上 下
10 / 19
6 制服は時として貞操帯

6-1

しおりを挟む
 話がついたと踏んだのか颯爽と現れた青年の母親に俺は別の部屋に連れて行かれ、屈辱に身を震わせながらも腹を決めて街娘風の衣装を身に纏った。よく俺のサイズの女物があったものだ。179cm(おしい!後1cm!)の女物の需要あるのか?そんな大きな女性がいるのか謎だが俺はフェミニストなので大丈夫、博愛主義に死角はない。
 因みに小向は159cmだ。つい数日前にあった身体測定で、名簿順なのをいい事に盗み見た。ふふふ、まだまだ子供ですね……20cmの身長差、俺の腕の中ジャストサイズなのも頷ける。
 体重は48.7kg。抱きしめた感じ骨格そのものが細かったからありなのか?とりあえず軽すぎ、そんなんじゃ一般男性な体格だったあの変態に簡単にベッドに投げ込まれそうだ。軽々と駅弁されてる小向の絵が浮かぶ。
 小向はというと青年と二人っきりに出来るはずもなく、ともに連れてきた。激しく抵抗されたがこれだけは譲れない。俺を嫌っている身勝手なやつだが、あんな変態にやすやすと引き渡しては俺自身が俺を許せないからだ。
 一応話はつけた、と思う。ともに城に連れて行くのは無理だったが、小向に手を出したら俺はお前の婚約者を誘惑すると脅した。俺だってだてに美形じゃない。追いかけてきた兵士だって"女をたぶらかしそうな顔"と俺の事を説明していたし、この世界の美醜は元の世界とそう変わらないだろうとふんでの脅しだ。
 案の定青年は狼狽し、一時的にだが股間から手を離した。
 それに俺は前庭に忍び込んだお尋ね者だぞ?もう既に牢屋に片足突っ込んでるんだ、やろうと思えばなんでもやれる。そう付け加えれば青年は切なげに股間をよしよしし、がっくりと項垂れた。
 だがこの脅し文句がどれだけ効力を持続させるかは分からない。所詮後出しジャンケンなんだ。だがこれ以上の策は考えつかなかった……すまん小向、俺が帰ってくるまで自分の貞操は自分で守ってくれ。


「小向、無理強いされそうになったらヤツの股間を蹴るんだ。そもそも指一本触れさせるな。お風呂に入る時も細心の注意をはらうんだぞ? 覗かれたり突入されたら装備0の時点でジ・エンドだ。いや……いっそ風呂は入らない方がいい。その制服はお前を守る貞操帯だと思っていっさい乱さないよう生活して俺が迎えに来るのを待ってるんだよ?」

もぐもぐ

「トイレも危険だ。小向がどういうスタイルで用を足すのかちょっと知らないから……いや検索する気とか、知りたいとかじゃないからね? あーだからなんというか、ズボンは脱がない前提でほら、制服のズボンについてるチャックだけ下げて出す感じて。チャック下ろすのだけはうん、許可。だけど大きい方は危険がいっぱいだから我慢しようね」

もぐもぐ

「あーあれはどうだろ前貼りならぬ後ろ貼り。小向の後ろの穴にさ、大っきい絆創膏貼ったら少しは防御力あがるかも? それに開封厳禁って書いて、動かされたか調べる目印に皮膚と絆創膏の境目にバッテン書いとこう」

「……死んでもイヤ」

「あーでもだめだ、男は隠されるとその向こう側が気になって仕方がない生き物なんだ。俺は絶対パンツゆっくり脱がす派。ゆーっくり脱がしてさ、あとちょっとで見えちゃうぞーって感覚がたまらないんだよね。後ろ貼りは逆にナニをたぎらせるかもしれない。そもそも大っきな絆創膏を入手出来ないから却下。ああ小向の貞操帯制服、きちんと役割果たしてくれよおおおお」


 俺は顔にペタペタ色々なものを塗りたくられながら、やっと最後の1枚のパンケーキに手を付けだした小向の貞操対策にあーでもないこーでもないと頭を悩ませた。途中何か聞こえたが聞かなかったことにする、その案は不可決になっことだし。
 それからもうーんうーん悩んでる間にさして化けるわけでもない化粧が終わったらしく、どこから入手したのか不明の茶色ロングなカツラをかぶせられ、完成した。
 自分で言うのも何だが、顔は綺麗な方なのでメイクしたらそれなりに美しくなっていると思う。だが隠せないのが男らしい肩幅。そして腰回り。どう見積もっても男、だよなぁ。


「小向が着たらすげー似合いそう。女の子みたいに華奢だし、なんか腰細いし。うん、小向が女装して城に行ったらいいんじゃないかな?」

「ふ?」

「絶対ばれねーよ、俺の腕の中ジャストサイズなんだから自身持って!」

「ふ?」

「逆になんで俺なのぉ……絵的に無理あるし、これで女って言い張るとか生き恥じゃん。声もどう考えても男なんですけどぉ」

「ほふへほひひ、ひほひ」


 もうあとには引けないが、愚痴らないとやってらんないとグチグチこぼしてみた。
 姿見に写った自分の姿は首から上はちょー美人。だがゴツい。こんなんで本当に大丈夫なのか不安しかない。そんな俺を哀れんだのか、最後のパンケーキをもぐもぐしている小向は辛口ながらも少しだけ返事返してくれた。
 コーディネートしてくれた青年の母親に連れられ、別室を出て先程のキッチンとテーブルのある部屋に来た。そして俺達が入ってきた薄暗い路地に通じるドアではなく、青年の母親が入ってきた正規の玄関へと向かう。残りのパンケーキを口いっぱいにつめた小向もその後に続き、お見送りしてくれるようだ。青年の婚約者の写真も拝見し、準備万端。


「約束は守れよ」

「はいはい君が俺のお願いをのちゃんと遂行してくれるならコムコムにはイタズラしません」


 出陣の前に再度念を押し、青年に圧をかけておくのも忘れない。口では約束は守るみたいな事を言いながら、俺の後をついて出てきた小向を目ざとく捕らえ、背後からおんぶお化けのようにくっついてる姿を見ると小向の貞操は大丈夫……じゃないかも。
 まあでも母親が近くにいる家ではさすがに強姦なんぞしないだろう。という常識がある事を切に願う。


「ちゃんと抵抗するんだぞ?…………なるだけはやく迎えに来るから。ん、いってきます」


 真剣な顔で別れを惜しむ俺を珍しくじーっと見上げた小向は


「プークスクス」


 俺の女装姿を見て小馬鹿にしたように棒読みで笑った。
しおりを挟む

処理中です...