精霊様と魔法使い~強奪チートで妖精キングダム~

くろげブタ

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21.黒い水底

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 アリサ将軍を伝令に俺は南へ。
 ミーシャの捜索へと向かう。

 村の南を東西に流れる大きな川。
 辿り着いた川辺は丈の低い草木が立ち並び、丸石の転がる一面の河原が広がっていた。

「ミーシャ君! どこか! 居るなら返事をしてくれ!」

 夕暮れ時とはいえ、まだ見通しは聞く明るさ。

 さらに俺は精霊アイに魔力を灯す。
 精霊アイは精霊の目。
 その目は、暗闇をも見通す暗視装置としての力がある。
 練度Fのため効果は知れたものだが、ないより余程マシというもの。

 対岸までの距離。およそ100メートルはある巨大な川。

 村の水源である大きな川。
 近くに広がる平原。
 トータス村はまだまだ発展するだろう。
 モンスターの脅威を退ける事ができればだが。

「カメーッ!」

 河原に寝転ぶのは大きな亀にも似たモンスター。

────────────────────────────────────
名前:タートルマン

体力:300
魔力:220
────────────────────────────────────

 大きく分厚い甲羅。
 その大きさは2メートル近くもある巨大な亀。

 しかし、いくら大きかろうが、鈍重な亀ごとき。
 負けるとは思えないが、今は相手取っている場合ではない。

 威嚇するかのように咆哮するタートルマンを避け、俺は河原を進む。

 相変わらずミーシャの姿は見当たらない。

 まさか川にでも入ったのだろうか?
 確かに異世界は夏といった気候。
 日が落ちた今も、体感で30度をゆうに超える気温。

 水浴びしたくなる気持ちは分かるが、陸上と水中では全く勝手が異なる。
 陸上では鈍重なタートルマンですら、水中では大きな脅威。
 元々が水棲のモンスターであれば、脅威はその比ではない。

 辺りは薄暗いを通り越し、本格的に闇が落ちようとしていた。
 精霊アイをもってしても、周囲の見通しが悪い。

 その時。川の中ほど。
 岸から50メートルほどの地点で、ボンヤリ光る明かりが目に入る。

 あれは……何だ?
 見える範囲に別の明かりはない。

「シルフィア様は河原の探索を。もしも衛兵が来てくれたら、私は川の中を探していると伝えてください」

「にゅ?」

 大丈夫なの? とばかりに小首をかしげるシルフィア様。

 大丈夫ではない。
 俺とて泳げはしても、あくまで人間としての泳ぎ。
 川だから鮫はいないだろうが、モンスターはいるだろう。

 それでも、俺には体力自動回復がある。
 そして──

「うおおお!」

 俺を威嚇するタートルマン。
 その巨体へ向けて突進する。

 ドカーン

 A級体当たりの衝撃は、トラックの衝突。
 タートルマンの巨体が浮き上がり、河原を転がっていた。

 逃げるばかりだった俺の反撃に驚いたのか、慌てて首を引っ込めるタートルマン。
 甲羅に引きこもり魔力バリアを展開していた。

 剣で切ろうが槍で突こうが、その固い甲羅に阻まれ、魔法は魔力バリアに阻まれる。
 攻撃力は皆無だが、その守りは鉄壁。
 同クラスのモンスターならば、手も足も出ず諦めるしかない万全の防御態勢。

 ──残念だが、俺は同クラスではない。

「どすこいっ!」

 ガシャーン

 A級パンチの破壊力は、メガトンハンマーの破壊力。
 叩きつける拳が、タートルマンの甲羅を一撃で叩き割る。

 露わになったその頭。
 安住の地。絶対安全なはずの甲羅を奪われ、守るべき壁は何もない。

 俺はその頭にA級スキルかみつきで、噛みついた。

「カメギャー!」

────────────────────────────────────
獲得スキル
皮膚呼吸:C(NEW)

体表を用いて外呼吸する。
────────────────────────────────────

 水中において人間が不利なのは、動きが鈍重になるからだけではない。
 水中において、呼吸できないというのが最も大きな弱点。

 動けば動くほど酸素を消費する。
 にも関わらず酸素を補充する事はできない。
 水中では満足に動く事もできず、溺れ死ぬのだ。

 それなら、亀はどうなのか?

 爬虫類である亀は人間と同じく肺呼吸する生物。
 だが、それだけではない。
 皮膚から水中の酸素を取り込み、皮膚から二酸化炭素を排出する。
 皮膚呼吸を併用する事で、水中で長時間の行動が可能となっている。

 そして今。
 俺はタートルマンから、その皮膚呼吸を譲り受けた。

 もちろん。皮膚呼吸だけでは酸素が不足する。
 それでも、水中でしばらく活動する事は可能となった。

 水面に浮かぶ光。変わらず何の明かりかは不明のまま。
 はたしてミーシャがいるのか?

 ザプーン

 俺は衣服を脱ぎ捨て、水中へ身を躍らせる。

 ゴボゴボ……泳ぎづらい。
 片手で泳ぐのは初めての体験。
 しかも、その片手は槍で塞がっている。

 まあ、息継ぎをしなくとも息苦しさはないのが幸いだ。
 水の透明度も高い。精霊アイがあれば、ある程度の視界は効く。

 ザブザブ泳ぎ、いよいよ明かりのたもとまで泳ぎ着く。
 そこでは、辺り一面の水が光を放っていた。

 発光する水。
 なかなかに綺麗だが、いったいこの光は? これも魔法なのか?
 だとしたら、いったい誰が? 何のために?
 ミーシャなのか? だとしたら、その姿はどこに?

 慎重に周囲を泳ぎ探る。
 その俺の足首を、何者かが強烈な力で掴み取っていた。

「もがっ?!」

 光の水底。
 光の届かない川底から伸びる細く黒い影。

 俺の足首を掴む。これは触手か? イカ? タコ?
 馬鹿な……ここは川だぞ?

 だが……同時に異世界でもある。
 異世界の川にタコやイカが存在しないなど。
 そのような保障は何もないのだ。

 川底から、砂の中から姿を現したのはドス黒く染まる魚影。
 丸々と太った身体。
 その頭頂部には、光るアンテナのような器官が伸びていた。

 こいつは、提灯アンコウか?
 しかも、お腹の部分。
 ヒレと思わしき部分からタコのような触手が伸び、俺の足をがっちり掴んでいた。

────────────────────────────────────
名前:オクトパスチョウチンアンコウマン

体力:260
魔力:330
────────────────────────────────────

 野郎!
 アンコウなのか? タコなのか?
 どちらにしても、川に生息するはずのない生物。

 まさか俺の天才性が仇になるとは……

 天才であるがゆえ、川にアンコウが生息するなど。
 まるで考えるに至らなかったのが俺の敗因。

 アンコウマンは、その口から墨を吐き出した。

 先ほどまで眩しい程に光る水が、ドス黒く墨に染められる。
 いかな精霊アイといえ、墨汁の中を見通す事は不可能。

 だが、それで俺の目を潰したと思ったら大間違いだ。

 魔力サーチは第六感。
 暗闇の中。迫る気配。

 その気配を頼りに、手持ちの槍を前に突き出した。

 しかし、手ごたえは何もない。
 闇の中。ただでさえ鈍重となる水中。
 覚えのない槍を振るったのでは、当たるはずもない。

 バチーン

 半面。俺の身体を鞭が打ち付ける。
 鞭ではない。これはタコの触手だ。
 吸盤が俺の肌に吸い付き、離れると同時に俺の皮膚を削り取る。

 更には 溺れさせようとでもいうのか。
 足首に絡みつく触手が、俺を振り回す。
 皮膚呼吸のおかげで溺れはしないが、三半規管が惑わされる。

 いや……その皮膚呼吸ですら、タコ墨によって妨害されていた。
 俺の皮膚にベッタリへばりついた黒い墨。
 皮膚が覆われては、呼吸ができない。

 こと水中戦においては、水棲生物に地の利がある。

 俺のA級パンチも。
 A級体当たりですら、水中ではその真価を発揮する事はできない。
 水の抵抗に阻まれ、衝撃を伝えることすら敵わないからだ。

 ならば──俺が取るべき手段は一つ。

 ガブリ

 足首に絡みつく触手へと、俺は噛みつき、引きちぎる。

 ゴクン

────────────────
獲得スキル
発光:C(NEW)

光ります。
────────────────

 タコだけあって、なかなかに旨い。
 まだまだ窮地ではあるが、身体の自由は取り戻した。

 獲得したスキル。
 さっそく試させてもらう。

 ピカー

 俺の身体が淡い光を放つ。

 にも変わらず視界は黒く染まったまま。
 いくら光を照らそうとも、タコ墨で黒く染まる水を晴らすことはできない。

 それで問題ない。
 光合成。光を受けて、俺の体内で酸素が生成されていく。

 俺自身が。俺の細胞が光るのだ。
 いくら周囲が闇に覆われようと。
 光合成するに支障はない。

 俺を罠にはめた手際だけは褒めておこう。
 だが、所詮はアンコウにして所詮はタコ。
 貴様に出来るのは、そこまでだ。

 人間は進化する生き物。
 火を道具を知恵を使って。
 かつては人類未踏の地であった深海にすら進出している。

 そして、その人間の中でも俺は天才。
 俺は水中で精霊ボックスを解放する。

 異次元から溢れ出るのは豚男。オークマン。
 村に戻ってからみんなで食べようと取っておいたのだが……仕方がない。

 ガブリ

 噛みつき。

 ゴクリ

 暴飲暴食。

────────────────────────────────────
獲得スキル
槍術:D(NEW)

槍の扱いが上手くなる。
────────────────────────────────────

 水中を漂う俺の身体。
 その身体を目がけて伸びる一筋の黒い影。

 ズドスッ

 俺の手に持つ槍が、迫る触手を串刺しにする。

 水の抵抗があろうが、鋭利な刃物であれば相手を斬り刺せる。
 そのための槍にして銛。

 貴様がアンコウであるならば、漁師は、銛は貴様の天敵。

 そして、今の触手の動きで、貴様の位置は判明した。
 こと水中戦においては、水棲生物に地の利があるという。
 だが、シルフィア様は。俺の契約した主は、水と風を司る精霊様。

「もがもが・もがー(放て。水の奔流。ウオーター・ジェット!)」

 船舶の推進方法の1つ。
 水を噴出するその勢いで、前方に進む推進方法。
 ウオータージェット推進。

 俺の身体は高速の魚雷となって突き進み、アンコウマンを突き刺した。

 水と風を司るシルフィア様。
 その下僕である俺がたかが魚類に負けたとあっては、シルフィア様に顔向けできないというものだ。
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