腹ぺこお嬢様の飯使い ~隣の部屋のお嬢様にご飯を振舞ったら懐かれた件~

味のないお茶

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第2章

美凪side ③ 前編 その②

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 美凪side ③  前編  その②


 台所にやってきた私は、冷蔵庫の中を確認していきます。

 無駄な食材は買わない隣人さんです。
 ですが、朝食に必要な卵やウィンナーに野菜はあります。

 これなら美味しい『優花ちゃんスペシャル朝ごはん』を作るのはおちゃのこさいさいです!!


「卵は四つ使ってスクランブルエッグにします。ウインナーがあるのでその後焼きましょう。レタスときゅうりとトマトでサラダにします。今日はご飯なのでインスタントのお味噌汁があった方が嬉しいと思います」

 冷蔵庫の中から必要な食材を取り出して、私は準備に入ります。
 まずはレタスを水で洗ってちぎっていきましょう。

「~~~♪~~~♪」

 楽しくなってきた私は、思わず鼻歌を歌ってしまいます。

 そして、そんな私の様子をジロジロと見ている視線を肌で感じてもいました。
 ふふーん?わかってますよ。
 こうして鼻歌を歌いながら包丁を扱うんじゃないか?
 そんな心配をしているんですよね?

 包丁を使う時は慎重に。
 私は怪我に気をつけながら、きゅうりとトマトをカットしていきます。
 少しだけ厚めにきゅうりをスライスしてあげるのも忘れません。

 そして油を切ったシーチキンを乗せて出来上がった『優花ちゃんお手製サラダ』をテーブルに持って行き、私は隣人さんに言ってやりました。

「…………ジロジロ見てるのはわかってますからね?」

 私が少しだけ目を細めて隣人さんにそう言うと、彼は少しだけ笑いながら言葉を返してきました。

「別に見てるくらいなら良いだろ?」

 まぁ、そうですね!!この超絶美少女の美凪優花ちゃんが貴方のためにご飯を作ってるんです。
 そんな貴重な光景を見ていたくなる気持ちは理解出来ますよ!!

「ふふーん!!まぁ!!この超絶美少女の美凪優花ちゃんを眺めていたい気持ちは良くわかりますからね!!」

 そして、私は料理を再開するために台所へと戻ります。

 インスタントの味噌汁のために、ケトルに水を入れてお湯をつくっていきました。

「さて、次はスクランブルエッグを作りましょう」

 私はボウルに卵を四つ割って入れます。
 片手で割る。なんてことにチャレンジすることはありません。
 しっかりと両手を使って、殻が入らないように注意して割っていきます。

 その後は菜箸を使って溶き卵を作っていきます。
 この時にあまりかき混ぜすぎないのがポイントです。

 そして、熱したフライパンに軽くサラダ油を引いたあと溶き卵をフライパンに投入します。

 ジュワー!!!!と言う音が耳に届きました。
 ここから先は時間との勝負です!!

 私は菜箸を使って溶き卵に空気を混ぜるようにして火を通していきます。

 そして、頃合を見計らってフライパンをコンロから外して、出来上がったスクランブルエッグをお皿の上に移しました。

「こ、これは……完璧なのでは無いでしょうか……」

 出来上がったスクランブルエッグを見た私は、その出来栄えに驚いてしまいました。

『ビギナーズラック』なんて言葉が頭に浮かんできましたが、これも私の実力です!!
 私は引き続き、やけどに気をつけながらウィンナー焼きを作っていきました。




「お待たせしました!!優花ちゃんスペシャル朝ごはんの完成です!!」

 そして、私は全ての料理をテーブルの上に用意しました。

「おおー。これは凄いな……完璧じゃないか」

 出来上がった朝食を眺めた隣人さん。
 その出来栄えにかなり驚いているようです。

 ふふーん!!この私が本気を出したんです。このくらいは当然と言えるでしょう!!

「これは正しく、優花ちゃんスペシャル朝ごはんと言っても過言では無いな」

 これ以上ないほどの賞賛。私はとても嬉しく思いました。

「ふふーん!!私の才能が怖いです!!それでは隣人さん。冷めないうちに食べましょう!!」
「そうだな。じゃあ食べようか」

 そして、私と隣人さんは「いただきます」と声を揃えたあと、朝食に箸を伸ばしました。

「……うめぇ」

 スクランブルエッグを食べた隣人さんが、目を見開いてそう呟きました。

「自分で言うのもあれですけど……めちゃくちゃ美味しく出来てますね……」

 出来上がった時も思ってましたが、これはかなり上手く出来たと思っています。
 もう一度作れ。と言われたら難しいかも知れません……

 そんなことを思っていた私に、隣人さんは箸を置いてから話しを始めました。

「これなら次のステップに進んでもいいかもしれないな」
「つ、次のステップ……ですか?」

 料理における一通りの技術は習得したと言えるでしょう。
 となると、次は何が待ってるのでしょうか?

「料理の工程は一通り出来るようになったよな。次は『レシピにそって色々な料理を作る』ってのにチャレンジしてみようか」
「おお!!遂に私もそのレベルになったのですね!!」

 レシピ通りに作るには『下地になる技術』が無いと出来ません。ついに私もそのレベルにたどり着いたんですね!!

「レシピの通りに作る。ってのは基本的な料理スキルが無いと出来ないことだからな。とりあえずは失敗の少ない『煮物料理の王様。肉じゃが』辺りを作って貰おうかな」
「肉じゃがは大好きです!!あれがあれば無限にご飯が食べられます!!」

 肉じゃがは家庭料理の定番ですからね。
 おふくろの味。と言うやつです!!

「肉じゃがが優れてる点は、たくさん作ってもアレンジが出来る。って点なんだよ」
「な、なるほど……」

 肉じゃがのアレンジですか……
 見当もつきませんが、隣人さんはそんな私に言葉を続けました。
 そして、それを聞いた私は目からウロコが落ちる思いでした。

「初日は肉じゃがを食べる。次の日はカレーのルーを足して和風カレーにする。その次の日は残ったカレーを麺つゆを加えながら味を整えてスープにすればカレーうどんになる。凄いだろ?」
「とんでもない料理なんですね、肉じゃがは!!」

 まさに変幻自在の千変万化!!私の心をくすぐってきますね!!

「ちなみに、今日の夕飯はカレーだからな。明日は肉じゃがにして、余ったらカレーじゃなくてコロッケにしてもいいな」
「り、隣人さんは色々なレシピを知ってるんですね……」

 こうしてスラスラと料理を言えるようになるまでに、一体どれほどの時間を費やしてきたのでしょうか……
 一年やそこらでは無理なのはわかります。

「まぁ……母親が他界してからずっと家事をやってきたからな。料理の経験はかなりあるぞ」

 ……迂闊でした。
 私は自分の失言に対して、彼に謝りました。

「……すみません」

 ですが、隣人さんは私のその言葉にあっけらかんと笑いながら言葉を返してくれました。

「母親のことなら気にするなよ。もう五年も前の話だしな」
「そ、そうですか……」

 五年前。私のお父さんと同じ『あの感染症』の被害者なのですね……

「あの病気のせいってのはお前の父親と同じだよ。もう落ち着いた。とは言うけどな。だからこそ、手洗いやうがいはしっかりとやらないとな」
「はい!!そうですね。大切な人を病気で亡くす経験はもうしたくありませんから」



 そして、朝ごはんを食べ終えた私たち。

 隣人さんは麦茶を飲みながら私に切り出してきました。

「今日は映画館に行こうと思ってるけど、それだけだと時間が余ると思ってるんだ」
「そうですね。その言い方ですと、隣人さん的には何か案があると思いますが?」

「あはは。まぁ、俺の考えなんだけど、映画館の近くに猫カフェがあるんだよ」

 猫カフェ!!私、気になります!!

「行きます!!」

 私は隣人さんの言葉に即答しました。

「お前に猫アレルギーとかあるか?とかを聞こうと思ってたんだよ。無いならそこに行こうかと思っていたんだよ」
「そう言うのは無いですね。猫ちゃん大好きです!!」

 食事の時もそうでしたが、隣人さんはこうやって健康のことをしっかりと考えてくれているのが優しいところだと思ってます。

 ふふーん。ですが猫カフェですか。
 とても楽しみです!!何せ猫ちゃんは私に匹敵するレベルの可愛さと言えますからね。

「超絶美少女の美凪優花ちゃんですが、猫ちゃんの可愛さはこの私に匹敵すると思ってます!!」
「…………そうか」

 私のその言葉に、隣人さんは少しだけ苦笑いを浮かべていました。
 な、何ですかその表情は!!

「じゃあ映画館で映画を見たあとは、猫カフェで食事をしながら猫と戯れる。そんな一日にしようか」

 ですが、隣人さんからの提案を聞いた私は機嫌を直してあげることにしました。


「はい!!それでは身支度を済ませて再びこの部屋に集合しましょう!!」


 そう言って、私と隣人さんは着替えをするために部屋へと向かいました。
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