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4/16.超SM
しおりを挟む──宇宙軍 外縁宙域
戦場では、すでに三機のSM(スペース・人型・マシーン)が待っていた。
一機はエイス少佐と同型のアカツキ。
残る二機は初めて見るSMである。
見た感想は一言、大きい。それだけだ。
その全長は、アカツキ改のゆうに二倍はある。
スペース空母で運用する都合上、量産SMは大きさに制限がある。
だが、専用の、それも試作機となれば話は別だ。
大きければ強いというわけではないが、装甲、火力ともに高いように見える。
「へっ! おっさんビビッてんじゃんっ」
「だっせーそれでエースとか。ないわー」
まずは挑発というわけか。
「口喧嘩をしに来たわけではない。私たちは戦いに来たのだよ」
「なめた口聞いてんじゃねーぞっ」
「ギッタギッタにしてやるっつーの」
威勢は良いが、それは自身の実践不足を示すだけ。
頭に血が昇っては、勝てる戦いにも勝てなくなる。
「馬鹿ものっ! 落ち着けっ! いいか? お前たちの研究には莫大な予算がかかっている。言うまでもないが本気でやれ」
「んなもん、あったりまえだっつーの!」
「もうヤッテいいんしょ? んじゃやるぜ!」
エイスは二機の正面から逃れるよう、バーニアを吹かして側面へと回り込む。
側面を取られたにも関わらず、全く動こうとしない二機の大型SM。
なんだ? 私を舐めているのか?
まあ良い。それなら落ちてもらう。
エイスがスペース小銃のトリガーを落とす。
ドンッドンッドンッ
ドゴァーン
直撃。これがスペース人間プロジェクト?
まさか、ここにきて故障でもしたのだろうか?
いや……まさか!? 直撃だぞ?
爆風の消え去った後には、全く無傷の大型SMの姿があった。
「へっ! おっさん喜んだ? 一瞬喜んだんじゃね?」
「うあはっ! おっさんビビッテる? これビビッテるっしょー?」
大柄な機体にふさわしく、ぶ厚い装甲。
そのうえ、新型装甲でも使われているのだろう。
「極秘開発された超ド級SM。ドキュウ壱号と弐号だ。エイス少佐。残念だが、スペース小銃が直撃した程度ではビクともしないのだよ」
そんなものを開発したなら、前線の量産機に使えば良いものを。
「これほど高価な機体を量産できるはずないだろう? 一機でアカツキ二〇〇機分の価格だ」
まったく……
ここで破壊されるだけだというのに、無駄遣いをする。
いくら肉厚の新型装甲といえど、直撃弾を食らい続けてもつはずがない。
さらには関節部など、装甲の弱い箇所もあるはずだ。
動かない木偶の坊なら、いくら頑丈でも意味はない。
続けて次弾を放とうと構えるエイスの照準。
そこから、一瞬にして二機の姿が消えていた。
「エイス少佐。二機が鈍重だとでも思ったか? まさかな。大型の機体に大型の動力炉。無数に取りつけられたエンジン。重力のない宇宙空間こそ、巨大な機体が最も生きる戦場よ」
確かにそうかもしれない。
エイスも機体を加速させると、ランダム回避機動で周囲を索敵する。
しかし、巨大な機体のデメリットは他にもある。
「ふっ。エイス少佐の考えていることは分かるぞ。巨大な機体は目立つと言いたいのだろう? だが、この二機の圧倒的スピードについてこれる者などいるか? いないだろう」
確かに狙って当てるのは苦労するだろうが……
そこはエイスがエースたる腕の見せ所である。
ドンッドンッドンッ
無造作にも見える構えから放たれた銃弾。
ズガァーン
高速移動するドキュウ壱号を捉えていた。
「なああっ? な、なんでだよっ! なんで俺が当たるんだっ!」
直撃。だが、まだ浅い。
「まさか!? 高速移動するドキュウ壱号のスピードは四〇スペースノットだぞ? それを正確に当てるとは……」
重力が存在しないとはいえ、慣性は存在する。
機体が大型であればあるほど。
質量が大きければ大きいほど。
方向転換。小回りは不得手となる。
いくら高速だろうが、動きが直線的であるなら、エイスにとって当てるのは難しいことではない。
ドンッドンッドンッ
ズガァーン
「うぐわー! てんめー。ツィー援護しやがれ!」
ドキュウ壱号を狙うエイスに対して、横合いからドキュウ弐号が両手のスペース機関銃を乱射。
接近する。
「死ねよっ! 死ね死ねしねー!」
ドッドッドッドッドッドッ
あの速度で移動しながら連射する技術は、なかなかのものがある。
だが、それだけだ。
高速移動と連続射撃。両立することはできない。
移動しながら乱射したのでは、おおざっぱに狙うのが精いっぱいである。
それでも通常のパイロットであれば、雨あられと降りそそぐ弾幕を回避することは、困難であろう。
「んだよっ! おかしいだろっ! おいっ。どーなってんだよ!」
その弾幕を、エイスはまるで相手の射線が読めるかのように回避する。
ツィーがドキュウ弐号のトリガーを引く時、そこにエイスの姿は存在していない。
「これは……エイス少佐が長年の実践から得た経験なのか? 射撃する瞬間が分かるとでも言うのか?」
やっきになってエイスを追いまわす二機の超SM。
だが、未だエイスに対して攻撃を当てることはできない。
逆にエイスの正確な射撃で装甲を削られ、バーニアを撃ち抜かれ、徐々にではあるが損傷を続ける二機。
といっても、高速移動を続ける二機に対して、エイスも正確な急所を狙い撃てずにいた。
それでも、持久戦になればエイス有利である。
高速移動しながら機関銃を連射する二機の超SM。
その戦闘スタイルから燃料、弾薬。
そして、連続加速のGに肉体が長時間保たないであろうことは明白であった。
「ワン! ドキュウ壱号のスペース念動力の使用を許可する。後方で用意しろ。ツィーはドキュウ弐号でエイスの足止めだ。決して壱号に近づけるなよ」
ここまで戦況を見守っていたトク隊長が各機に指示を下す。
スペース念動力。
聞いたことのない兵装。見ておきたい気もするが……
お互いの全力を出し切る勝負は、スポーツだけで良い。
エイスを遮ろうと動くドキュウ弐号。
その眼前に、エイスはスペース散弾爆雷銃をばらまいた。
ドガシャコン
「うぐお」
遠距離からの散弾。
いくつか命中したところで、重装甲の前に、大したダメージは与えられない。
しょせんは目くらまし。
その隙に、後方で動きを止めるドキュウ壱号に向けて、エイスは加速する。
敵に奥の手があるなら、奥の手を使わせないで勝つ。
勝利こそが全て。それが戦争。
「おっおいっ! 待てよっ! おまえっ! 卑怯っしょ!」
ドキュウ壱号へ向かうエイスの動きを見たドキュウ弐号は、焦ったように機関銃を乱射。
全速力でエイスを追いかける。
その動きが単調になっていた。
馬鹿め。狙っていたのは貴様だ。
突如、ドキュウ壱号に向かうと思われたエイス機が反転。
一瞬にしてドキュウ弐号の直前まで迫っていた。
「んなっ! ちょっ、待って! お、俺っすかっ?!」
そのとおり。
すれ違いざまにスペース刀剣を振り抜くエイス。
ズギャーン
やはり固い。
SMを一刀両断するサーベルが、まさか折られるとはな……
「うげぇーいってぇー……ワン! 助けてくれ! 怪我しちまったっす! いってーんすよお!」
折れたままドキュウ弐号の胴体深くめり込んだ刀剣。
その隙間からは、機関部が丸見えであった。
露出した機関部に銃口を押し当てる。
ドガガンッッ
スペース散弾爆雷銃の発射音に続いて、一際盛大な爆光が宇宙に咲き誇る。
重装甲の超SMといえど、ひとたまりもない。
「まさか……まさか弐号が? 超ド級だぞ? それがただのSMに? そんな馬鹿な!」
残るは動きを止めたまま何かを準備するドキュウ壱号。
一気に勝負を決めるべく加速するエイス。
その進路を遮らんと、新たな銃撃が襲い掛かっていた。
「やらせん。やらせんぞ! 特務隊の名誉にかけても、一機のSMにやられるなど許されんのだ!」
戦いを見守るはずのトク隊長。
その乗機である量産型アカツキであった。
話が違う。と言っても無駄だな。
元々が軽量級のアカツキ。
SMとのドッグファイトを主眼に開発された機体は、軽く、取り回しに優れる。
スピードはそれ程ではない……が、嫌らしい動きをする。
エイス機のように改造されているわけではない。
ただのアカツキ。
それでも、さすがは隊長というべきか。
トク隊長を追えば、ドキュウ壱号から離れる。
かといってドキュウ壱号へ向かおうとすれば、ここぞとばかりに銃撃が襲い掛かる。
エイスの移動を阻むように。
移動先を潰すよう、銃撃を繰り返していた。
「トク隊長。あなたが新型に乗るべきだったのではないか?」
「嬉しい言葉だが、それはドキュウ壱号のスペース念動力を見てからにすることだ」
そこまで凄い兵器。
それなら、なおさら使わせるわけにはいかない。
ドンッドンッドンッ
エイスのスペース小銃が、その正確な狙いがトク隊長を追い詰める。
ドキュウ壱号へ向かうのを諦めたか?
そう思わせるエイスの苛烈な攻勢。
たまらず、スペース盾を構えるのが精一杯のトク隊長。
ドグアァッン
続けざまの着弾に、耐えきれず爆発するスペース盾。
爆炎が晴れる後には、ドキュウ壱号へ向けて加速するエイスの後ろ姿だけがあった。
「ぬっ! 待て! エイス少佐ともあろうものが敵に背を向けるかっ!」
改造されたアカツキ改の加速。
量産型では、追いつくことはできない。
動きを止めたままのドキュウ壱号を射程距離に捉えるエイス。
──だが、エイスの直感が危険を告げていた。
それも自機の四方八方から。
導かれるままに急制動、緊急回避するエイス。
ドッドッドッドッドッドッ
その直後、エイス機の脇を複数の銃弾が駆け抜けていた。
いったいどこから?
回避機動を続けるエイスを追随するように、銃撃が宇宙空間を切り裂いていく。
射撃先を確認するエイスの視界に、SMの姿はない。
にも関わらず、四方八方から放たれる銃撃。
通常のパイロットであれば、回避するどころか撃たれたことすら気づかず撃墜されている。
それ程の速度と精密性を併せ持った攻撃。
だが、エイスは今も回避機動を続けていた。
上……上……下……左右……ちっ。同時か。
エイスは直感のままに、アカツキ改のバーニアを吹かせる。
「な……なぜだ? エイス少佐。なぜスペース念動力による攻撃を避けられるのだっ!」
エイスに応える余裕などない。
機体をかすめる銃弾が、アカツキ改の装甲を削り取る。
酷使を続けるバーニアが、熱融解の警告音を発する。
それでも、止まるわけにはいかない。
回避を止めれば死ぬだけとあって、必死に回避機動を続けるエイス機。
打って変わって、相変わらず動きを止めたままのドキュウ壱号。
他にSMの姿はない。
ということは、この攻撃はドキュウ壱号の攻撃に間違いない。
いったい何をしている?
目を凝らすエイスの瞳に、四方八方に広がる細いケーブルが目に入っていた。
これは……有線による遠隔操作!?
そうか無人攻撃機か!
「ははっ。エイス少佐も気づいたか? そうだ。ドキュウ壱号は無人攻撃機を六機も操作しているのだ。同時に六機だぞ?」
無人攻撃機。
実はエイス自身も、無人攻撃機による遠隔操作をテストした経験がある。
無線通信を妨害するスペース撹乱粒子が散布された戦闘宙域。
無線での制御は不可能とあって、有線ケーブルでSMと接続。
コクピットから遠隔操作する、いわばラジコンのようなものだ。
無人である利点を生かして小型、隠密化が追求された機影を、漆黒の宇宙空間で目視することは困難である。
襲われたパイロットは、何も存在しない空間からいきなり襲われたと錯覚。
反撃の暇すらなく撃墜される。
だが、本体であるSMの操作に加えて無人攻撃機の遠隔操作。
二機を同時に操作するなど、およそ常人にできることではない。
テストの結果、SMによる運用は無理だとエイスは判断していた。
運用するのであれば、スペース戦艦の移動砲台としての役割が適任だろうとも。
その無人攻撃機を同時に六機も操作するなど……もはや人間業ではない。
これがスペース人間。脳を人為的に改造した、その成果というわけか。
「エイス少佐の回避技量には感服するが、それも限界だ!」
都合、六対一による戦闘。
回避を続けるアカツキ改のバーニアは、オーバーヒート寸前。
その回避機動に遅れが見えていた。
ドガァン
とっさに構えるスペース盾が、銃撃によって破壊される。
次に回避が遅れた場合、エイスに防ぐ術はない。
「勝負あったな。エイス少佐!」
有線制御の無人攻撃機。
使いこなせるならば驚異的な兵器だが──
そもそも、格段に有効な兵器であれば、量産化され前線で大暴れしている。
そうでないというからには、相応の欠点があるわけだ。
何よりそれは、テストに参加したエイス自身がよく熟知している。
エイスはバーニアを吹かせると機体を反転。
射程距離まで後わずかと迫ったドキュウ壱号を諦め、戦場を離脱する。
「なっエイス少佐! いかん。逃がすな! 追え! 追うんだ!」
離脱しようとするエイスを四方から追いすがる無人攻撃機。
だが、距離が離れるにつれ、その動きは鈍くなっていた。
「しまった。有線ケーブルの延長限界か?」
無人攻撃機の欠点その一。
有線ケーブルという物理的制限から、活動距離が短くなること。
有線ケーブルが伸びきって、なお進もうとする無人攻撃機。
六機がバラバラの方向へ。
上に進もうとする者と下に進もうとする者が引き合い、お互いの動きを阻害する。
ドガシャコン
動きの鈍る無人攻撃機に向けて、エイスはスペース散弾爆雷銃を斉射した。
拡散して撃ち込まれる爆雷。
広範囲をカバーする反面、その一弾一弾は、SMを撃墜するには威力が不足している。
ズドガーン
だが、小型軽装甲の無人攻撃機を撃墜するには、十分な威力。
これが、無人攻撃機の欠点その二。
小型化を追求した機体は脆く、加えて搭載する燃料、弾薬も少量となる。
このままケーブル限界で戦えば良い。
いや。そもそも戦う必要すらない。
時間を稼ぐだけで、相手は勝手に戦闘不能となる。
だが、そうはさせじとトク隊長がエイスに追いすがる。
エイスをドキュウ壱号の射程内に、ケーブル範囲内に釘付けする。
本来は相方であるドキュウ弐号の仕事であったのだろう、その役目。
無人攻撃機の攻撃を回避し続けたエイス。
その超速度に慣れはじめたエイスにとって、トク隊長の動きはひどく緩慢に感じられた。
ドンッドンッドンッ
これまでエイスの攻撃を防いでいたスペース盾が破壊された今。
ズドガァン
機関部に直撃。
トク隊長にエイスの攻撃をかわす術はない。
「ぐぅっ! もはやこれまでか……ドキュウ壱号ッ! ワンっ! 聞こえているか! 無人攻撃機の制御を六機から二機へ! 壱号本体を同時に動かせっ! このままだと──」
トク隊長のアカツキが爆散する。
残るはドキュウ壱号のみ。
トク隊長の遺言を聞いていたのか、目を向けるドキュウ壱号は、本体のエンジンを点火。
距離を離したはずのエイス機へと。
ドキュウ壱号はその加速を生かして、一息に射程に捉えていた。
お互いの速度差から、射程を脱するのは不可能。
これで、無人攻撃機の欠点その一。
有線ケーブルによる、射程距離の制限はなくなったわけか。
そして、始まる二機の無人攻撃機による遠隔攻撃。
加えて、エイスを追いながら機関銃を連射するドキュウ壱号。
六機の攻撃から、二機と本体の攻撃へ。
回避の負担が減ったはずのエイスだが、ここまでの戦闘で酷使したバーニアは限界を超え、すでに熱融解をはじめていた。
これ以上の回避機動は限界。
であれば、エイスはアカツキ改のスペース小銃を構える。
次の攻撃をかわした時が勝負。
常に相手の。無人攻撃機の射程内。
逆に言えば、相手の本体もまた、こちらの射程内。
本体を倒せば勝負は終わるのだ。
重装甲のドキュウ壱号。
それでも、コクピットへ。同一箇所へ直撃を重ねれば破壊は可能。
ダンッダンッダンッ
無人攻撃機から放たれる銃撃。
エイスはアカツキ改の四肢を振った反動で、もがくように回避する。
右腕に構えるスペース小銃。
エイスがトリガーを落とそうとしたその時──
ビー
アカツキ改の右腕を、光が通過していた。
ドガァンッ
爆発。スペース小銃と同時に吹き飛ぶ右腕。
ダンッダンッダンッ
ドガァンッ
続けて放たれる銃弾が、アカツキ改の左腕を、両足を破壊する。
バーニアの限界を超えたアカツキ改に、回避する術はなかった。
気づけば、アカツキ改の目の前に迫るドキュウ壱号。
その腹部が大きく開かれ、覗き見える砲身が光ると同時。
ビー ドガァンッ
アカツキ改の頭部が吹き飛んでいた。
これが先ほどの光線の正体。
回避の暇もない。光速の攻撃。
エイスも噂でしか知らないスペースビーム兵器。
まだ実用に耐えられる代物ではない。試作段階だと聞いていたが……
試験部隊なら運用しているのも当然か。
「おいおいおいおいーおっさんよーどうしたっ? もう抵抗しないの?」
なぶるつもりかドキュウ壱号は腕を伸ばすと、アカツキ改のコクピットハッチハッチを剥ぎ取っていた。
「うはぁおっさん丸見え。このまま宇宙に放り出したら、おっさんどうなるの? 漂流して酸欠で死ぬの?」
脱出ポッドが使えない現状。
スペース服の酸素タンクでは、三時間が漂流限界。
「あーおっさん苦しめるには、どうするのが一番だろうな。このまま殺したら、おっさん楽だよなぁ。やっぱ拷問か? 拷問が一番だよな?」
納得したのか、ワンはドキュウ壱号の腕をアカツキ改のコクピットへ滑り込ませるように差し込んでいた。
SMの腕で私をひねり潰すつもりか?
だが、戦場に情けは無用。殺せる時に殺す。
それができない。敵をなぶるような奴は、所詮は三流でしかない。
それは、命を賭けて戦った敵への礼儀である。
何より……
エイスはアカツキ改のトリガーを引く。
ダッダッダッダッ
胸部の対人用スペース機関砲が唸りを上げ、至近距離からドキュウ壱号を直撃する。
一瞬にしてモニターを覆い隠す銃弾と煙。
しかし、所詮は対人用。
もちろん装甲に弾かれ傷一つ付けられない。
だが、発射の反動によりアカツキ改は、自身を拘束する腕を逃れていた。
さらにエイスは続けてスペース機関砲を発射する。
ダッダッダッダッ
周囲を漂うのは、ケーブルでつながれた二機の無人攻撃機。
銃撃により、無人攻撃機とドキュウ壱号を接続するケーブルを切断していた。
「んなっ! おっさん、しつこいんだよっ」
銃撃に一瞬不意をつかれたワンが、機体を立て直す。
間髪いれず振るわれたドキュウ壱号の腕は、アカツキ改のコクピットを叩きつぶしていた。
「へっ。おっさん悪あがきしやがって。ざまぁみろっての!」
アカツキ改を、恨みとばかりにひねり潰し続けるワン。
そこにエイスの姿はない。
煙に紛れてコクピットを飛び出したエイスは、無人攻撃機へと取りついていた。
トラブルによってケーブルが切り離された場合も、手動で制御できるよう用意された制御盤。
そして、エイスのスペース携帯電話には、テストで使用した制御プログラムが残されていた。
エイスは無人攻撃機にスペース携帯電話を接続。無言で作業を続ける。
ドグシャーン
アカツキ改。共に戦ってきたエイスの愛機。
アカツキ改はドキュウ壱号の腕に潰されながらも、まるでエイスの身代わりになるかのように、ワンの注意を引き続けていた。
無人攻撃機の制御……確保。
無人スペース小銃……残弾有り。
照準調整……良好。
叩き潰されていくアカツキ改。
その機体を振り返ると、エイスは自身の右手を掲げる。
ありがとう。そして、さよならだ。
敬礼とともに、左手に握るスペース携帯電話のボタンを押した。
ダンッダンッダンッ
瞬間。無人攻撃機から放たれた銃弾。
ハッチを取り払われ、露わとなったアカツキ改の動力炉を直撃する。
ズドガァーン
スペース動力炉が爆発。
間近にいたドキュウ壱号をも巻き込む、大爆発と化していた。
それでも、さすがは超ド級SM。
間近で爆発に巻き込まれてなお、その装甲は姿を保っていた。
だが、その腹部。
スペースビーム光線を発射するため開口した腹部は別である。
ドゴンッ
スペースビーム光線が試作段階なのには、理由がある。
スペース光を収束。発射するためには、多大なエネルギーが必要となるのだ。
通常のSMのスペース動力炉ではとても足りないエネルギー。
だからこその超ド級SM。大型の機体に大型の動力炉。
しかも、その動力炉と砲身を直結させる必要があるという。
つまり、何が言いたいかと言うと。
砲身に爆弾を抱えて戦うような物だということ。
ドズンッ
砲口へ飛び込んだ爆発が引火。
砲身から盛大な光を噴き出すドキュウ壱号。
ドゴズドーン
一際大きな光とともに爆発。四散していくドキュウ壱号。
同時にアカツキ改もまた、その姿を消していく。
獅子は兎を駆るにも全力を尽くすもの。
殺せる時に殺さないから、こうなる。
爆発の光が消え去るまで、エイスは無言で敬礼を続けていた。
特務隊は全滅した。
だが、エイスもまた自身のSMを失っていた。
現在。エイスの周囲に漂うのは無人攻撃機が二機のみである。
二機とは心もとないが……何とかするしかないか。
エイスは二機の無人攻撃機をワイヤーで接続する。
燃料の少ない無人攻撃機だが、一機づつ順番にバーニアを吹かせて使い捨てることで、航続距離を延長。
本隊への復帰を目指すしかない。
しかし……問題が一つある。
酸素だ。
エイスのスペース服の酸素残量は三時間。
バーニアの燃料は持ったとしても、酸素はとても持たない。
当たり前ではあるが、無人攻撃機には酸素もなければ遭難信号の発信機もない。
スペース携帯電話の電波は弱く、アンテナとなるSMやスペース艦艇がなくては、とても遭難信号の代わりにならない。
それでも進むしかない。
これまでの経緯をスペース携帯電話に録音する。
たとえエイスが死ぬことがあっても。
この録音が本隊に届けば、情報を頼りにメディを捜索してくれるはず。
今は、そう信じて進むしかない。
スペース携帯電話の地図アプリを展開。
進むべき方向を定めようとするエイスの手元で、着信音が鳴り響いていた。
いったい誰だ? 副指令か?
いや。
確かに戦闘の終了で、周囲のスペース撹乱粒子は濃度が薄くなっている。
だとしても、宇宙本国と通信するには。
スペース携帯電話のアンテナでは、電波強度的に不可能だ。
だとするなら、直接電波が届くほどの近距離に人がいるのだろうか?
「あのーもしもし? エイス様の携帯電話でしょうか……?」
聞こえてきた声は、先ほど脱出艇で別れた地球軍の女性。確か──
「……その声は……ルクスさんか? どうしてこの番号を?」
「失礼とは思いましたが、スペース携帯電話を使われている時に番号を覗かせていただきました」
確かにエイスは脱出艇内でのやり取りを全て録音している。
その時に携帯電話を取り出してはいたが、いったいいつの間に?
「そうでしたか。なかなか油断ならない方ですね」
「ふふ。先ほどそちらの宙域から爆発を三つ観測いたしました。これはエイス様が勝利したに違いありませんと思って、お電話を差し上げたのです」
爆発が三つ。
アカツキ改とドキュウ壱号は同時に爆発したため、一つと観測されたようだ。
あのような機体と愛機を一緒にされるとは……心外ではあるが仕方のない話。
「それは……なんとも信頼していただき感謝です。確かに勝利した。だが、少し困った事態になっている」
「どうされたのでしょうか?」
実のところ少しどころではない。
死を目前にした状況である。
それでもエイスのプライドが、敵である地球軍に助けを求めることを思い止まらせる。
「実は私のSMも破壊されてしまって、あまり酸素が残っていない。こうして話しているにも酸素がもったいないくらいだ」
「分かりました。脱出艇でエイス様の救助に向かいます。場所はお別れしたままですよね?」
「しかし……いや助かる。だが、良いのか?」
「もちろんです。エイス様はわたくしの恩人ですもの」
今も救難艇で助けを待っているだろうメディ。
それを考えれば、地球軍だろうが何だろうが、酸素がもらえるなら。
生きてメディの救助に向かうためには、プライドに拘っている場合ではない。
しばらくして、エイスの元へルクスの脱出艇が到着する。
「エイス様」
乗船したエイスに、ルクスが抱き付いていた。
「おっと。いきなりだな」
「すみません。わたくしとしたことが。ですが、嬉しかったのです」
スペーススーツ越しとはいえ、ルクスの身体が抱き付く感触は、メディがいなくなって久しいエイスにとっても嬉しいハプニングである。
「それはまた。心配くださってありがたい」
しかし、エイスは宇宙軍のエースパイロット。
ここで女に甘いと思われては。
これ以上に情けない姿を見せては、宇宙軍の恥である。
ことさら事務的な対応でエイスは乗り切るのであった。
以降もことある毎に身体を寄せるルクスに鼻の下を伸ばしながらも、エイスはポーカーフェイスを保ちつつ、スペース服の酸素を補充。
さらには救命ボートまでをも借り受けていた。
「良いのか? 救命ボートまで」
「もちろんです。この先は地球軍の宙域ですので、わたくしたちの心配は無用です。それよりも、エイス様。本当に宇宙軍へ戻られるのですか? 副指令を敵に回したのです。このままわたくしたちと……」
何とも魅力的な提案である。
副指令の許可をもらったとはいえ、試作中の最新鋭機を二機も落としたのだ。
何らかの罰則はあっても不思議ではない。
だが、酸素を失って死ぬしかない。
そう思われたエイスが地球軍に助けられたのも、きっとメディの志を継いで敵味方関係なく漂流する人たちを助けてきたからだろう。
ならば、なおさら遭難するメディを見捨てて逃げるなどありえない。
「ご心配いただき、ありがたい。だが、私には宇宙軍でやるべきことがある。できれば、ルクスさんとは戦場でお会いしたくないものだ」
「そうですわね……ともかく、お身体に気をつけて」
「お互いご健勝であらんことを」
エイスは秘密兵器である無人攻撃機を救命ボートにくくりつけると、本隊めざして出航する。
航海の無事を祈る。その発光信号を残して。
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ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎週月曜07:20投稿】
3巻からは戦争編になります。
戦物語に関心のある方は、ここから読み始めるのも良いかもしれません。
※1、2巻は序章的な物語、伝承、風土や生活等事を扱っています。
1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。
マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、
スペイン勢力内部での覇権争い、
そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。
※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、
フィクションも混在しています。
動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。
HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。
公式HP:アラウコの叫び
youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス
insta:herohero_agency
tiktok:herohero_agency
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