異世界攻略コントラクト[2]俺たち in the デス·レース

喪にも煮

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2 からあげが砂のよう

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 あれからの俺は無様に該当する全ての項目を踏み倒し、変態という名のレッテルを自ら拝借してしまった。一生懸命無実を証明しようとしたが、目の前に差し出されていたからといっても乳首を少しばかりお触りしてしまった秘密が後ろめたく、しどろもどろになってしまったせいで真実味は乏しかったようだ。説明もどこか言い訳のように聞こえ、自分で聞いていても嘘くさい。言葉を重ねるうちにどんどん真実は無意味と化した。
 結局乳首を触ってしまった事も露呈した。誘導されたとか尋問されたとかではなく、隠し通すという重圧に耐えきれず自らゲロったのだがな。この間、小向からの返答は皆無である。"へんたい"と言っただけでその後口を噤んでしまった。保健医が憎い……自分はいい思いしてそうそうにとんずらしたから小向に軽蔑されなかっただろうが、俺はその濡れ衣を着せられ小向に変態呼ばわりされた。生徒に罪を着せるなんて最低だ!俺はもう今後三年間、ここに在籍している間全部、保健室は利用しないとここに誓う。小向にもそれは徹底してもらおう、ここには変態が生息しているのだから。
 持ってきた制服を渡し着替えを促すと、俺はいったんカーテンの向こう側へ待避した。男同士であったとしてもさすがに着替えをジロジロ見るのはマナー違反だろう。さっきの事もあるからなおのことだ、誠意を見せたい。
 廊下からはすでに昼飯を食べ終わって、残りの時間を有意義に活用している生徒たちの声と足音が聞こえる。歩く者、走る者、集団で移動する者、多種多様で賑やかだ。俺も早く昼ごはん食べたい。そしてあわよくば、小向と昼休みを過ごすという初体験もしてみたいものだ。
 あのトリップ事件から無事帰還して数週間。あの世界での接近は俺の妄想だったのか夢だったのか、小向と俺の距離は相変わらずグランドキャニオン並みに遠く険しい溝かぽっかりと空いていた。次の日の朝登校してすぐ、既に席についている小向にあいさつしたが無視された。挙げ句席を立たれ、入学式の悪夢再来。それから言葉を返してくれる事もなく、今日に至った。さっきの"へんたい"がこっちの世界に戻ってきてからの初だったりする。
 あんなにいちゃいちゃしたのに……さすが小向、最中なんて甘ったるい名前顔負けな程塩分たっぷりの超絶クール、そんなやすい男ではないようだ。まるで一回寝ただけで彼女面する女みたいなことしてしまった己を恥じ、小向がこころ許す関係になれるよう日々精進、今この段階だ。
 因みにあの世界では一泊二日過ごしたが、元の世界ではなんと、一時間もたっていなかった。時空を超越したらしい。
 お着替えしているはずの小向の様子をコッソリ覗きたいという煩悩を振り払うように、ポケットからスマホを取り出し暇を潰す事にした。今流行ってるスマホにしてみたらわりと本格的なMMORPGを立ち上げ、生産していたアイテムを回収してまわる。生産のスキルあんま上げてないから期待はできない。案の定特殊な効果はほとんどついておらず、ないよりはマシかななオンパレードだった。
 フィールドに行くまではないだろうと適当に料理を作ったり種をまいたり装備品確認したりイベントチェックしたり……いやいや着替え遅すぎないか?


「こむかーい、まだー?」


 耳をすませてみるも返事はない。さすがにまだ着替えてるってことは無いだろう。あれから結構時間が経っている、嫌な予感しかしないのは俺だけだろうか。


「あけますよーいいですねー?」


 返答を待っても意味がなさそうなので言いながらカーテンを開けると、想像どおりベッドの上の小向の手には箸、そしてもきゅもきゅしているお口。もう食べ始めていたようだ。いい、みなまで言うな、これもまた想定内だ。
 きっちりと襟元までボタンをしめて着替えを完了している小向を横目に気持ちを切り替える。俺も習おうと保健室に常備してあるパイプ椅子を小向のベッド横に設置し、カバンから弁当を取り出した。蓋を外すといつもと代わり映えのしないお惣菜たちによだれが出る。やっと空腹を満たす時がきた。
 大好物の唐揚げは避けて、最初は他のものから食し始める。俺は好きなものは最後にとっておく派なので。


「そういや体大丈夫? よく寝れた?」

もぐもぐ

「四時間目の授業みんな腹の音すごくてさあ、授業になんなかったんだよね」

もぐもぐ

「小向の弁当うまそう。料理上手感ぱない」

もぐもぐ

「お母さん作ってんの? 尊敬する」

もぐもぐ

「てかそこに置いてあるのもなか? なに、デザート?」

もぐもぐ


 中身をかきこみながら合間合間に言葉を挟んでみる。一応小向に向けてだが、相変わらず独り言になってしまう現状。いかんせん小向から拒絶のオーラが痛く、へんたい呼ばわり事件の後ろめたさも相まって強気にはでれない。
 そううだうだと、だが話しかけるのを止めずに過ごしているうちに、大好物意外は食べきってしまった。小向のお弁当を見ると未だ半分も食べきってはいない。空腹には敏感なくせに、食べるのはまったりなのは健在のようだ。盛りだくさんに入っている唐揚げを一つ頬張る。うんうまい。


「それにしてもすげー吹っ飛んでたな。足捻らなかった?」

もぐも……


 ゾクリ。瞬間冷気が全身を包んだ。場を和まそうと新体力テストの話をふってみたが地雷だったらしい。小向から放たれるオーラが突如凍りつき、箸が止まる。ぎゅっと握りこまれた箸は戦慄いて怒りを表現していた。
 そして小向は何も言わず俺に背を向け食事を再開する。その背中が俺に近づくなとバリアを張っている気がしてもう何も言えなくなった。後悔してももう遅い。元からいい感じではなかったが、これはまずい。一気に温度の下がった空気に楽しみにとっておいた唐揚げの味はもはやないも同然だった。
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