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第六章 コイルとエンフィー『幸運の聖水』を求めて
51.エンフィー・マクレガン
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「僕だよ。ハンナだ」
ハンナ……どうして店の中に……?
「どうして店の中にって思ってるでしょ?」
う、相変わらずの勘の良さ……。
「いるんだろ? 別にここを無理に開けようとは思ってないよ。僕の独り言だと思って聞いてくれ」
ハンナはナヴィの部屋の扉に背をあずけて座った。
「エンフィーは同行に行ったみたいだね。ナヴィ、君はどこに行くか聞いたかい?」
……そういえば聞いてなかったな。
「僕は知ってるよ……」
……え?
「とはいってもカウンターに忘れたであろうマップを見ただけなんだけどね。ははっ」
あとで見るだけ見てみようかな。
「ナヴィ、君に何があったのかは表面上の話でしか僕にはわからない」
「けどね。エンフィーも、同行を依頼したコイル君もきっと君を待ってると思う」
知らないよ。そんなこと。
「根拠ならあるよ、カウンターのマップを見ればわかる」
……。
「僕はこれで帰るね。下で待つような野暮なことはしない。ナヴィ。君が一日でも早く元気な姿を見せてくれるのを僕も待ってるよ。それじゃあね」
ナヴィは扉を離れていくハンナの足音を布団の中で静かに聞いていた。
玄関の扉が開いたことを知らせるベルの音が鳴る。
……ハンナ行っちゃった。
ナヴィは布団を出てふらふらと歩きながら部屋の外に出た。
う、眩しい……そういえば部屋出たのも三日ぶりくらいだっけ……あの時は確かトイレで。
普段の絹のように美しい黒髪とは対照的な、乱れに乱れ油のつやが目立つ髪の毛。食事もろくに食べていないのが一目でわかるような細く弱った腕。何日も洗っていないであろう襟元がよれたシャツ。げっそりとした顔立ち。
それが今のナヴィの姿だった。
「エンフィーのご飯……おいしそうだけどお腹は減ってないの。お水だけ……」
コップ一杯のお水を一飲みし、階段を降り始めた。
一段降りるたびにギシギシと鳴る階段。
それはまるで今のナヴィの体の状態を表しているような音だった。
「あれ、これあたしの体の音かしら。体が全然動かない……。たった一週間ちょっとなのに」
手すりを使いながら。一段、また一段とゆっくり降りていった。
「あ、マップ……」
ナヴィはよたよたとカウンターにあるマップの方に近づいた。
「このマップ……エンフィーとコイル様の。忘れていったのかしら」
たしかここは『竜門の滝』ね。結構レベルの高いダンジョンのはず。それにしても、ものすごい情報収集力ね、エンフィー。
そのマップはエンフィーが収集したであろうおびただしい数の情報が、マップの元の形が確認できないほど詳細に、綿密に書かれていた。
「エンフィーいつの間にこんなに力を付けてたんだ。それにしても何のためにコイル様はこのダンジョンに。……ん?」
ナヴィはマップの赤い丸が何重にも書かれていた場所に注目した。
「ボスの部屋ね。ここのボスは」
ナヴィは目を見開いた。
「か、海龍リヴァイアサン……レベル四十クラスがパーティーで挑むボスなはず」
エンフィーもそれを絶対知ってるはず。なのにこんな無謀な同行を……
ナヴィのマップを持つ手がひどく震えた。
いくら調べに調べたからって勝てるはずがない……コイル様だっていいとこレベル二十クラス。他に情報は……。
カウンターの上にはマップの他にもナヴィが調べたモンスターの生態やダンジョンに関する情報の文献が散乱していた。
整理しながらその本や紙を見ていくと一枚の小さな紙がふわりと下に落ちた。
「何これ……何のメモだろ」
床に落ちた紙を拾う。
「エンフィー?」
ーー ナヴィお姉ちゃんへ ーー
この置き手紙読んでるってことはきっと部屋から出てきてくれたんだね。よかった。私のご飯は食べた?
扉の前でも行ったけど私はコイル様と一緒に『竜門の滝』のダンジョンに向かいます。
お姉ちゃんも知ってるけどここのボスはあの『海龍リヴァイアサン』。どんなに情報を集めても、どんなに対策をしても私たち二人じゃいいとこ五分五分ってところ。お姉ちゃんに相談してたら絶対に止められてたと思う。
でも、私は行きます。お姉ちゃんもきっとそうすると思うから。
お姉ちゃんみたいに冒険者様の気持ちに寄り添って。
お姉ちゃんみたいに冒険者様を元気付けて。
そして、お姉ちゃんみたいに私もこの仕事で輝きたい。
そう思わせてくれた私の一番近くにいる人。お姉ちゃんが元気になれるよう、必ずリヴァイアサンを倒して『幸運の聖水』持って帰ってきます。
それじゃ! 行ってきます。
ーー 『ガイド』 エンフィー・マクレガン ーー
「エンフィー……」
その置き手紙にぽたぽたと水滴が垂れた。
「馬鹿ねエンフィー。あなたここで死んだら元も子もないのよ……」
ナヴィは置き手紙をカウンターにゆっくりと置くと、目の色を変え二階に上がっていった。降りてきたときの音とは打って変わってドタバタとあわただしい音が階段からなっていた。
二階に上がったナヴィは、床に置いてあったエンフィーの作った食事の前で正座をし、手を合わせた。
「いただきます」
今までの失っていた食欲を爆発させたかのように、パンを口いっぱいに頬張り、それをスープで流し込む。チキンを素手で掴みこちらは一口で丸飲み。決して綺麗とは言えない食べ方でトレーに乗っていた料理をものの数分で完食した。
「ご馳走様!」
こちらは手を合わせずトレーを持った状態で言った。キッチンにトレーを置き、急いで支度を進めていた。
「確かここにスペアの杖とローブが……ってない! エンフィー持ってったわね」
ん? ってことはエンフィーってもしかして魔法が使えるの? あの子いつの間に。なるほどね。だからリヴァイアサンに挑もうと……。
「いやいや、そんなこと考えてる場合じゃない、シャワー浴びないと!」
ナヴィが準備を始め約十分。濡れたままの髪で杖とローブはないが、大量の巻物やポーションを入れた大きなリュックを背負いナヴィが玄関の前に立った。
ごめんねエンフィー。あなたは多分あたしがこうすることは望んでないと思う。けどあなたは私が絶対死なせない! あたしの大切な妹なんだから。
ナヴィはそう心に言い聞かせると、勢いよく玄関を飛び出した。
あーあ、僕に気づかず行っちゃった。
裏返しになった押し扉の裏に、ハンナがいた。
「まぁ君ならそうすると思ったよナヴィ。さぁ僕も行こうかな」
ハンナはナヴィの後をゆっくりと追いかけていった。
ハンナ……どうして店の中に……?
「どうして店の中にって思ってるでしょ?」
う、相変わらずの勘の良さ……。
「いるんだろ? 別にここを無理に開けようとは思ってないよ。僕の独り言だと思って聞いてくれ」
ハンナはナヴィの部屋の扉に背をあずけて座った。
「エンフィーは同行に行ったみたいだね。ナヴィ、君はどこに行くか聞いたかい?」
……そういえば聞いてなかったな。
「僕は知ってるよ……」
……え?
「とはいってもカウンターに忘れたであろうマップを見ただけなんだけどね。ははっ」
あとで見るだけ見てみようかな。
「ナヴィ、君に何があったのかは表面上の話でしか僕にはわからない」
「けどね。エンフィーも、同行を依頼したコイル君もきっと君を待ってると思う」
知らないよ。そんなこと。
「根拠ならあるよ、カウンターのマップを見ればわかる」
……。
「僕はこれで帰るね。下で待つような野暮なことはしない。ナヴィ。君が一日でも早く元気な姿を見せてくれるのを僕も待ってるよ。それじゃあね」
ナヴィは扉を離れていくハンナの足音を布団の中で静かに聞いていた。
玄関の扉が開いたことを知らせるベルの音が鳴る。
……ハンナ行っちゃった。
ナヴィは布団を出てふらふらと歩きながら部屋の外に出た。
う、眩しい……そういえば部屋出たのも三日ぶりくらいだっけ……あの時は確かトイレで。
普段の絹のように美しい黒髪とは対照的な、乱れに乱れ油のつやが目立つ髪の毛。食事もろくに食べていないのが一目でわかるような細く弱った腕。何日も洗っていないであろう襟元がよれたシャツ。げっそりとした顔立ち。
それが今のナヴィの姿だった。
「エンフィーのご飯……おいしそうだけどお腹は減ってないの。お水だけ……」
コップ一杯のお水を一飲みし、階段を降り始めた。
一段降りるたびにギシギシと鳴る階段。
それはまるで今のナヴィの体の状態を表しているような音だった。
「あれ、これあたしの体の音かしら。体が全然動かない……。たった一週間ちょっとなのに」
手すりを使いながら。一段、また一段とゆっくり降りていった。
「あ、マップ……」
ナヴィはよたよたとカウンターにあるマップの方に近づいた。
「このマップ……エンフィーとコイル様の。忘れていったのかしら」
たしかここは『竜門の滝』ね。結構レベルの高いダンジョンのはず。それにしても、ものすごい情報収集力ね、エンフィー。
そのマップはエンフィーが収集したであろうおびただしい数の情報が、マップの元の形が確認できないほど詳細に、綿密に書かれていた。
「エンフィーいつの間にこんなに力を付けてたんだ。それにしても何のためにコイル様はこのダンジョンに。……ん?」
ナヴィはマップの赤い丸が何重にも書かれていた場所に注目した。
「ボスの部屋ね。ここのボスは」
ナヴィは目を見開いた。
「か、海龍リヴァイアサン……レベル四十クラスがパーティーで挑むボスなはず」
エンフィーもそれを絶対知ってるはず。なのにこんな無謀な同行を……
ナヴィのマップを持つ手がひどく震えた。
いくら調べに調べたからって勝てるはずがない……コイル様だっていいとこレベル二十クラス。他に情報は……。
カウンターの上にはマップの他にもナヴィが調べたモンスターの生態やダンジョンに関する情報の文献が散乱していた。
整理しながらその本や紙を見ていくと一枚の小さな紙がふわりと下に落ちた。
「何これ……何のメモだろ」
床に落ちた紙を拾う。
「エンフィー?」
ーー ナヴィお姉ちゃんへ ーー
この置き手紙読んでるってことはきっと部屋から出てきてくれたんだね。よかった。私のご飯は食べた?
扉の前でも行ったけど私はコイル様と一緒に『竜門の滝』のダンジョンに向かいます。
お姉ちゃんも知ってるけどここのボスはあの『海龍リヴァイアサン』。どんなに情報を集めても、どんなに対策をしても私たち二人じゃいいとこ五分五分ってところ。お姉ちゃんに相談してたら絶対に止められてたと思う。
でも、私は行きます。お姉ちゃんもきっとそうすると思うから。
お姉ちゃんみたいに冒険者様の気持ちに寄り添って。
お姉ちゃんみたいに冒険者様を元気付けて。
そして、お姉ちゃんみたいに私もこの仕事で輝きたい。
そう思わせてくれた私の一番近くにいる人。お姉ちゃんが元気になれるよう、必ずリヴァイアサンを倒して『幸運の聖水』持って帰ってきます。
それじゃ! 行ってきます。
ーー 『ガイド』 エンフィー・マクレガン ーー
「エンフィー……」
その置き手紙にぽたぽたと水滴が垂れた。
「馬鹿ねエンフィー。あなたここで死んだら元も子もないのよ……」
ナヴィは置き手紙をカウンターにゆっくりと置くと、目の色を変え二階に上がっていった。降りてきたときの音とは打って変わってドタバタとあわただしい音が階段からなっていた。
二階に上がったナヴィは、床に置いてあったエンフィーの作った食事の前で正座をし、手を合わせた。
「いただきます」
今までの失っていた食欲を爆発させたかのように、パンを口いっぱいに頬張り、それをスープで流し込む。チキンを素手で掴みこちらは一口で丸飲み。決して綺麗とは言えない食べ方でトレーに乗っていた料理をものの数分で完食した。
「ご馳走様!」
こちらは手を合わせずトレーを持った状態で言った。キッチンにトレーを置き、急いで支度を進めていた。
「確かここにスペアの杖とローブが……ってない! エンフィー持ってったわね」
ん? ってことはエンフィーってもしかして魔法が使えるの? あの子いつの間に。なるほどね。だからリヴァイアサンに挑もうと……。
「いやいや、そんなこと考えてる場合じゃない、シャワー浴びないと!」
ナヴィが準備を始め約十分。濡れたままの髪で杖とローブはないが、大量の巻物やポーションを入れた大きなリュックを背負いナヴィが玄関の前に立った。
ごめんねエンフィー。あなたは多分あたしがこうすることは望んでないと思う。けどあなたは私が絶対死なせない! あたしの大切な妹なんだから。
ナヴィはそう心に言い聞かせると、勢いよく玄関を飛び出した。
あーあ、僕に気づかず行っちゃった。
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