腹ぺこお嬢様の飯使い ~隣の部屋のお嬢様にご飯を振舞ったら懐かれた件~

味のないお茶

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第1章

第二十九話 ~美凪の誕生日には三倍返しを約束させられた件~

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 第二十九話




 早朝。やはり俺は昨日と同様に、目覚ましのアラームよりも早くに目を覚ました。

 そして、これも昨日と同様に、俺の身体を抱きしめるように美凪が寝ている。

 昨日と違うのは俺の心境。

 何も知らずにいた昨日と違い、今日はこうなるとわかっていた。つまり、覚悟が違う!!

 さぁ!!行くんだ、海野凛太郎!!

 魅惑の感触に別れを告げ、ベッドから抜け出すんだ!!

「…………無理だよなぁ」

 俺はベッドの中でそう呟く。

 中身はともかくとして、見た目はとんでもない程の美少女の美凪が、すやすやと寝息を立てながら『がっちりと』俺の身体を抱きしめている。

 健全な男子高校生の俺には刺激が強過ぎる。

「誕生日の朝をこんな気分で迎えるとは……」

 ……はぁ。とりあえず美凪を起こすか。

 俺は身体を動かし、美凪の身体を揺する。

「おい。起きろ、美凪」
「……んぅ」

 薄らと目を開けながら、美凪の意識が夢の世界から少しずつこちらに向いてくる。

「朝だぞ。起きろ」
「…………もう少しだけ……お願いします」

 美凪はそう言うと、それまでよりも強く俺を抱きしめて、寝始めた。

「…………え?」

 ま、マジで言ってるのかよ!!!!???

「……すぅ……すぅ……」

 隣を見ると、すやすやと再び寝息を立てる美凪。

 時計を見ると、アラームまでは十五分程の余裕がある。

 なので、その時間分は二度寝をしても構わないとは思う。

 だけど!!この状態で!!十五分は!!死活問題!!

「……そ、素数を数えるか」

 理性を失ってはいけない。

 誕生日の初日に彼女を失望させることはしたくない。

 嫌われたくない。と思うくらいにはこいつに対して好意は持ってる。

 少なくとも、こいつとそういうことをする時が来たとしても、それはこんな状況では決して無い。

 俺はアラームが鳴るまでの時間、素数を数えながら理性を保つ努力をした。




 ぴぴぴ……ぴぴぴ……ぴぴぴ……


 アラームの音が、俺の部屋に鳴り響く。

 勝った……俺は……煩悩に勝った……

 理性の勝利だ……っ!!

 昨日は欲望に負けてしまったが、今日は勝利することが出来た。

「……ほら、起きろ」

 俺は美凪の体を再び揺する。

「……んぅ……隣人さん」
「もう起きる時間だからね?」

 俺がそう言うと、美凪の目がゆっくりと開く。

 そして、

「おはよう……ございます……」
「おはよう。ほら、そろそろ俺を解放してくれ」

 朝の挨拶をした彼女に、俺は身体と心の自由を求めた。

「……仕方ありませんね」

 美凪はそう言うと、渋々俺の身体を解放した。

 魅惑の感触に別れを告げ、俺は布団から出る。

 四月の朝は確かに寒い。だが、この寒さが俺の目を覚ましてくれる。

「んー……」

 グッと俺は身体を伸ばす。血の巡りが良くなって、身体が目覚めてきた。

「あー……よし。顔を洗ったら朝の準備をするかな……っ!!??」

 俺はそう言いながらベッドの方に目を向けると、

「…………んぅ」

 目を擦る美凪のパジャマが乱れて胸元の白い下着が見えていた。

「…………隣人さんの……えっち……」

 思わず魅入ってしまった俺に、美凪は服の乱れを直しながらそう言う。

「す、すまん……」

 俺は顔を背けて謝罪をした。

 いや……でも今のは見ちゃうだろ……

「さ、先に居間に行ってるから!!」

 俺はそう言って部屋を飛び出した。


 そして、俺は洗面所で顔を洗う。

 冷たい水を顔にかけると、先程の熱が少しずつ引いていく。

「…………やっぱり大きかったな」

 いや、こういう視線はあいつは絶対に嫌がるはずだ。

 ホント、気を付けよう。


 顔を洗い終わった俺は、台所へと向かう。

 今日は美凪に『卵割り』を教える予定だ。

 とりあえず、朝飯用に三つ用意した。

 一つは俺が見本で割る用。
 残りは美凪に割らせてやるつもりだ。

 棚からボウルを取り出し、菜箸を用意したところで美凪が台所へとやってきた。

「さっきは済まなかった。お前はああ言う視線を嫌という程受けてきたと思うからな。次からは気をつけるよ」
「まぁ、隣人さんの言うようにそういう視線は嫌という程受けてきましたね。ですが、気にしなくて良いですよ?」

「……え?」

 気にしなくて良い。とはどういう意味だろうか?

 美凪は小さくため息を着いたあと、俺に向かって微笑んだ。

「貴方がそういうことに配慮してるのはわかります。それにあれは不慮の事故みたいなものですよ。そのせいで、貴方との関係がギクシャクする方が私は嫌です」
「そ、そうか。わかったよ」

 俺がそう言うと、美凪は笑う。

「さて。昨晩の約束の通り、卵割りを教えてくださいね?」
「いいぞ。だが、昨晩も言ったが、殻が入ったらお前の分になるからな?」

「ふふーん。パーフェクト美少女の優花ちゃんです!!卵割りくらい、おちゃのこさいさいです!!」

 そう言って、美凪は卵割りに挑戦したのだった。






「……うぅ。ジャリジャリします」
「多少なら殻を取れば問題無いと思ってたけど、まさか『木っ端微塵』にして来るとは思いもよらなかったな……」

 出来上がったスクランブルエッグをパンに挟み、モグモグと咀嚼する美凪。

 最初は弱くて割れなかった為、ボウルに卵を勢い良く叩きつけた美凪の一個目の卵は木っ端微塵に砕け散った。

 良くやる失敗というやつだ。

 二個目は普通に出来たが、一発目の卵の殻はどうしても取り切れなかった……

 サンドイッチを食べながら、美凪はボヤいていた。

「まぁ、二個目は上手くいってたからな。これから先はそんなミスもないだろ」
「そうですね。二度同じ失敗をしないのも才色兼備の優花ちゃんの良いところです」

 そう話したところで、美凪が俺に話をしてきた。

「今日は放課後に寄りたいところがあるので、一緒に帰ることが出来ません」
「寄りたいところ?」

 俺がそう尋ねると、美凪は首を縦に振った。

「サプライズにはもう出来ませんからね。貴方の誕生日プレゼントを買いに行きます」
「そ、そうか……ありがとう、嬉しいよ」

 気を使わせて悪いな。とは言わなかった。
 きっとそんな言葉は求めてないと思ったから。

「ふふーん。何を用意するかはもう決めてあります。貴方はそれを楽しみにしてくれてれば良いですよ」

 と、美凪はドヤ顔でそう話していた。

 仕事がどんなに忙しくても、親父は俺の誕生日だけは必ず一緒に居てくれた。

 親が居なくて寂しい。なんて思うような年齢では無い。

 でも、こうして俺の誕生日を祝ってくれる人がいる。

 それが俺にとっては本当に嬉しいと思った。


「ありがとう、美凪。お前のプレゼントを期待してるよ」
「ふふーん!!まあ、これで私の誕生日には貴方からのプレゼントは三倍返しを期待出来ると思いますからね」

「あはは。そうだな。その時までに俺も誠心誠意、お前が喜ぶプレゼントを考えておくよ」

 そんな会話をしながら、俺と美凪は朝の時間を過ごした。
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