異世界攻略コントラクト[1]俺たち in the キングダム

喪にも煮

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5 あ……マジですか

5-3

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「そもそも君はさっき了承したじゃないか」

「了承? さっき?? はてなんの事でしょう?」

「だから! お願いねと俺が言った時『はい喜んで城内に忍び込むルートを案内させていただきます!』と羨望の眼差しを俺に向けながら言ったじゃないか!」

(…はぁあ??)


 言ってねえそもそもそんな言葉俺が言うはずねえ。
 さっきというのは俺が小向の態度に憂いてしばし呆然としていた間に、一人で勝手に青年が語っていた時の事だろう。この説明をしてもらう時にさっき言ったはずだけどと、母親に鉄拳制裁され小向に逃げられてごきげんななめな青年に恨みがましくネチネチ言われたからきっとそうだ。
 お願いねという単語は聞き覚えあるが、その後俺は返答していない筈。捏造もいいところである。
 そもそも妄想癖でもあるのだろうか。まさか……婚約者うんぬんも妄想か?
 疑心暗鬼になり胡乱げな眼差しを青年に向けて真意を確かめてる間に、ピナナお菓子が出来上がったのか青年の母親がテーブルに近づいてきた。
 パンケーキだろうか。工程をチラチラ見ていたが生地自体に果汁を混ぜあわせ、果肉は砂糖だろう粉と煮詰めてソースにしていた。森のミルクと呼ばれるらしいピナナの果汁はその名の通り白色らしく、混ぜあわせたパンケーキはプレーンのパンケーキとさして変わりない。カッティングされてパンケーキの上に盛られた見たこともないフルーツの上にかけられてる濃いピンク色のピナナ果肉ソースが、いい色味を出していて食欲をそそられた。
 その背後をちょこちょこと追っかけてきた小向はちゃっかり大皿をゲットしたらしく、俺の目の前に置かれた皿にはパンケーキ2つ、小向の大皿には倍以上な5つのパンケーキがどっさりと盛られたフルーツとピナナソースの下にまるで第二のお皿のように敷き詰められている。
 心なしかスキップしているように見えるよ小向。そうかそんなに嬉しいか……俺の気も知らないで悠長なものだ。
 そんな小向を再度自身の膝に座らせようとした青年は母親に阻まれ、そして小向本人にもお尻に尖ったちんこがあたってなんか湿った感じして座り心地が悪いから嫌だと拒否され、意気消沈。
 俺はその言葉にびっくりしてこっちに来なさいと声をかけたが何故か無視され、結果小向は俺の横にあった椅子を引きずり部屋の隅に行って大皿を膝に乗せて食べだした。青年の母親の哀れんだ視線が痛い。
 股間を手で隠しながら隅で食べている小向を凝視している青年を後目に、俺はパンケーキを食べながら青年の母親と言葉のキャッチボールをした。例の青年の事情を妄想ではないと裏付ける会話だったが、ただただ感動した。噛み合った会話の素晴らしさに柄にもなく涙が出そうだった。思ったより俺のメンタルは疲弊していたらしい。
 それにしてもピナナ果汁入りパンケーキ多種多様なフルーツ盛りピナナ果肉ソースがけはうまい。甘い甘いの胸焼けコンボかと身構えていたが意外にピナナ果汁は淡泊な味らしく、パンケーキ自体は甘くなかった。何でもピナナ果汁は栄養素が豊富らしく、赤ちゃんに与えるお乳の代わりにも用いられるくらい万能な健康果汁のようだ。ピナナ果肉ソースも香りこそ甘いが、ソースそのものは甘みの中にきちんと酸味がきいていて、その他に盛られたフルーツの味も邪魔せず食べやすかった。
 ごちそうさまでした美味しかったですと振る舞ってくれた青年の母親に笑顔でお礼を言った後、隅のほうで食べている小向を失礼のない程度で伺ってみる。まるでまわりにハートを撒き散らせているような雰囲気で頬が落ちると言わんばかりに嬉しげに足をぷらぷらさせながら、未だ1枚目のパンケーキをはむはむと頬張っている小向。欲張りで空腹に耐え性のない小向は食べるのがものすごく鈍くさいようだ。また見たこともない新しい小向の姿に自分への辛辣な態度を忘れ、脳天気に和むなぁと頬を緩ませた。
 だが俺の視線に気付いたのか、頬にパンパンにパンケーキを詰め込んで幸せそうにもぐもぐしていた顔をキリリと引き締め、見えない前髪の向こうの瞳を顰めたオーラを醸し出しながら、椅子をくるりと回して背を向けてしまった。うーむ、俺の嫌われようはそんじょそこらで譲歩できる程安いものではないらしい。


「いい考えだね母さん、その方法でいこう」

「そうねレムノス、ピナナを食べたわ。もうこちらのお願いを飲むしか助かる方法はないでしょう」


 ………なんですと?呑気に小向の後ろ姿を眺めていた俺の耳に不穏な会話が飛び込んできた。
 ぎょっとして部屋の隅から視線を親子の方に向けると、至極あくどい笑顔で俺を見ている2対の瞳にぶつかる。


「城の前庭に不法侵入、それに加えピナナ屋の商品を食い逃げ。この罪状で未だあなたを捜索している兵士に突き出せば……どうなるかわかるわよね?」


 さっきまでの朗らかな雰囲気はなりを潜め、悪代官のような笑顔で恐ろしい事を言う青年の母親がいた。その隣で親が親なら子も子というのを立証するかのようにそっくりな笑顔を浮かべている青年。俺は脅されている。


「いやね、難しい事じゃないんだよ? 君がさっさと城内に忍びこむ方法を教えないから俺自身も冷静になり、犯罪に手を染めたくないという気持ちが芽生えてしまってね。まあ俺も身を固める決意をしたいっぱしの大人だ」


 人道的解決をしたいと思うのも仕方がないよね。素晴らしい考え方だと自分に陶酔したかのようにそう宣うが、今の自分の顔を鏡で見てほしい。犯罪の1つや2つなんの躊躇もなく実行しそうな顔してますよ。
 そもそもこれは脅迫だ。すでに犯罪なんじゃないか?唖然として二の句が継げない俺を置いて、黙ってるのをこれ幸いと青年はたたみかける。


「君は遠いところに住んでいた俺の親戚で、嘆かわしいことに親と死別してしまいうちを頼ってきた女の子。だが城からのおふれでこの街に住む妙齢の女性には見てくれ関係なく平等に殿下の嫁候補になる権利があるときた。そう、男にしか見えなくても本人が女だと言えば女。だから自ら城を訪ねなければならないのだ。そこでたまたま出会った俺の婚約者にレムノスが待っているから帰ってあげてと伝える。でも俺の婚約者が帰ってこないなんて事あってはいけないよ? そんな事あっては俺、うっかり兵士に喋ってしまうかもしれないからね。うちを頼ってきた親戚は、男ですよ?と……」


 一切口を挟ませずナルシストなソロトークを披露した青年は、言いたい事は言い終わったのか、愉悦の滲んだ瞳をさらに三日月に歪め笑っていた。
 母親は青年の演説の最中にスッと席を立ち、どこかに消えた。
 ところで気づいてるか?これ、脅されてるの俺だけなんですけど。


「色々と無理がある。突っ込みたい事も山ほどある。が、そこは置いておくとして……お前小む、コムコムの事はどうするつもりだ」

「コムコム? コムコムは男の子だからね、俺が責任持って預かるよ。心置きなく嫁に行って、ね?」


 青年は間髪入れずに胸を張って答えたが、その時股間を数回撫でたのを俺は見逃さなかった。これ絶対にダメなやつ。小向置いて行ったら即この変態にアーッな事される未来が見える。現に俺と視線を合わせてるふりしてチラチラと未だパンケーキを食べている小向の背中を盗み見ている。
 俺は勉強はできないが物分りが悪いわけじゃない。気づいたらこんなトリップ物の定番の世界に来ていて、命の危機を感じて、挙句訳あり変態に弱みを握られた今の状態は確実に分が悪い。今ここで激情に身を任せて小向を連れこの家を飛び出したところで逃げるあてなどなく、捕まったらどう見積もっても一環の終わりだ。元の世界に帰る手立てなどない。そんな状態で今この青年に立ち向かうなど得策ではない。得策ではないのだ、が


「お前の言いたい事は分かった。いいだろうその策のってやるよ俺の女装なんて見れたもんじゃないけどな! 女だとか騙せる気、さらさらないけどな! だが1つ、これだけは譲れない。コムコムは俺が連れて行く。コムコムは俺の妹だ」

「僕はあなたの妹チガウ。うそつき」


 俺が小向の貞操を守る為ドヤ顔でハッタリをかました瞬間、青年が返事をするより先に背後から訂正がはいった。
 後ろを振り返ると未だパンケーキ3枚のせた大皿を抱え、凛と佇む小向の姿があった。
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