十年間片思いしていた幼馴染に告白したら、完膚なきまでに振られた俺が、昔イジメから助けた美少女にアプローチを受けてる。

味のないお茶

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第1章 前編

永久side ③

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 永久side  ③



「頑張ってください……桜井くん……」

 私は自転車を漕いで、去っていく大好きな人の背中を見送りました。

 そして、その背中が完全に見えなくなった頃。私の本心が口を出てしまいました。

「行って……しまいました……」

 後悔が無い。と言えば嘘になります。

 あれだけ傷心している彼の心の隙間を埋めるような言葉を吐いていけば、きっと彼は私に『依存』してくれます。

 それは、恋人なんかよりももっと深い関係に持って行ける感情。彼を私だけの人に出来る可能性を高めるものです。

 それに、南野さんから桜井くんを引き離す絶好の機会。でもありました。

 ですが、私はそれをしませんでした。

 私が好きになった彼は『他人の痛みがわかる、優しい人』です。あそこで、南野さんの家に行けないのなら、私の好きな桜井くんではなくなってしまいます。

 それはもう、桜井くんではありません。
 彼の形をしたなにかです。

 だから、私は彼を送り出しました。


「それでは、私は私が出来ることをしましょう」

 私は自転車を漕いで、独りで学校へと向かいました。

 たった一日だけですが、彼と過した通学路を思うと、やはり一人は寂しかったです。






 学校へと辿り着いた私は、自転車を駐輪場に停めると、教室へと向かいました。

 そして、教室の扉を開けると、学級委員の二人が居ました。

「おはようございます。桐崎さん、星くん」

 私は二人に朝の挨拶をしました。

「おはよう、永久ちゃん」
「……おはようございます」

 窓から外を見ていた桐崎さんと、スマホゲームをしていた星くんは私の方を向いて挨拶を返してくれました。

「今日は桜井くんとは一緒じゃないんだね?」

 何かあったのかな?

 と桐崎さんから聞かれました。

 なので、ここで私の出来ることをすることにします。

「桜井くんと、南野さんは体調が優れないそうなので、遅刻……もし体調が戻らなければ欠席する。そう連絡がありました」

 無断欠勤では聞こえが悪いですからね。

 私がそう言うと、桐崎さんは首を縦に降りました。

「了解だよ。根岸先生には話を通しておくね。あと星くん。学級日誌には二人が体調不良だったって記入しておいてもらってもいいかな?」
「うん。そういう事ならやっておくよ」

 二人のやり取りを見てると、上手くやって行けそうだなと思いました。

 そんなことを考えていると、桐崎さんから声を掛けられました。

「永久ちゃん。ちょっと教室の端っこで話をしよ?」

 恋バナしよーよ。

 なんて言ってきました。


「あはは。了解です」

 なんて言いながら、二人で場所を変えると、

「何があったの?」

 と聞かれました。

 わかります。二人のことですね。

「全部終わったら、桜井くんから説明してもらえることになってます。そして、今、彼は南野さんの元に行きました」
「…………良かったの?」

 彼女が言いたいことはわかります。
 ですが、それはもう答えを出したことです。

「はい。私が好きになった桜井くんは、ここでキチンと南野さんの所に行ける桜井くんです」

「あはは……杞憂だったね」

「でも、後悔がないわけではありません。今でも、このまま桜井くんを引き止めてしまえば……と考えてしまいます。この後、桜井くんが『やっぱり凛音と付き合うことになった』なんてことになったら……」

「それは大丈夫だと思うよ」
「……え?」

 桐崎さんの言葉に、私は疑問符を浮かべました。

「桜井くんはね、『永久ちゃんと胸を張って恋人になる為に、凛音ちゃんの所に行った』んだよ」

「…………そうでしょうか」

「そうだよ。桜井くんは凛音ちゃんへの感情を精算しに行ったんだよ。だからさ、永久ちゃんは桜井くんが帰ってきたら、いっぱい甘やかしてあげなよ」

 私は桐崎さんの言葉に、笑いました。

「そうですね。帰ってきたらいっぱい甘やかします。かなりきついことを言ってしまったので……」

 私のその言葉に、桐崎さんが反応しました。

「……え?なんて言っちゃったの」
「最低です。嫌いです。許せません……と」
「あははーそれは辛辣!!でも、それが言えるくらいの間柄になれたんだね!!」

 きちんと心から相手のことを思って叱責ができる。
 これってかなり仲が良くないと出来ないよ?

「そう言って貰えるとありがたいです」

 そうしていると、段々と教室に生徒が集まってきました。

 いろいろと話してる頃でしょうか……





 桜井くん……私はあなたを……信じてます。
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