十年間片思いしていた幼馴染に告白したら、完膚なきまでに振られた俺が、昔イジメから助けた美少女にアプローチを受けてる。

味のないお茶

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第1章 前編

第二十五話 ~この胸の痛みを乗り越えた先に、彼女との幸せがあると思っていました~

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 第二十五話



 朝。やはりと言うか俺は全く寝れなかった。

 目元にはひどいクマがあり、美鈴のコンシーラーごときでは隠しきれないようなレベルだった。

 髪もボサボサ、顔色も悪く、頬を痩けてる。正直なところ。人に見せられる顔では無かった。

 それでも、俺は行かなければならない。

 駅には北島さんが待ってるし、教室にはスター。星くんが居る。次期生徒会長と推されてるのに、いきなり遅刻や欠席をするのはどうかと思う。

「……お兄ちゃん、休んだ方が良くないかな?」
「美鈴……いや、平気だよ」

 後ろから心配そうな声で話しかけてくる最愛の妹に、俺は笑いかける。
 そんな俺に、美鈴は少しだけ眉を寄せながら言う。

「……多分だけど、外には凛音ちゃんが居る気がするの」

 美鈴のその言葉に俺も同意を示した。

「そうだな。俺もそう思うよ。でも……話すことは無いよ」
「……ねぇ、お兄ちゃん。昨日は何があったの……?」

 美鈴の質問に、俺は答える。

「凛音に告白されたんだ」
「……え?」

 俺は笑いながら言う。

「私が霧都の恋人になってあげる。と言われた。理由は『恋人になれば家族になれるから』『弟のわがままを聞くのは姉の務めだから』だそうだ」
「…………はぁ。ごめん。お兄ちゃん、私。無理かも」

 そんな美鈴に、俺は言う。

「アイツがさ、なんであんなに家族にこだわるのか、一晩寝れないまま考えてたんだ……でも、正直なところ、俺にはよくわからない」
「……そうだね。ちょっと異常かも」

「もしかしたら、何か理由があるのかも知れない。でも……もう遅いんだ」
「もう……遅い?」

 その言葉に、俺は首を縦に振る。

「凛音が何を思い、どんな気持ちでいようとも、俺はもう北島永久さんと恋愛をすると決めたんだ。だから、なにか理由があったとしても、もう俺はそれを鑑みる事が出来ない」

「そうは思っていても、凛音には何か大きな理由があるのかも知れない。その理由を知ったら俺は……躊躇ってしまうかも知れない」

「昨日はさ、我を忘れるレベルで怒ったよ……でもさ、俺は凛音を十年も好きだったんだ。まだチャンスがあるかも知れない。なんて知ってしまったら、北島永久さんと恋愛をするんだ。と言う決意が揺らいでしまうかも知れない。それが……怖い」

「だから、俺は家の前に凛音が居たとしても、何も話すことも無く、何も聞くことも無く、駅へと向かうと決めている」

 俺はそこまで言うと、美鈴に笑う。

「情けない。かっこ悪い。男らしさの欠けらも無い。本当に、自分が嫌になるよ……」
「いいよ。お兄ちゃん」
「……え?」

 こんな情けない男に、美鈴が言う。

「世界中の誰もがお兄ちゃんのことを最低だと罵っても、お兄ちゃん自身が自分を最低だと思っていたとしても、私だけはいつでもお兄ちゃんを世界で一番だって思ってるよ」
「美鈴……」

 美鈴は俺にカバンを渡す。

「はい。行ってらっしゃい、お兄ちゃん。私はここまでにするよ」
「……え?」

 いつもは玄関まで見送ってくれるのに。
 その理由はすぐに話してくれた。

「凛音ちゃんを今見たら、私、何するかわからないから」
「あはは……そうか」

 俺は美鈴からカバンを手にすると、玄関へと一人で向かう。

 ……居る。

 あはは。わかるよ、十年も一緒に居たんだ。
 気配でわかるよ。
 昨日は意表をつかれたけど、こうして注視してみれば感じ取れる。凛音の気配を。

 俺は、玄関の扉を開ける。

 そこには……

「……っ!!!!」

「待ってたわよ……霧都……」

 そこには、着ている制服も乱れ、目の下にクマをつくり、顔色も悪く、髪もボサボサ、頬も痩けた、美少女の欠片も残ってない、俺と同じ顔をした、凛音が居た。

 止めろよ!!そんな目で俺を見るな!!
 決意が揺らぐ!!
 なにか理由があるんだろ?
 話してくれよ!!
 そうしたら、もしかしたら、お前を許せるかも知れない。
 もう一度、やり直せるかもしれない。
 そう思っちゃうだろ……

 俺は唇を噛み締める。

「お前と……話すことなんか……無い」
「……っ!!」

 泣きそうな顔をする凛音。
 そうだよな。『会ったばかりの頃』のお前はいつもそんな感じだったよな。
 泣きそうで、辛そうで、この世の全てに絶望しているような、そんな雰囲気を持っていた。
 そんなお前を、『笑わせてやりたい』そう思って居たのに。
 今じゃ……全く逆のことをしてる……

「き、霧都……その……私……」
「う、うるさい!!俺は行くんだ!!もうお前なんか……お前なんか……」

 俺は逃げるように自転車に駆け寄る。

 ガチャン

 と鍵を外すとそれに跨る。

「や、やだ!!霧都……行かないで……私の話を……っ!!」

「聞かない!!聞くもんか!!お前なんか……他人だっ!!」
「……っ!!!!」

 俺はそう言うと、全力で自転車を走らせた。






 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……胸が痛い……辛い苦しい……

 でも、俺のこの痛みの先に、北島永久さんとの幸せがあるはずなんだ……

 俺は張り裂けそうな胸を押さえ付けて、駅へと向かって行った。



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