245 / 262
第十三章 ブラッディフェスト 序章
242.半端者
しおりを挟む南側、山麓。
「ハハハ、ワタシノケイカイガイキスギテイタノカシラ!」
「……」
龍の姿へと変身したアギルがヴィオネットに猛攻を仕掛けていた。
「ソノママツブレテシマエェェ!!」
アギルはヴィオネットを踏みつけようと足の裏を叩きつけた。
「アッケナカッタナ……ン?」
「アシガ、トメラレタ?」
「ふーっ龍の姿をしてるからどんだけの力を持ってんのかって攻撃を受けてはいたが……」
「ナ……オ、オシカエサレテル」
アギルが踏み付けた足を覗くとヴィオネットが足を片手で止めている姿が映った。
「まさか、この程度のパワーでドラゴン属を名乗ってるわけじゃねぇだろうな?」
ヴィオネットは鋭い眼光でアギルを睨みつける。
「ウッ、ナゼ、ナゼカタテデ、ワタシノコウゲキヲ……」
「攻撃? もしこれを攻撃と呼ぶのであれば、お前はドラゴン属の本当の力を何も知らないんだな」
「ナ、ナニヲ」
「弱い奴には興味はねぇ。特に同じ種族となれば怒りすら覚える」
「クッ! ウオォォォォォォォ!!」
ヴィオネットの発言と眼光に怯んだアギルはそこから何度もヴィオネットを踏みつける。
「……」
「シネ! シネ! シネ!!」
しかしアギルのその攻撃はヴィオネットの片手に全て受け止められてた。
「後は? ほら来いよ、お前の全力の攻撃を」
「ク……クソォ!! クラエェェェ!!」
ヴィオネットに止められていた足を退け、巨大な火炎球を放つ。
「おう、ようやくまともな攻撃をしてきたな」
「ハハハハハ、ソノママモエツキロ!」
「まぁ、雑魚の中では。の話ではな」
「ナ、ナンダ!?」
ヴィオネットの身体がみるみるうちに巨大化し、黄金の龍の姿へと変貌する。
「デ、デカイ! ソレニ、ナンダコノコウゴウシサハ!?」
変身したヴィオネットが輝きを放つ巨大な翼で火炎球を一蹴する。
「ナ!? ワタシノゼンリョクガ……」
「この龍もどきのガキが」
「!? ガハッ」
ヴィオネットがアギルを一振りの尾で薙ぎ払った。
「ク、クソ」
「いいか、クソガキ。お前はドラゴン属としては不完全すぎる。変身したら言葉も片言、種族特有の力もない。半端もんだ」
「……」
「もうこれ以上お前にできることはない。二度目だ。大人しく家に帰れ」
「……」
「三度目の忠告はねぇぞ」
「……ナニガ」
「あ?」
「キサマニナニガワカル!! グオォォォ!!」
「っち。めんどくせぇな」
お前みたいな完璧なドラゴン属に何がわかる。
私とダリアは出来損ないのドラゴン属、半龍属と罵られていた。ドラゴン属として認められず、かといって人としても認められることはなかった。
第一次の交戦が終わった二年前。
住む家と両親を亡くした私たち。
「アギル」
「なに、ダリア」
「あたし達、どこに行けばいいのかな」
「……分からない。でも、ドラゴン属は他にもいるし、少し歩けば」
そうして路頭に迷いながらも着いたドラゴン属の残党がいるとされた町では。
「何だお前ら!!」
「よく見たら半端もんじゃないか! 魔族かもしれんな」
「合成獣ってのが最近はいるらしいぞ。きっとこれも俺達ドラゴン属のやつとの……」
「ち、違います! 私たちは本当にドラゴン属で」
「うるさい! ここにお前らを住まわせる場所はねぇ! ダンジョンに帰りやがれ!」
そういって奴らは私たちに追い払うように石を何度も何度もぶつけてきた。
「やめて! 痛い、痛い!」
「ダリア! 大丈夫!?」
それはドラゴン属だけではなく、ヒューマンも同じだった。
自分たちと少し違うから、たったそれだけの理由で虐げられた。
何度も口論してきたが、正義のため、皆を守るため、と着飾った言葉を並べるだけ。
人類とは本当に正義なのか。魔族は本当に悪なのか。
そんなことを考え始めたそんな時だった。
「やぁ」
「……あなたは?」
「俺はディノール。ドラゴン属の子らよ。俺の元に来い」
「「……」」
その先は特に聞かなかった。後からディノール様は魔王軍と聞いたけど別にそんなことはどうでもよかった。
半龍属の私たちの居場所がここにはある。それだけで生きていく活力になった。
アギルは回想している間に力が弱まり徐々に人の姿へと戻っていった。
「貴様ら人類が私たちをここまで追い詰めたんだ」
「……」
「お前のような完璧なドラゴン属には私たちの苦しみなんて一ミリもわからないだろ」
「……あぁ、わからんな」
アギルは体を起こし、もう一度龍の姿へなろうと魔力を練り上げる。
「ナラココデ、ワタシタチノクルシミヲ!」
「わりぃな」
「……ヘ?」
アギルが龍の姿に変身を遂げた瞬間、彼女の首が吹き飛んだ。
「そりゃもう言い合いっこなしだぜ」
「戦争っつーもんは悪とか正義とかじゃねぇんだ」
あ、あれ……私の身体が、目の前に……。
そう言えばヴィオネットの尻尾が私を通り過ぎていった気が。
目の前が……暗く。
「だが、一つ決定的なものがあるとすれば。自分の正義を押し通したいのなら、目の前にいる別の正義を振りかざす敵を薙ぎ倒していくことだ」
「それができないのなら。お前の正義はその程度ってことだ。半龍属アギル」
「今この場においての正義は俺みたいだな」
あぁ、ディノール様。
私は……ごめんダリア……。
切断された頭部と体は黒い塵と風に流されていった。
「これは……龍の鱗」
ヴィオネットはアギルの散っていった塵の一つの龍の鱗を手に取った。
「ドラゴン属か……どうしてこうなっちまったのかな」
苦い顔をし舌打ちをしたヴィオネットは別の戦場へと向かっていった。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる