに勿論焦ってはいるが、そんなことで顔を歪めたりはしない。俺はただただ無表情に男を見つめる。
 男は笑ったのか、少し息の混じった声を出すと一歩一歩、俺に近づいてきた。
 男は俺のすぐ前で立ち止まると、今度は顔を近づけてきて口元を緩め、
「見ちゃった。今晩は、殺人犯ちゃん?」
と言うと、俺の鼻先に唇をあてた。
「……」
 俺は無言を相手に返す。
 すると男は俺の反応が意外だったのか、眉を上げるとまた最初の気味の悪い笑いを浮かべた。
 そして、今度は左目に唇を寄せ、髪の毛をあげようとしてきた手をはたき落とすと、男を見上げた。
「気色悪いことしてくるんじゃねぇよ」
「ね、左目どうなってるの?」
 かなりイラついた声色で言ったのにも関わらず、男は無視してつらつらと言葉を並べる。
「すっごい黒い……漆黒っていうのかな。初めて見た。なんだか、目が闇に隠されてるみたい。ホント、綺麗……」
 男の手が再び俺の方へと向かってくると、頬に触れ、ねっとりと笑う。
 ぞっ、と悪寒がした。ひやりとする、久しぶりの感覚。
 男から感じた恐怖に目を背け、男の腕を掴み、引き離そうとした。しかし、男の腕は動かなかった。
 俺は力の強い方だったと思うのだが、頑として動かない、男の腕。
 顔に出さなくても、やはり心の奥ではこの男に恐れているのだろうか。 そんな考えに唇を噛む。
 そんな俺を気にせず、男は俺に迫ってくる。
 俺は後退り、男から距離をとり続けた。
 すると、背中に冷たい温度を感じた。
 俺はいつの間にか、男と距離をとっている間に壁に追い込まれたようだ。
 男は目をうっとりとさせ、俺の髪をかきあげ、左目のあった部分を覗き込み、そこに唇をあてた。
 すると男はまたもねっとりとした笑みを浮かべた。
「ああ、もう……食べちゃいたい……。ねえ、アタシにこの目、頂戴?」
「やるわけねぇだろ、変態野郎。」
「あら残念。じゃあ、あなたをアタシに頂戴?」
「殺すぞ」
「じゃあアタシが先にあなたを殺めるだけよ」
 男はそう言い、今度はにっこりと笑うと
「神影昊。また今度会いましょ」
 と言って暗闇の世界へと消えて行った。

 もう二度と会うことはないというのに。
 というか、もう二度と会いたくない。

 何も見えない、星さえ闇で覆い尽くした空を見上げると、一つため息をつき、ぼそりと呟いた。
「殺せる訳ねぇだろ」
 だって、俺は。
「……死神なんだからよ」

 先程男に触れられた部分に酷く暖かいぬくもりを感じながら。
 俺は帰路に就く。
 神影昊との出会いが、俺の人生を変えていくものだとは知らずに。
 俺は帰路に就く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

ふたなり治験棟

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...