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第十二章 ナヴィとグローリア案内所
193.前日の約束
しおりを挟むレミアがナヴィとの戦闘に勝利した翌日。
「ん……? あれ、もう朝ですか」
昨日の戦闘で力を使い寝込んでいたレミアが目を覚ました。
「快晴……いつもより明るいですね、雨上がりだからでしょうか」
「いっつ」
レミアがベッドから体を起こそうとした瞬間激痛に襲われた。
やはりあの力の反動は大きかったみたいですね。
使うのと使わせられるのでここまで大きな差になるなんて。
「安易にあの力は使えませんね」
長年案内人をやっている姉さまはいつもこんな激痛を……。
それにしてもナヴィさんの最後の一撃。豪雨で半減されているとはいえ私の本気の炎を打ち破った。
これだから、こういう人たちは……。ナヴィさんも、姉さんも。
窓の前に立ったレミアの下唇から一滴の血が滴り落ちた。
「ん? あれ、太陽の位置が真上……? え! うそ!?」
「いらっしゃい。昨日はすまなかったなおめーら」
「いいんだぜヴィオネットさん。あんたの頼みならいくらでも聞いてやるぜ!」
「わりーな、それで昨日のダンジョンの話だったが……お、起きたか」
案内所の二回でどたどたと走り回る音が聞こえにやりと笑うヴィオネット。
そしてそのままその足音が二階から一階に繋がる階段からだんだんと近づいてきた。
「おはようレミア。いや、おそようか?」
「姉さまなんで起こしてくれなかったのですか! もう昼の十二時じゃないですか!!」
「いやぁあんだけ気持ちよさそうにぐっすり寝てると起こしづらくてなぁ」
「一度起こしに来てるんじゃないですか! もー叩いてでも起こしてくださいよ」
「あはは相変わらず仲いいな二人は」
ヴィオネットに受付をしてもらっていた冒険者が二人のやり取りを見て笑っていた。
「だろー」
「良くないです!」
二人は顔をぐっと冒険者に近づけた。
「そんな悲しいこと言うなよぉ妹ぉ」
「何ですか急に」
ヴィオネットは頬を膨らませるレミアに後ろから肩を組んだ。
「お前も久々だったろ。あれを使ったあとなんだ。いくら休んでも物足りないぐらいだからな」
レミアの耳元に他人には聞こえないほどの声で囁いた。
「姉さま……」
「体のことを気遣えば本当は今日一日しっかり休んでもらいてーぐらいなんだぜ」
「それは姉さまにもナヴィさんにも他の従業員にも悪いです……ってあれ?」
辺りをきょろきょろと見渡すレミア。
「……」
「姉さま。ナヴィさんはまだ部屋ですか?」
レミアはヴィオネットに視線を向けた。しかしそれを避けるかのようにヴィオネットは顔を横に逸らした。
「私ちょっと部屋見てきます!」
「おい。レミア、待て!」
ヴィオネットの声に反応することなく、レミアはナヴィが自室として使っていた三階まで駆け上がる。
「確かに昨日あれだけやって……でも姉さまの回復魔法で昨日ほとんどの怪我は直したはず」
「着いた! ナヴィさんナヴィさん! いますよね!?」
扉を強くノックし声を掛けるもナヴィの声は中から聞こえてはこない。
「ナヴィさん。入りますね……」
右手で取っ手を持ちゆっくりと扉を開けた。
「うそ……」
ナヴィの部屋はもぬけの殻となっていた。
レミアの目に移ったのは完遂済みの書類の山が置かれているデスクと、シーツや布団が丁寧に畳まれているベッドだけだった。
空気の循環を意識したのか窓は開いたまま、カーテンがゆらゆらと揺れていた。
「レミア」
「姉さま。これはどういうことですか。こんなの話が違うじゃないですか!」
「昨日。後は任せろって言いましたよね」
「……」
あれは昨日のナヴィさんと戦う一時間前……。
「レミア。ちょっとこっちこい。話をしよう」
「え……?」
「お前。ナヴィのことどう思う」
「どう思うって……姉さまにしては随分アバウトな質問ですね」
「いいから。思ったこと素直に言ってみろ」
レミアは口をもごつかせながらも、返答した。
「……勿体ないなと」
「ほう、というと?」
その言葉を聞きヴィオネットの口角が上がった。
「少し前に言っていた姉さまの言葉がずっと引っかかっていたんです。『天才だからこそあいつは大きな失敗をしている』この言葉の意味をがなんなのか」
「そしてナヴィさんの考えていることや仕事の取り組み方を見て思ったんです。ナヴィさんの今求めているものにこれ以上ナヴィさん自身の成長は見込めないことを」
「どんなに知識を身に付けても、どんなに努力しても踏み込めない領域があることにナヴィさんは気づいてはいる、でもそれを認めたくない。だからああやって姉さまに反発をした」
「目の前の才能という果実があるのに、大樹の上にぶら下がっている何をしても絶対に届かない別の果実を必死に手を伸ばして取ろうとしている。だから私は勿体ないなと感じました」
「才能という果実ね……いい例えだ」
顎を摩りながらうんうんとレミアの話を聞くヴィオネット。
「姉さまには分かりませんよ。一生」
「……?」
私はそれを遠くから眺めることしかできないのだから……。
「まぁなんだ。お前の思っていることは俺も感じていたことだ。だからな……」
「レミア、今から装備を整えろ」
「え?」
「今からナヴィと戦ってもらう」
「ちょ、どうしてそういうことに?」
「お前が言ってただろう。『目の前にある果実を取らせてやるため』さ」
「ならそれは姉さまが」
「いいや。レミア、お前がやるんだ。第一俺は加減とかできねぇしな。それに……」
「あ……姉さま、そうですよね」
今の姉さまにあまり力は使わせたくない。
「それに、レミア。相手は『天才上級ガイド』って言われてるやつだぞ? お前にはもってこいの奴じゃねぇか」
ヴィオネットは座っていた椅子から立ち、顎を上げ、レミアを上から見下ろした。
その態度と言葉に眉間にしわをよせたレミアがヴィオネットを睨みつけた。
「……姉さま。挑発のつもりですか」
「それはお前の捉え方次第だな」
「……ナヴィさん。どうなっても知りませんよ」
「あとのことは俺に任せろ。ちゃんと完全武装で降りて来いよ、それに。あの力も見せてやれ」
「……わかりました」
こうして私とナヴィさんの戦闘が始まった。
レミアがナヴィとの戦闘に勝利した翌日。
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