異世界攻略コントラクト[2]俺たち in the デス·レース

喪にも煮

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 それと交互に話すカッパーレッドとマラカイトグリーンも嫌だし、二人が喋りながらちらちらと小向のシモの方をチラ見するのもすごい嫌だ。
 だが二人に釣られ、俺も小向をチラ見する。食べ物を具現化できる事に一番喜びそうな小向はなぜかしゅんと落ち込んでいた。


「ぼくだめ……ないもん」


「「「……え!?」」」


 ぴこーん。カッパーレッドとマラカイトグリーンのテントが復活した。


「どどどどういうことだ!? 詳しくはなしたまえ!」

「え、なに、なにがないの? なにがないのか教えてほしいな?」


 身を乗り出し矢継ぎ早に繰り出される質問の嵐に面を食らう。二人とも最初からちょっと変な人だなと思っていたが、その推測は間違っていなかったようだ。わざわざ小向の口から卑猥な言葉を言わせようと奮闘する二人の息遣いが荒くて不快指数が一気に跳ね上がる。


「やめてくださいセクハラです」


 倒していた上体を起き上がらせ、小向の両耳を塞ぐ。ヘルメットの上からだから意味があるのか定かではないが、しないよりはまし、要は雰囲気だ雰囲気。
 高校一年生ではえてないなんてすごいデリケートな問題を根掘り葉掘り聞きたがるなんてデリカシーがなさすぎる。本人が一番気にしていることだ、周りは配慮してやるのがマナーだと思う。


「大丈夫。パ○パンでもそれはそれでおしゃれだと思うよ?」


 ふっと微笑みながら頭を撫でてやる。安心してほしいと、そういう思いを込めて。だがなぜだろう腹を殴られている気がする。非力な小向の暴力など猫に殴られた方がもっとダメージがありそうなレベルだが、慰めたのにふるわれる謂れ無いパンチは心に傷をつける。


「パ、パ○パーー!!」

「しっかりしろカッパーレッド! ヘルメットの中で鼻血噴いたら大惨事だぞ!」

「おなかへった」


 起き上がった事で向かい合わせになった小向が、俺を見上げながら一生懸命空腹をアピールする。腹を撫でてはおなかへった、俺のバトルスーツをくいくいと引っ張ってはおなかへった。そうだもんな、自ら食べ物を具現化出来ないと分かった今は俺だけが頼りだよな。


「でも、いいの? 俺が具現化した食べ物って俺のナニ毛が消耗された食べ物だよ? 俺のナニ毛が!」

「キモイ」


 でもおなかへった……。そう呟いた小向はまたも俺のバトルスーツをギュッと握り込み、ぐぅぅぅとなんとも可愛らしい腹の音でこれでもかとアピールした。


「負けた……俺のナニ毛の一本や二本、潔く消えやがれ!! これはパンダのパンだ!」


 現れたパンダのかたちをしたパンを小向に持たせながらヘルメットをとってやる。ヘルメットの中から天然のヘルメットが出てきた。こっちはブラックの半ヘル使用。
 数時間ぶりに見た小向の口元は、俺に対して珍しい事にくいっと綺麗に微笑んでいる。そしてゆっくりとひらいた。
 あ り が と。
 声には出てないが、確かにそう動いた。くうううっサイレントありがとうをありがとう!こんな御礼を言われるならナニ毛を消耗した甲斐があるってもんだ。さらば俺のナニ毛の一本……お前の勇姿は奇跡を生み出した。ただ単にいつの間にか落下して掃除の時に発見されるという虚しい生涯の終え方よりもよっぽど有意義だ。
 パンダのパンをもぐもぐする小向の姿は見ていて和む。真っ黒の髪の毛と美白の肌がパンダと似ているような気がしないでもない。


「そうね、ここでしっかりと食事をとりましょう。皆、食べ物の技をお願い」


 やっとさっきの血の実事件から立ち直ったサロメピンクが音頭をとって食事タイムに移行する。腹が減っては戦はできぬからな、約一名を除き、皆ナニ毛を惜しまず次々に技を繰り出した。


「このもんじゃ焼きはどんなもんじゃ!」

「シチューを食べるシチュエーション!」

「冷やし中華はまだ冷やし中か?」

「このカレーはかれー!」

「みたらし団子を見たらしい」

「蒲萄をひとつぶどう?」

「わたしのスイカこんなにうすいか?」

「マスカットを食べてまぁスカッとした」


 思いつく限りの食べ物ダジャレを叫んだ。ここに第三者がいなくて本当によかった。これは技ですよと説明を受けずに目撃した場合、カラフルなカラータイツをまとってダジャレを言いまくる変態集団に見えたことだろう。恥ずかしい、改めて考えるとダジャレで技とかちょー恥ずかしい。
 食べ物を食べるため皆次々にヘルメットを外していく。サロメピンクは仕事ができそうな知的キャリアウーマン顔の美人だった。どうやってヘルメットの中にしまっていたのか謎なストレートロングな黒髪が現れる。カッパーレッドは三白眼の鋭い目をした金髪怖面。え、不良?眉毛がない。マラカイトグリーンはタレ目の茶髪パーマでおしゃれ眼鏡をつけている優しそうな顔をしていた。美容師とかしてそう。


「小向、おいしい?」

「ん」


 適当に主食類を食べ、デザートのスイカに齧り付きながら小向をうかがい見る。残念なことに俺の上から降りてしまったが、隣に居続ける事に喜びが込み上げた。異世界に飛ばされるのも悪いことばかりではないな。


「とってて欲しいのある?」

「しちゅーとおだんご。あと」

「あと?」

「ぶどう」


 そうかそうか俺の蒲萄が食べたいのか。未だパンダのパンを半分程度しか食べきっていない小向の為に、いそいそと食べ物の取り置きをする。
 蒲萄の具現化はひとつぶのみ。蒲萄ひとつぶに対してナニ毛一本って……シチューは鍋いっぱいで現れたのに不平等だ。いや、スイカはすごいうすっぺらいけどね。マスカットに至っては房ごとだが食べかけのような感じで現れたけどね。
 相変わらず食べるのがどんくさい小向以外は皆食べ終わり、思い思いに体を休める。周りには鋭利な刀がこれでもかと飾られてるが、ここは至って平穏だった。


「それにしてもバトルシップグレイはダジャレをよく知っているな」

「ああ父が」

「ああ父か」


 サイダーをくださいだーで具現化されたサイダーを振る舞われ、喉を潤すとふいにもよおした。尿意だ。どうしよう、トイレはないのだろうか。あたりをキョロキョロと見回すが、当たり前にそんな便利なもの設置されていない。男なのだからそこら辺でしてもいいが、そこら辺には危ない刃物がごろごろしている。あの重たいコートを着ながら用をたすのは至難の業だろう。
 だが俺はまたも素晴らしい方法を思いついた。このピンチを切り抜ける一筋の光を。その案を可能にできるのは小向、君しかいない。


「小向、お願いがあるんだけど」

「ん?」


 やっとパンダのパンを四分の三食べきった小向。四分の一を握りしめている両手はこの分だとまだまだ空きそうもなかったので、俺はそっとその残りの四分の一を奪った。


「!やっ」

「違う違うちょっと持ってるだけ! ちょっとだけ! 数秒!!」


 取り上げられたと勘違いした小向の顔が絶望の色に染まった。あまり長い時間をかけると小向のメンタルにも俺の膀胱にも悪影響だ。素早く片手で小向の両手を操作し、Dのかたちを作らせる。そして耳元であるワードを呟いた。


「トイレにいっといれ?」


 不思議そうに俺の言葉を繰り返した小向は、何気にこれが初めての技発動である。初体験がトイレでごめんよ。申し訳ない気もしたが生理現象なのでいざ仕方あるまい。小向がた行レンジャーで本当によかった。
 疑問形だったから少し心配したがしっかりとダジャレと認識されたようで、お決まりの白煙がもくもくと立ち込める。思惑通り白い煙が晴れた後には仮設トイレが存在していた。
 パンダのパンを小向に返すと何事もなく食事を再開する。それを見届けて、俺はトイレにダッシュした。
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