楽園パスポート

鋼鉄の椎茸

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トロピカルサマー

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はぁ  今月厳しいなぁ。

来週は会社の後輩美代子の結婚式。

ご祝儀の用意や、美容院の予約を済ませた私は、ただいま預金通帳とにらめっこ中。

そんな折、ふと昼間の出来事を思い出した。

「先輩にもいい出会いありますよ」
美代子、あんなこと言ってたけれど。

あれ絶対に上から目線・・・

辞めておこう。

ネガティブなことを考えたところで自分の生活が豊かになることなんてないのだ。

さて、一応はお祝いの言葉も考えたし、これが終われば寿退社の彼女との付き合いもなくなるし。

今日は早めに寝ますか。



とは言いつつも現在深夜1時。通勤時間が1時間半じゃあ、早く寝るにもね。

部屋の電気を消すと大きなため息をつく私。

そういえば、ため息をつくと老けるって本当なのかしら。
だとしたら、気をつけないと。

明日も一日メンタルが持ちますように。
不吉な祈りとともにベッドに潜り込む。

あぁ。まくらが固い気がする。

・・・
・・・・・

なんだか今日は寝苦しい。

仰向け寝ではなく、横向き寝を試そうかと寝返りを打つ。


ピト


ほっぺたにひんやり硬い、厚紙?のようなものが当たった。



???


厚紙を手にとる。

そして、ベッドサイドの明かりをつけ、目を凝らして見てみた。

厚紙はカード状になっていて、大きく中央に楽園パスポートと記されていた。

ちなみにゴシック体なのね。

「私こんなカード持っていないけど。って・・・」

そういえば、あの噂とおんなじね。

たしか先週食堂で。みんなで話してたのよね。
確か、合言葉があったのよね。ええっと、

「ひらけゴマ!・・・

なぁんてね。」

噂はあくまで噂よね。

誰かに聞かれたら、恥ずかしい独り言。
それを言い終わる間も無く・・・

目の前の景色が霞み飛ぶ。


気がつくと、あたりは真昼間だった。




いつぶりだろう。こんなに青い空を見たのは。空には、雲一つなくどこまでも抜けるように青かった。

太陽が照りつけるも暑過ぎず、海風から漂う潮の匂いが心地よい。



もぞもぞ

足の裏を伝う違和感。

足をどかしてしゃがみこんで観察すると、その正体が判明する。


スナガニね。

スナガニは東アジアの海岸などにに広く分布する甲幅3cm程度の小さなカニだ。

 右のはさみが大きいわね。

挟まれるのも痛そうなので、そのまま歩き出す。


ここは見たままの無人島で、今歩いているのは、一面真っ白な砂浜だった。

広さはおそらく直径50メートル程度。すべて砂浜で出来ていた。
ちなみに、島の周囲はすべてエメラルドグリーンの海だ。

「砂が白いわね」

「熱帯魚とかが泳いでそうな海ね」

そう独り言をいいながら、砂浜をざくざく進んでゆく。

あぁ、裸足で歩くのが気持ちいい。

太陽に暖められているものの、砂の粒径も非常に細かいためか、熱過ぎることはなかった。

最初にいたところから、20メートル程進んだところにヤシの木陰があったのでそこで座り込んだ。
ここから数メートルほど先は、エメラルドグリーンの海だ。

振り返ると、さっきまでは何もなかった場所(ヤシの木の根元)に四角い箱のようなものが置いてあった。

それは白いクーラーボックスだった。
蓋の上にメッセージカードが一枚テープで貼ってある。

≪水着とグラスとパラソルです。

from大精霊≫

箱の中には確かに、水着、グラス、パラソルが入っていた。

まず、水着は袖付き。UVケアに配慮してくれたのかしら?

次に、グラスはサングラスではなく、飲み物を注ぐためのタンブラーが、パラソルは折りたたみ式のものが入っていた。

最後に、
あら。クーラーボックスの箱の内側にもメッセージカードが貼ってあるけど。

≪箱の中のタンブラーなあなたが望む飲み物が泉のように湧き出てきます。
どうぞ、満足いくまでご堪能ください。
from大精霊


追伸。帰りの合言葉は・・・≫



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