異世界攻略コントラクト[2]俺たち in the デス·レース

喪にも煮

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1 まだ4月ですよ

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♪キーンコーンカーンコーン~

「きりーつ、れーい」


 ありがとーございましたーと、在籍する人数分だけのそれぞれのもつ音で、終業のあいさつのテクスチュアが響いた。途端にガヤガヤしだすクラスメイトたち、今から待ちに待ったお昼休みだ。
 三時間目に行われた新体力テストでとことん体力ゲージを削り取られ、四時間目は至るところから空腹の音色が奏でられていた。何を隠そう俺も奏者の一人だ。


哉片なりひらーメシー」


 右隣の友人がのっそりと起き上がったのが視界に入る。四時間目は机に突っ伏す事で耐えぬいていたようだが、俺よりも、いやクラス1自己主張した奏者は間違いなくコイツだった。あまりにも堂々としていたお陰でいっそ清々しく、最早教師も注意する事は諦めていた。そもそも生理現象だからな。止めろと言われて止めれるのなら空腹というものの存在否定と同一で、はっきり言って人類への冒涜である。だがまあ俺はクラスメイトの女子たちに聞かれないのであれば聞かれないに越した事はないという持論から、俺の腹のソロパートをうまくカモフラージュしてくれた友人には感謝が尽きない。
 しかしお腹がへった。新体力テストというエネルギーをどれだけ摩耗できるか測定を三時間目にぶっこむなんてまるで鬼の所業。体育教師は奈落からの工作員か、ボロ雑巾協会のプロパガンダか。
 その場合、不遇戴天な反目の標的は確実に四時間目の数学の教師だと確信できる。新体力テストなどと宣う国公認のパワーハラスメントな人体実験を受けさせられたクラス一同、皆一様に腹の虫に踊らされ、かくかくで教師不在の音楽の授業を自習してしまったのだ。そのせいでまったく持って授業にならなかった四時間目の数学の教師が忌み敵以外のなんになりようか。
 ふう、大人の事情に巻き込まれる我々の身にもなってもらいたい。未来を担う若者たちを使い捨ての駒みたいに使うなんて罰当たり者め。とんだとばっちりだ。
 現に新体力テストでおそろしい程の運動音痴を披露した1名の男子クラスメイトは、既に四時間目の授業を合法サボタージュし、保健室で体力の貯水池を干からびさせながらくたばっている。何をやらせても錐揉みして吹っ飛び、最終的には握力測定でぶっ倒れ、体育教師のお姫さま抱っこ担架で保健室へと強制退場させられてしまった。それでも顔半分を覆い隠すヘルメットのような真っ黒ヘアーと、常にズレ落ち秒読みな大きな黒縁メガネは揺るがないという特殊スキルは見事だったが。それになぜか吹っ飛んでも吹っ飛んでも他クラスメイトを下敷きにして衝撃を吸収するという奇跡をおこしていた。
 体育教師が運搬することになり、新体力テストは一時中断したかと思ったことだろう。だが、死角はない。今回の授業は測定だったことから、体育教師二人体制で開催されたのだ。席を外した体育教師は授業が終わるまでついぞ戻ることはなかったが、寸分の隙なく新体力テストは完璧なフィナーレを迎えた。男子クラスメイトはただただ倒れ損である。
 それにしてもお腹がへった。そう、お腹へったと言えば俺の中にとある人物が浮かび上がる。
 桜の盛りもとうに過ぎ、大型連休を間近に控えた四月下旬の今日この頃。席替えのせの字の気配すらないまま、未だ俺の後ろに席をかまえる、名簿では古里こざとの次に名前が来る一人のクラスメイトがいる。名を小向 最中こむかい もなか。もなか。先日摩訶不思議な異世界トリップ体験をともにした同士だ。なぜかピナナという、男性の両脚の付け根の真ん中にぶらさがるバナナに酷似した異世界産猥褻果物を、エロティシズムに食す特技を持ち合わせている。それとあの世界の妙齢女性かき集め王子殿下に、ズコバコ掘られていた疑惑もなきにしもあらずな神秘性の塊。
 そんな小向は極度の食いしんぼうだ。腹がへったら何かを口にするまで空腹を主張し続ける強者。アイツがきちんと俺の後ろのポジションで四時間目の数学の授業を受けていたならば、正真正銘腹の音選手権でMVPを獲得し、殿堂入りを果たしただろう。いや音がでかいとかじゃなく回数だ、腹の音をならす回数。小向の腹の虫は控えめでエレガントだが、なんと言っても頻度が群を抜いている。数撃ちゃ当たると乱れ打ちを披露するのだ。音楽の演奏に例えることすらできない、あんなもんマシンガンと同等だ。
 だがその危険度抜群な腹の音機関銃は、四時間目の数学の時間に俺の背後から乱射される事はなかった。いなかったのだ、小向は。
 小向には今日、食いしんぼうにプラスして新しい属性が発覚した。度を越すレベルの運動音痴、それが小向の新カテゴリーだ。
 今までの体育の授業で露呈していなかったのはなぜか。その謎解きは至極簡単。もとより運動を率先してやるタイプではなかったし、それに高校入学して今日まで、体育の授業がバスケという団体競技だったからだ。パス練習の時ですらなぜか体育教師とパートナーになっていて、マネージャーのような扱いになっていた。それでうまく隠していたのだろう。意図しての事なのかは定かではないが。
 そこまで巧妙に隠蔽されていたが、さすがに今日の新体力テストでは個々の能力を測定するという根本的な問題で、小向は呆気無く錐揉みで吹っ飛んだ。どうしてそうなったのかは分からない。だが、反復横飛びで中を舞っていた、それが事実だ。
 逆に錐揉みで吹っ飛ぶなんて日常を逸脱した行為、並大抵のやつにはできるきがしない。尋常じゃない。ある意味プロだ。とりあえずこないだトリップした先のプロローグとエピローグで小向を走らせなくてよかった。もしともに走らせていたならば、俺は文句なしでブタ箱ルームの仲間入りをしていた。あぶねえ、あの時の俺、グッジョブ。
 そんな訳で小向は握力測定で25という驚異の数値を叩き出し、ぶっ倒れ、体育教師にお姫様だっこされて授業をエスケープした。25とかなに、アイツは女子か。今頃保健室で腹の音機関銃を思う存分ぶちまけているのだろう。そんな手のかかる小向はいつも可愛らしい猫のイラストが描かれたお弁当箱を持参していた。俺はそれが小向の通学カバンの中に入ってる事を知っている。
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