村人Aは勇者パーティーに入りたい! ~圧倒的モブが史上最高の案内人を目指します~

凛 捺也

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第一章 ナヴィ 職業『村人A』編

6.村人Aは勇者パーティーに入りたい

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「ナヴィちゃん。今なんて……」

「あたしをテリウス様のパーティーに入れてください」

 驚いた表情を見せるテリウスとは対照的に、トニーの仇を討ちたいという強く真剣な表情のナヴィ。

 静かで平らな一本道、カラスのような鳥の鳴き声が響く。

 少しの沈黙の後、テリウスが目線を合わせないようにうつむきながら話し始めた。

「俺たち四人は魔王討伐に向かうために、魔王までの道と情報を持っているマスターアドバイザークラスのトニーさんに手伝ってもらうことにしたんだ。トニーさんは五人の中で一番強かった。そんなトニーさんのおかげで魔王討伐まであと一歩だったんだが」

 叫びたい気持ちを我慢するかのよう拳を強く握り、かすれた声で続ける。

「そこで油断してしまった俺たちパーティーはその隙を突かれたんだ。しかしそれに気づいたトニーさんが俺たちを庇った。そのせいでトニーさんは……」

 噛みしめていたテリウスの下唇からつーっと血が流れていた。

「え、それじゃあトニーおじいちゃんはテリウス様達を守って……」

「……あぁその通りだ。俺たちの油断が、俺たちの力の無さが、トニーさんを殺してしまったんだ」

「……そんな」
 ナヴィは頬の裏を少し噛み、小さな拳に力が入る。

「俺たちが憎いだろう、殴りたいだろ。過信していたんだ俺たちは。弱かったんだ。もちろん君を連れて行っても守ることはできない。諦めてくれ」

「で、でも」

「エンフィーはどうするんだ。小屋はどうするんだ」

「あ……」
 あ……あたし、なんてことを……エ、エンフィー。
 自分のためだけに動いて、エンフィーを置いていこうとして……最低だ……。

 ナヴィは膝から崩れ落ちる。

「君がどういう決意でその言葉を言ってくれたかはわからない。でも君はただの村人だろう。俺たちと一緒に冒険することはできない。能力も、クラスもだ」

 テリウスは崩れ落ちたナヴィの胸元に緑色に輝くタトゥーがあることに気が付いた。

 これは……つい最近までは無印だったのに、すごく早いな。トニーさんの言っていた通りだ。

「ナヴィ。トニーさんは君によく言っていただろう。どんな仕事でも全うすること。そうすればどんな職業でも輝くことができると」

 テリウスがナヴィの肩を掴む。
 ナヴィはゆっくりと顔を上げテリウスの方を見た。

「俺たちは弱い。そして君もまだまだだ。だから今お互いすべきことを全うしよう。そうすればまたいつか巡り合う」

「俺は仲間を、君を守れるくらい修業し強くなる。そして必ず戻ってくる。ナヴィ、君は何をする」

「あたし、あたしは……」

 二人を照らしていた夕日が、会話に終わりを告げるように沈み切った。






「お帰り、お姉ちゃん」

 先ほどと変わらない景色。物の配置、もちろんトニーの姿とうつむいているエンフィーの位置も。
 エンフィーはきっと全く動いていなかったんだ。

 ナヴィはエンフィーを強く抱きしめる。

「ただいま。エンフィー」

「お姉ちゃん。おじいちゃんどうするの」

「お墓に埋めてあげましょ。裏の庭に。でも今日は遅いから明日は仕事をお休みしてゆっくりお別れしましょうか」

「……グスッ。うん……」

 エンフィーが自分の部屋に行ったのを確認した後、ナヴィはトニーの部屋に向かった。

「おじいちゃんの部屋、そういえば初めて入るわね」

 取っ手を掴み一度深呼吸をして、勢いよくドアを開けた。

「これは……」

 そこには足の踏み場もないほどの膨大な書籍の山。壁には何度も使用されたであろう書き物で塗りつぶされたダンジョンやこの世界の地図。そして残りの少しのスペースには申し訳なさそうに端の方においてあるベッドと大斧。

 これが、おじいちゃんの。スーパーアドバイザーの部屋……。

 いくつかの書籍を手に取りパラパラとめくっていると、ナヴィは本に挟まっていた小さな紙を見つけた。


ーー 親愛なるわしの孫娘 ナヴィとエンフィーへ ーー


「手紙かしら……」
 ゆっくりと封を開ける。

 数分で読み終えた。

 鼻のすする音とともにナヴィの背中は小さく震えていた。

 その後ナヴィの目は窓の外に向けられ、星空を見る。

「あぁ、やっぱり綺麗ね」

「わかったわ、おじいちゃん。あたしは必ず……」

 何かを決心したかのような真っ直ぐな目で星を見つめる。

 一つの流れ星がナヴィに手を振るかのように落ちていった。

「今日の空は本当に綺麗だわ」

 その時の表情はトニーの微笑みにそっくりだった。



       二年後


 王都を南に進んだ小さな村、オリバービレッジのとある古小屋にて。


「エンフィーちゃん! 昨日のダンジョン、エンフィーちゃんのおかげで順調にクリアできたよ!」

「あ、サム様! それはそれは。お役に立ててよかったです! またのご利用お待ちしてますね!」
 エンフィーお得意の営業スマイルだ。

「か、可愛い……いってぇ! ってナヴィちゃんかい!」

 サムの背後から勢いよく本が飛んできた。

「だめですよーサム様エンフィーに見惚れてちゃ。後ろからこんな風にやられちゃいますからねー」

 えへへと照れているエンフィーの胸元には、ナヴィと同じ緑色に輝くタトゥーがあった。

 古小屋の外には案内を待っていた冒険者の大行列ができていた。


 その冒険者たちの中の一つのパーティーが話している。

「美少女姉妹のガイドがいるって聞いてはいたが噂以上の評判だな」

「な、すげえだろ。その案内も的確で実績もたくさん作ってんだぜ。あれでまだナヴィちゃんは二十歳、エンフィーちゃんに関していえばまだ十四歳だぞ」

「凄いわねぇ、スーパーアドバイザートニーの孫娘。本物ね。姉のナヴィはもうすぐ上級ガイドにクラスアップするって話らしいわよ。実力的にはもうなっててもおかしくないってさ」

「おいまじかよ。ガイドから上級ガイドになるまで最低五年はかかるって言われてるんだぜそれをたった二年で……お、そろそろかな」


「「次の冒険者様どうぞー!」」



ーー 親愛なるわしの孫娘 ナヴィとエンフィーへ ーー


これを読んでいる時にはきっとわしはもうこの世にはいないじゃろう。

テリウス様が来た日。わしはもうこうなることをうすうす気づいていたんじゃ。

分かっていたのに二人を残して逝ってしまってすまないの。

二人とも、人生はまだまだこれからじゃ。きっと苦しいこと、悲しいこと、向き合わなければならないことがたくさんあると思う。

そんな時は原点回帰じゃ。ナヴィ、エンフィーお前たちは何をしたい。

村人という仕事は地味じゃ。それはわしが一番よくわかっておる。だが

お前たちに誇りを持って仕事を全うすればこの仕事でも輝けることを見せたかった。

二人はわしの姿をどう思ったじゃろうか。

そろそろ時間じゃ。短い手紙になってしまったのを、二人を残して先に行くことをどうか許してくれ。

どんなに遠くにいてもわしは二人の近くで見守っておるぞ。



ー 元村人A スーパーアドバイザー トニー・マクレガンより -


 休憩で一息ついたナヴィは窓から裏庭にある大斧を見つめる。

 この異世界に来てもう二年以上かぁ。なんかいろいろ変わったなぁ。

 エンフィーが入れたコーヒーを一口飲むと、大斧に向かって話し始めた。

「おじいちゃん。決めたよあたし」

「あたしはおじいちゃん以上のスーパーアドバイザーになって、勇者パーティーに入りたい。そして必ずおじいちゃんの仇である魔王を倒す」

 トニーおじいちゃん。どうかこれからもあたし達二人を見守っていて下さい。

 エンフィーが後ろからナヴィの肩を掴む。

 二人は向き合い無言でうなづく。




 最初は本当に嫌だった。自分が世界の中心にいないと気が済まなかったから。でも。

 モブでもいい。冒険者にとっては取るに足らないその瞬間だけの人間なのかもしれない。

 それでもあたしはこの職業で生きていくわ。


 この職業で輝くんだ。


 待っててね勇者様。あたしも必ず強くなる。そしていつかあなたのパーティーに…


 第一章 ナヴィ 職業『村人A』編 完
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