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1 まだ4月ですよ

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 俺は右隣で昼食にありつこうとパンを机に広げている友人、江口 要平えぐち ようへいに視線を向けた。いつも登校時に買っていると言っていたから今日もそうだろう。ジャムパン、クリームパン、チョココロネ、カレーパン、コロッケパン、ソーセージドッグ、エトセトラエトセトラ……よくもまあ毎度毎度パンだけに特化して豊富に取り揃えられるものだ。組み合わせはほとんど変わらないが、飽きないのだろうか。
 いつもだったら俺も同じように昼休み始まってすぐ母が持たせてくれた弁当を広げて食べ始めるのだが、俺の手はカバンの持ち手を握りながら、逡巡してしまっている。
 今日という日は特に、体力を使い倒して腹が減りまくってるので即食べたい。なのだが……俺はちらりと後ろを振り返り、後ろの席の机の横にかけてあるカバンを確認した。
 しょうがない、気になって気になって、どうも見過ごせないのだ。
 俺はすくっと立ち上がり、自分のカバンと後ろのカバン、ついでにその机の上に乗っている置き去りにされた制服を手に取り教室の出入り口を目指した。


「哉片?」

「あー俺ちょっと用事あるから食べてて」


 ええーとブーイングを背中に受けるも振り返らず、そのまま教室を出る。
 きっと腹減りすぎてひんひん泣いてるぞ……うん、それはないわ。だけど空腹に喘いでるのは容易に想像できる。もしかしたら昼食を食べに保健室から帰ってくるかもとも想像したが、新体力テストの時の様子を見る限り小向は戻ってこれないだろう。戻ってこないじゃない、戻ってこれない、だ。あの時の小向は明らかに精魂尽き果てて真っ白になる一歩手前って感じでよろよろしていた。錐揉みで吹っ飛んだ時に仰向けで下敷きにしてしまったクラスメイトのちょうど股間部分を跨ぐかたちで腰を下ろしてしまったハプニングも、恥じらうことすらせず座れたことに安堵して、なんとその場で休憩していた。挙げ句立ち上がろうにも脚がふらふらで力が入らず、努力はしていたが、腰を浮かしては膝が笑い、浮かしては腰砕けで……騎乗位しているようにしか見えないという大事件を起こしてしまう始末。因みに下敷きにされたクラスメイトは顔を両手で覆い、かたまっていた。
 あんな困憊具合じゃ一時間休んだくらいで体力回復など夢のまた夢だろう。故に、弁当は取りに来れない。ぐぅぅうとなる腹を撫で、俺は足早に保健室を目指した。
 我が高校の保健室は一階の角に位置する。オレの教室が二階の真ん中辺りなのでアクセスはそこまで悪くなく、2分もかからず到着した。


「しつれーしまーす」


 ノックもそこそこに入り口のドアを横にスライドさせると、一つだけカーテンがひかれて目隠しされているベッドが視界に入った。保健医は、いない。あれ?外出中か?そう思いながら閉まってるカーテンに近づいた時、突然カーテンの向こう側から人が躍り出てきた。


「ほわぁ!」


 びっくりして奇声をあげ、数歩後ろに下がる。出てきたのはなぜか慌てた保健医だ。


「やあ、小向くんのお見舞いかい? 今様子を見ていたがぐっすりと眠っている。まだそっとしておいてあげようね」


 歳の頃30ちょい過ぎくらいの男性保健医は慌ただしくまくし立て、では私はお昼をとってくるよとポカーンとなってる俺を押しのけて保健室から出て行った。時間にして1分。素早い。突然のことに俺が唖然としていた方のが長かったらしく、はっとした時には保健室は静寂に包まれていた。
 寝てるからそっとしておけ?え、弁当どうしよう。暗に起こすなと言われたのだろうが、あの小向に昼食を抜かせるのはいかがなものか。どうしようどうしようと悩んでみたが寝てるならベッドの横にカバンを置いておこうと思いたち、俺はカーテンをそっと開いて物音たてず中に身を滑りこませた。
 ベッドの上には仰向けで真っ直ぐに横になってる小向がいた。かけ布団はおへその下までしかかかっておらず、上半身はさらされている。そう、さらされている。なぜか体操服が首元までまくれ上がり、上半身が生まれたままの姿に。ええええ!なんということだ!
 吃驚仰天して俺はまたもかたまった。丸見えになってるてぃくび、なんか美味しそうな感じで赤く熟れてるんですが。左のお豆ちゃんなんかエロティックにツヤツヤ光りながら濡れてるんですが。え、え、なにごと?
 瞬時に浮かび上がったのは、先程慌てて保健室を去った保健医の姿。もしかしてあの保健医……寝てる小向にいたずらしていた?学校という教育の場で働く大人でありながら、なんという不道徳者だ。教育者の風上にも置けない。
 俺はめくれてしまっている体操服をゆっくりと慎重に、からだに振動がいかないよう引き下ろした。寝ている人間に強引にすれば起きてしまうかもしれないし、できる範囲までで許しておくれ。出来たのは乳首が隠れるか隠れまいかのギリギリのラインまでだった。それだけでも結構な時間を有した。その時にどさくさに紛れて赤くなっているお豆を撫でてみたのは秘密だ。
 未だあらわになってる薄っぺらい腹から、空っぽだよー背中とくっついちゃうよーという主張が保健室にこだまする。細っこい腰はくびれがいやに艶めかしいのに、腹の音がものすごく残念だ。
 だがこのままじゃ空腹以前に腹を壊してしまうかもしれない。出しっぱなしのお腹を心配し、その上からかけ布団をかけてやろうと思いついた時、ふと気になった。下半身は無事なのだろうか、と。
 かけ布団の境い目はおへそと股間部のちょうど間、見えそうで見えない、そんな部分だ。掛け布団に手を伸ばす。ごくり。俺はいつの間にか口内にたまっていた唾液を飲み込んだ。


「へんたい」


 だがそんな俺を制したのは、冷たい響きを全体にまとった小向の罵倒と、腹の音だった。
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