異世界攻略コントラクト[2]俺たち in the デス·レース

喪にも煮

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「いたたたた……小向大丈夫?」

「ぐう」


 いびきが聞こえた。うん、無事だな。周りを確認してみると、皆よろよろしているがなんとか立ち上がっている。
 地面に落ちる前に叩きつけられたのは、鳥居の笠木の部分だったらしい。蒸気の中にうっすらと見えていたのはこれだったのか、そこには推定三メートルくらいの鳥居が四本、真ん中にある井戸を囲んでそびえ立っていた。
 この場所は対岸ではなく、釜の真ん中にある大きな岩の上に設けられていた。直径十メートルくらいだが幸い足場は平たく、歩きにくさはない。
 ここから俺たちがいた場所とは反対の淵がかすかに見えるが、かすかな中でも人がひしめいてるのが見えた。他参加者だろうか。難儀に外周を回ったんだろうがそこからこの岩に繋がる道はなく、ただただ頑張り損の切ない結果である。


「よかったわね、陸づたいに歩かなくて」


 同じように遠くを見ていたサロメピンクがほっと安堵の息を吐き出した。


「ほっといていいんですか? あの人たちも守るべき民間人じゃ?」

「あいつらは悪の組織や闇の組織に属している敵だ。もう一度言おう、敵だ」


 話に割り込んできたカッパーレッドがドヤな雰囲気で肩に手を置いてきた。そんな敵がいっぱいいる中でよくバトルスーツを纏ったまま参加できたな。多勢に無勢でフルボッコにされてたらどうするつもりだったんだよ。未だたすき掛けしている小向を抱え直し、カッパーレッドから離れた。


「バカ野郎! 皆がスタートしてからこっそり変身したに決まってるじゃないかっ」

「デスヨネーサァ先ニス進ミマショウ」

「ぐう」


 小向はいつまで寝続けるのかな?きっと俺の腕の中で安心してるんだろう、ういやつめ。
 鳥居を再度確認する。朱色に塗装された鳥居は見るからに何かしらの意味がありそうだった。囲ってある井戸も怪しい。しかし潜るどころか近づくことすら勇気が必要そうだ。おどろおどろしいフォントで地獄の一丁目層と書いてある額束に恐怖が倍増する。


「あなた先に行きなさいよ、リーダーでしょ?」

「俺はジェントルマンだからな。サロメピンク、お先にどうぞ?」

「なんなの! 女子先にいかすとか最低!」

「じゃあ逆に言わせてもらうが、こんな時にだけリーダー扱いするなど笑止千万!」


 得体のしれない鳥居に怯えた者たちの醜い争いが勃発しだした。互いに押し付け合い背中を押し合う。それを止めに入れば俺も巻き込まれてしまうだろう。俺は今一人の体じゃない。小向というたすきをまとっている責任があるので、みだりな発言は控えなければならなかった。
 こういう場合いつも仲裁に入っていたマラカイトグリーンはどうしたのだろうか。さっきから会話にも混じってこない様子に違和感を感じ、キョロキョロと姿を探す。
 すると言い争う二人の後方を、よろよろと通り過ぎる姿を見つけた。未だ空飛ぶ布団事件の後遺症か足元のおぼつかないマラカイトグリーンは、よろめきながら鳥居を潜り、井戸の縁に腰掛けひと息ついた。安全が確認できた俺は、小向を連れて鳥居を潜った。
 腰掛けているマラカイトグリーンの横に並んで井戸の中を覗き込むが、中は真っ暗で底は全く見えない。だがしかし、井戸の横にある立て札には確かに、地獄の二丁目層はコチラと書いてある。


「うーむどうしたものか」

「飛び込むのかい……? 俺ちょっと休憩したいな。腕がぱんぱんなんだ」


 中を覗き込み策を考え頭をひねる俺の隣でぐったりと腰掛けているマラカイトグリーンは、弱気な発言をしてはため息を吐き出した。余程宙づりでしがみついてたのがこたえたのだろう。だがな、同じように宙づりになっていたサロメピンクはピンピンしてるぞ。


「なんか光になるダジャレないですか? ここの中みたいんで」

「あああるよ。このマッチ、ハウマッチ?」


 現れたマッチを拝借し、一本火を灯して中を覗き込んだ。近場の壁には通路が出てくる隠しスイッチなどという気の利いたものは一切なく、いたってシンプルななんの変哲もない井戸のようだ。深さも図ってみようと持っていたマッチを中に落としてみると、井戸の長さは四・五メートル、その下に広い空間がこれまた四・五メートルくらいあるのが確認できる。


「やっぱこの先がルートだな。うーむ、どうやって降りよう」


 またも悩んでいるといつの間にか口論を終え、鳥居を潜ってきた二人が合流していた。


「ここは私の出番のようね」


 えっへんと胸を張るサロメピンクが井戸を覗き込み、頷いてみせる。


「すべり台をすべりたい!」


 瞬間、井戸の縁から下へ向かってすべり台が建設された。


「このすべり台は最大八メートルの高さまでいけるの。 リミットは五分」

「まって! 俺は休憩したいんだ」

「じゃあ一人で休んどけば? 次期にあっちの人たちもここに来そうだけど」


 あっちの人とさされた対岸のいわく敵の方に目を向けると、なんか頑張って皆で橋を建設しだしている。まだまだ作り始めだが完成は時間の問題だろう。目をやったマラカイトグリーンも感じ取ったのかぶるりと震えて急いで立ち上がった。
 え、このすべり台急傾斜過ぎやしないですか?縁に立って目視すると想像以上の角度で、どう考えても直角から少し毛が生えた程度の傾斜しかないではないか。落ちるのと変わらないんじゃねーの?え、このすべり台意味ある?


「リーダーは俺だ! 先にゆく!」


 と、なぜかこんな時にとつじょリーダーという権力を振りかざしたカッパーレッドが、我先にとすべり台に乗り込んだ。どうしたんだカッパーレッド、すべり台好きなのかな?


「あれ、急過ぎね? 俺の知ってるすべり台じゃなああぁぁ……」


 気づいた時には遅く、その姿は落下のスピードに乗って直ぐに見えなくなった。
 カッパーレッドに続きマラカイトグリーンも直ぐさま飛び乗り消え去っていく。こちらはあらかた敵の襲来に怯えたか何かだろう。
 サロメピンクもその後に続き、残るは俺と小向だけになった。リミットは五分と言ってたからゆっくりしてる時間はなさそうだ。腹をくくるしかない。
 未だのん気に寝こけてる小向をたすき掛けのスタイルから開放する。向き合ってる体制じゃすべり台を滑るのには不便だ。一旦姫抱きにして井戸の縁に乗り上げた。そこから見たらより一層傾斜のキツさに生唾を飲み込む。だがここで怖気付いたら最悪置いてけぼりで、詰む。


「小向、健闘を祈っといてくれ……!」


 再度小向をしっかりと前に抱え直し抱きしめ、俺は意を決してすべり台にダイブした。
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