七補士鶴姫は挟間を縫う

銀月

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第三話・七補士、うっかり予定を忘れていた…

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一時間目の生徒を見送った後も、休み時間の間に『身長を測りにきた』といつも時間つぶしに現れる女子生徒たちや、『熱が出ますように…』と何やら謎の祈祷をしている男子生徒、職員室で借りればいいのに『定規貸して』とやってくる生徒…。大抵は見慣れた生徒たちで、まあ、いつものことだ。特に突っ込む気も七補士にはない。

その日の放課後までには、来室した生徒のカードの枚数を確認すると四十枚以上はあった。
来るもの拒まずなのだから、これでもまだ少ない方だが。

そんなスタイルを取っているのか、生徒は大抵懐いてくれているように七補士も感じている。
淡々としている七補士を面白がっている、とも感じているが。

「つるちゃん、また明日ー!」

身長グループは帰る際、突然ガラッと引き戸を開けて挨拶し、『ノックをしなさい』というまでには逃げられる…というのがいつものパターンになっている。

今日も七補士が束の間にマグカップのカフェオレを飲もうとしたその瞬間に、引き戸ガラ開けをしてきた。
動じないふりをしているが、掛け時計を見ていなかったせいで一瞬温いカフェオレが気管に入って咽かけたのは内緒の話だ。

…あの女子生徒たち、タイミングを図っているんじゃないだろうか。ということが多々あるので、七補士は密かに
『またやられた…』と少し悔しがるのだった。意外と不意打ちされるのにはムキになるのである。

「ノックを…」

引き戸まで行くのが面倒で、少々大きな声でそう言いかけると、閉まった引き戸を誰かが小さくコンコン、とノックした。

ノックをして入ってくる生徒は、この放課後にはあまりいないはずだが…。

「入っていいよ~」
「お、お邪魔します…七補士先生」
「あら、昭隅先生。…あ、もうそんな時間でしたね」

ノックの後、弱弱しく引き戸がゆっくりと開けられる。
やや小柄で華奢な、女性教師。
同僚の昭隅だった。

「相変わらず、お疲れね」
「いや~…。受け持ちが皆元気いっぱいで。放課後の質問時間が長引いちゃって」

昭隅香。新米教師ではあるが、中々生真面目で、復職したばかりの授業も真っ向から取り組み、中堅教師と同じように授業外の質問時間を無制限にとっている女性教師だ。

彼女は分からない部分があってもトコトン付き合い、分からない問題は一緒に、時間と生徒が許すまで取り組んでくれるので生徒からの評判も良い。

やや明るめの茶髪のウルフヘアに、カジュアルスーツ。
気力に満ちたどこにでもいるフレッシュな新米だ。
そんな彼女を七補士は補助する役目がある。

記憶喪失の昭隅をこの月桴高校に連れてきたのは他でもない、七補士だったからだ。
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