腹ぺこお嬢様の飯使い ~隣の部屋のお嬢様にご飯を振舞ったら懐かれた件~

味のないお茶

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第1章

第二十二話 ~昼休み。奏の食事事情の話を美凪に教えた件~

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 第二十二話



「納得行きません!!あの勝負は無効です!!」

 昼休み。俺と美凪。そして奏と幸也の四人は、食堂へと向かっていた。

 そして、美凪はプンプンしながら歩いていた。

「あはは。まぁ確かにあのテストは酷いとは思ったな。俺が満点だったのもたまたまだしな」

 美凪が怒っているのは一時間目の数学のテストだった。




『皆。おはよう。私が君たちの数学を担当する、ねぎしねぎしと言う。一年間宜しく』

 ガラリと教室の扉を開けて、中に入って来たのは初老の男性の先生だった。

 ふむ……この人があの『有名な』根岸先生か。

『さて、私は常に真面目に授業に参加していない者を回答に指名することにしている。授業は真面目に聞くように』

『そして、予習と復習をしっかり行っている者が報われるようにもしている。特に予習はしっかりと行いなさい』

『では、これよりテストを行う。このテストは成績にも影響するものだから油断しないようにしなさい』

 テスト……この根岸先生のテストはかなり厄介だ。と聞いている。どんなテストなんだろうな……

『出題範囲は、春休みの宿題から『ある程度』選別したものになっている。キチンと宿題をこなしていれば、このテストは高得点を採れるだろう』

 先生はそう言うと、テスト用紙を配る。

 裏から透かしてみると、十問だな。

『制限時間は二十五分。では始めなさい』

 俺はその言葉と同時に、紙をめくる。

 そして、問題をザッと一瞥する。

『ふむ……』

 解ける問題。解けない問題。解けるけど時間がかかる問題。

 それらに分類していくと、二問目の問題がちょっと変だ……

『マジで?』

 この問題。俺がさっき眺めてた数学の教科書に載ってた公式を使って解く問題。つまり『予習をした人間が解ける問題』だった。

 そう言えば、さっき先生が言ってたな。
 特に予習はしっかりとやりなさい。ってな。

 なるほどな。これが厄介と言われる所以か……

 俺はとりあえず、二問目は飛ばして他の問題を全部解いていく。

 そして、二問目を残した時点で五分ほどの余裕があった。

 よし、この時間を使ってしっかりと解いていこう。

 俺はさっき見た公式を使って二問目を解いた。

 うん。多分これであってるはず。

 そう思ったと同時に時間が来た。

『それまで。ペンを置きなさい』

 先生の声でテストが終わる。

『では、隣の人とテスト用紙を交換して、採点をしなさい』

 先生に言われて俺は美凪にテスト用紙を渡す。

『ほらよ。採点頼むわ』
『……はい』

 なんだか不服そうな表情の美凪。受け取ったテスト用紙を見ると、二問目だけが空欄だった。

 そして、採点を終える。美凪は二問目以外全部正解で九点だった。

『ほらよ。九点だ』

 俺がそう言って美凪にテスト用紙を渡すと、

『なんで二問目が正解してるんですか!!ありえないです!!だってこれ、まだ習ってないですよね!!』

 なんて言って返ってきた俺のテスト用紙は十点満点だった。

『悪ぃな。たまたま朝の時間に、教室で数学の教科書を眺めてたんだよな。その時に覚えてた公式を使ったら解けた』
『むーーーーー!!!!この勝負は無効です!!』

 あはは。確かに実力と言うよりは、運みたいなもんだよな。

『この世でいちばん大切なものは運!!』

 なんて言ってた山野先生の言葉が思い出されて、俺は笑ってしまった。

 ちなみに、大体の生徒は一問目から解いて行ってしまって二問目で躓いて、時間が無くなる。と言う悪循環に嵌ったようで、五点や六点がほとんどだった。
 九点だったのは美凪と奏と桜井さん。
 十点満点は俺だけだった。

 ちなみに幸也はゼロ点だった。

『先に言っておくが、途中式を書いてない答えだけの答案は認めない。その場合は解答が正解でもバツとする』

 奏の宿題を丸写ししていた幸也に、途中式を書く知識など備わってるはずもなく、あえなくゼロ点となった。

『満点は海野だけか。ふむ。予習をしていた生徒は意外と少なかったようだ』

 根岸先生はそう言うと、俺の方を見た。

『海野凛太郎。今後もしっかりと励みなさい。では、残りの時間で二問目の解き方の授業を始める』


  こうして高校一年の最初の授業が行われていった。




 なんて一幕が一時間目からあった。

 ちなみに、他の授業でもテストがあったが、春休みの宿題が出題範囲だったので、俺を含めた美凪と奏と桜井さんは満点だった。

 つまり、点差が出たのは一時間目の数学のテストだけ。
 それも運みたいなもので手にした勝利だ。

「まぁ、美凪。こんなんでお前に勝った。なんて言うつもりは無いからよ。いい加減機嫌を治せよ」
「ふーふー……そうですね。このままではせっかくのお弁当が美味しく食べられません……」

 そんな会話をしていると、俺たち四人は食堂へと辿り着いた。


『食堂』


「さて、俺と美凪は弁当があるからな。先にテーブルの確保をしてるよ」
「ありがとう。俺と奏は食券を買ってくるよ。どこに座る?」

 幸也にそう言われて俺は食堂の中を見渡す。

 それなりに人は居るけど座れないほどでは無い。

 だが、四人が座れるとなるとそれなりに大きなテーブルが必要だな……

「……ん?なんだあの『丸テーブル』は」

 なんだか人が避けてる丸テーブルがあった。

「隣人さん。あの丸テーブルが四人で座るならちょうど良いと思います!!」

 美凪はその丸テーブルを指さしていた。

 まぁ……気にすることは無いな。
 別に予約してるとかでも無さそうだし。

「幸也、奏。俺と美凪はあの丸テーブルに座って待ってるわ」
「おっけー。じゃあ飯買ってそこに行くわ」
「凛太郎くんと優花ちゃん。ちょっと待っててねー」

 幸也と奏はそう言って券売機へと向かって行った。

 俺と美凪は弁当箱をテーブルの上に置いてから、水を取りに行く。

 すると、なにやら声が聞こえてきた。


『おい、あの丸テーブルに座る奴が出て来たぞ』
『あの五人は卒業してるから空席になってはいたが……』
『いや……あの二人、確か一年の首席と次席だぞ』
『丸テーブルの継承者としては妥当か……』

 何だ?あの丸テーブルってなんかあんのかよ……

「……?どうかしましたか、隣人さん」

 首を傾げる美凪。こいつの耳には届いてないようだ。

「いや、何でもない。気にすることでも無いだろ」

 俺と美凪は水を持って丸テーブルへと戻る。

 そして、少しすると幸也と奏が戻ってきた。

 幸也は日替わり定食。奏はサラダとコッペパン。

「……はぁ。奏?」

 俺は奏が持ってきた昼ごはんとは到底呼べない食事を見て、ため息混じりに問い詰める。

「あはは……大丈夫だよ。今は幸也に『作ってもらえてる』からさ」
「うん。朝と夜は俺が作ってる。本当は昼も用意したいところなんだけどね、中々そこまで時間が取れなくて。でも、心配しなくていいよ」

「そうか。じゃあ幸也、頼むわ」
「うん。心配させてごめんね」

 そんなやり取りを経て、椅子へと座る。

 そして「いただきます」と声を揃えて食べ始めた。

 だし巻き玉子を一口食べる。うん。これはよく出来てるな。
 少しだけサイズにバラツキがあるけど、潰れてないので美凪は良くやってると思った。

 自分の弁当に舌鼓を打っていると、俺たちのやり取りを聞いていた美凪が耳打ちをする。

『奏さんの食事事情って何があるんですか?』
『……奏は拒食症なんだ』

『拒食症……食べたくないって病気ですよね』
『そう。でも、幸也の料理なら美味しく、しっかりとした量を食べられる。あと、ギリギリ俺の料理も食える』

『それは理由があるんですか?』
『……昔、とある理由であいつは食中毒になった。命が危険になる。そんなレベルのな。それ以来、奏は自分が信頼する人間の料理以外ほとんど食えなくなった。サラダとパンみたいなのなら、なんとか行けるみたいだな』

『そうなんですね……』
『あいつの言ってた『愛してる人』や『好きな人』って言うのは、そう思わないと飯が食えないからだよ』

 俺の事を『好きだ』と思っていないと、あいつは俺の料理を食えない。
 中学生の時に幸也が『あの感染症』で倒れた時に、病院に隔離されることになった。
 俺と奏は『濃厚接触者』として自宅に一週間待機になった。



 中学二年の頃だった。

 当時の親父も仕事が忙しくて家にいないことが多かった。そして俺は、母親代わりの家事もようやく慣れてきたって時だった。

 俺の自宅のインターホンが鳴って、そこに映った人間を見ると、死にそうな目をしたマスク姿の美少女が立っていた。

『どうしたんだよ、『音無(おとなし)』。濃厚接触者は自宅待機だろ?』

 玄関を開け、俺は奏に問いかける。

『幸也が死んだら……私はもう生きていけない』
『馬鹿なこと言うなよ!!あいつがあんな病気なんかで死ぬわけないだろ!!』

 その時。泣きそうな顔をする奏の腹が鳴った。

『……おい、音無。まさか、何も食ってないのないのかよ。お前まで倒れたらどうすんだよ……』

 俺のその言葉に、奏は俯きながら言ってきた。

『……私は今から『海野くん』を好きになる。じゃないとご飯が食べられないから』

 そう言ってきたときに、奏の食事に対する事情を知った。

 奏は、あの感染症で母親を亡くしていた。

 そして、二年ほど前。奏の父親は再婚をした。

 家事が出来ない奏の父親は、子育ての為に再婚を焦っていたようだった。

 それが……大きな間違いだった。

 それが起きたのはある日のこと。

 再婚相手の母親から邪魔に思われていた奏。あいつが食べる食事に……盛られた。

 それを知った奏の父親は即座にその女と離婚した。

 警察沙汰にもなるほどだったようだ。

 それ以来、奏は信頼する相手が作った食事以外……食べられなくなった。

 そして、熱も咳も無かった俺は、国の言いつけより、親友の恋人の命を優先した。

 その日から幸也が戻ってくるまでの間は、俺がスーパーに買い物に行き、毎日奏に食事を用意して届けた。

 その時に奏の命を救った俺を幸也は奏と一緒に『好きな人』と呼ぶようになった。

 余談だが。

『毎日料理をありがとう、凛太郎くん。『好き』だよ』
『……はぁ。はいはい、どういたしまして奏』

 奏程の美少女から毎日毎日『好き』だと言われる。

 俺の理性はこうして鍛えられたわけだが、美凪相手には役に立たなかったな……

 あと、奏は俺の料理に対して『感謝』はしても『美味しい』は言わなかった。

『美味しい』は幸也の為だけの言葉だから。だそうだ。

『隣人さんの料理は、私だけじゃなくて奏さんの命も救っていたんですね』
『あはは。そんな大層なもんじゃない。だけどそう言う奏を見てきたからかな、美味しくたくさん料理を食べる女は嫌いじゃない』

 俺はそう言うと、美凪に笑いかける。

『これからも、俺の料理をたくさん食べて、俺に笑顔を見せてくれ。俺はそんなお前を見てるのが好きなんだ』

 そう言うと、美凪の顔が赤く染った。

『い、今自分がとんでもないことを言ってるってわかってますか!?』
『あはは。どうした、才色兼備のパーフェクト美少女の美凪優花さん?照れてるんですか?』
『て、照れてません!!もー!!からかわないでください!!』

 美凪とそんなやり取りをしていると、

「あれで付き合ってないとか嘘じゃないかな?」
「私、あの二人を甘々ジレジレの牛歩ラブコメだと思ってたけど、牛歩じゃなくてスーパーカーみたいな速度で関係が進んでるよ」

 なんて言われていたけど、無視をした。
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