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第1章 前編

第二十六話 ~北島さんからの叱責は心に響きました~

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 第二十六話



「ど、どうしたんですか……桜井くん……」
「おはよう、北島さん。ごめん、今日は待たせちゃったね」

 俺が駅に辿り着くと、北島さんは既に駅に到着していたようだった。

 あはは……何やってんだよ、俺。彼女を待たせたらダメだろ……
 途中で自転車から転けたのが原因かな……

 そんな彼女は、俺の様子に少しだけ心配そうに声を掛けてきた。だが、俺はそれに本当のことで答えることはしなかった。

「す、すごく辛そうな顔をしてます。こ、転んだんですか?顔にすり傷がありますよ。それに……寝てますか?目の下のクマも凄いですよ」
「あはは。いやー昨日はゲームに夢中になっちゃってね。徹夜をしちゃったんだよね!!そのせいでふらついて転けちゃったんだよね。かっこ悪いなぁ俺!!」

 俺はそう言うと、学校の方へと身体を向ける。

「早めに学校に行って、少しでも寝れるようにしようかな!!あはは!!」
「……桜井くん」

 訝しげな表情の北島さん。俺は強引に話題を変えるようにした。

「今日から生徒会の業務も本格的に始まるね!!庶務の仕事ってなんなのかな?上手く出来るか不安だけど、頑張って行こうと思うよ!!」
「……あなたが話したくないなら、私は聞きません」
「……え?」

 北島さんはそう言うと、俺の目を見て言った。

「ですが、あなたにとっての私は、その程度の人間ですか?」
「北島……さん……」

「なんでも話して欲しい。そんなことを言うつもりは一切ありません。でも!!そんなに辛そうなあなたを見せられて、私がなんとも思わないと思っているのなら!!バカにしないでください!!」
「…………」

「心配するに決まってるじゃないですか!!何かあったと直ぐにわかります!!私の気持ちをあなたは知ってますよね!?だったら、そんなことをされるこっちの気持ちもわかってください!!」

 俺は、本当に、何をやってんだよ……
 彼女にここまで言われなきゃ……わかんないのかよ……

「…………ごめん。北島さん。俺が、悪かった」

 俺はそう言うと、彼女に頭を下げる。

 そして、

「俺の話を、聞いてくれないか?」

 その言葉に、北島さんは真剣な表情で、首を縦に振った。

 話そう。全部を。

 それで、もし彼女に嫌われるのなら、もう一度。好きになって貰えるように、ゼロなんて贅沢は言わない。マイナスからでも頑張ろう。

 俺はそう思った。




 駅の前のベンチに二人で座り、俺は彼女に話を始める。

「入学式の前の日。俺は凛音に告白をしたんだ」
「……はい」

「幼馴染では無く、恋人になって欲しい。俺のそんな告白に、凛音はこう言ったんだ」

『アンタを男として見たことなんか一度も無いから無理!!』

「な、なんでそんなことを……」
「凛音にとっての俺は『出来の悪い弟』みたいでな。異性として見たことは一度もない。そう言われたよ」

 俺のその台詞に、彼女は言葉を失った。

「凛音にとっての俺は『幼馴染』では無く『家族』だと言われた。だから、入学式の日。君の前でアイツとの関係性を『ただの幼馴染』と言ったのが許せなかったみたいだね」
「南野さんは、良く『家族』という言葉を使います。執着してるとも思えます。なにか理由があるのでは無いですか?」

 彼女のその質問に、俺は答える。

「その理由を、聞かないで逃げてきたんだ」
「……え?」

 俺は彼女から視線を外して、下を向く。

「昨日。凛音から告白された」
「え!!??」

 驚く彼女に俺は続ける。

「霧都の彼女になってあげるわ。と、言われた。理由を聞いたら許せなかった」
「な、なんて言われたんですか?」

「恋人なれば『家族』になれると言われた。そして『弟のわがままを聞くのは姉の務め』そう言われた」
「そ、そこまで……」

「流石に俺もかなりイラッと来てね」

 俺はそう言うと、スマホを取り出す。

「電話は着信拒否にした。メッセージアプリもブロックした。アイツとの連絡手段は全て絶った」

 彼女は再び言葉を失った。

「そして、俺は寝れないまま今日を迎えた。そして、家の前には、俺と同じ顔をした、凛音が居た」

 俺は頭を抱える。情けない、かっこ悪い、死んでしまいたい。

「俺は、凛音の言葉を聞くのが怖かった……聞いたら、揺らいでしまうから……」

「揺らいで……しまう?」

 その言葉に、俺は顔を上げて彼女の目を見て答える。

「俺は君と恋愛をしたいと思ってる。恋人になりたいと思っている」
「……はい」
「その決意が……凛音と話したら、揺らいでしまうもしれない……そう考えたら……怖くて何も聞けずに逃げて来た……」

 ははは……終わったな。

 こんな男、嫌われて当然だ……

 この後、彼女から何を言われるだろうか。

 もうあなたなんか好きじゃありません。

 そのくらいは言われるかな。

 そんなことを思っていた。

 だけど、言われた言葉は………………もっと辛辣だった。

「最低です。嫌いです。私は……桜井くんを許せません」
「…………そうだよね。理由をも聞かずに逃げ……」
「違います!!」
「……え?」

 北島さんは、怒りの眼差しで、俺のスマホを指さした。

「なんで、なんで南野さんの電話を着信拒否にして、メッセージアプリをブロックなんてしたんですか!!」
「……そ、それは」

 彼女は目を伏せて言う。

「……私は……小学生の時に……虐められてました」
「……うん」

 彼女はすごく辛そうな顔をしている。

「その中には……『無視』もありましたよ」
「…………っ!!」

「桜井くんは……桜井くんは!!私をいじめから助けてくれたヒーローです!!そんなあなたが!!なんで南野さんを『無視』するような虐めをするんですか!!」

「逃げるのは仕方ないです!!でも、無視はしてはダメです!!今すぐ着信拒否とブロックを解除してください!!」
「は、はい!!」

 俺は直ぐにスマホを操作して、凛音の着信拒否とブロックを解除した。

「今すぐ行ってください!!」
「……凛音の……ところに、かな」

 俺のその言葉に、彼女は首を縦に降った。

「私が好きになった桜井くんは、『他人の痛みがわかる、優しい人』です。桜井くん……私にもう一度、あなたを好きにならせてください」

 彼女はそう言うと、フワリと笑った。

「……ごめんね、北島さん。俺、凛音のところに行くよ。そして、謝ってくる」
「はい。全部終わったら、話してくださいね。その……桜井くん……立って貰えますか?」
「……え?……はい」

 俺な立ち上がると、その前に北島さんも立つ。
 そして、彼女は俺の身体を抱き締めた。

「き、北島さんっ!?」
「…………桜井くん。頑張ってください。私ごときの抱擁ではなんの足しにもならないかも知れませんが、桜井くんならしっかりと解決してくれると信じています」
「ごとき。なんかじゃないよ。すごく力になってるよ」

 そして、彼女は強い目で俺を見て言う。

「南野さんはライバルですが、敵ではありません。こんな形で勝つのは不本意です。キチンと正々堂々と正面から勝ってみせます」

 彼女はそう言うと、俺から離れた。

「行ってらっしゃい。桜井くん」
「うん。行ってきます、北島さん」

 俺は彼女に別れを告げ、自転車を元来た道へと走らせた。

 先程までの胸の痛みはもうない。

 あるのは、北島さんへの感謝と、凛音への謝罪の気持ち。

 もう一度。北島さんに好きになって貰えるように、
 もう一度。凛音と笑い合えるように、

 俺は全力で自転車を漕いだ。


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