パーティを抜けた魔法剣士は憧れの冒険者に出会い、最強の冒険者へと至る

一ノ瀬一

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第十一章 サラの魔法道場編

第253話 初めてのAランクモンスター討伐 其の四

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 どうする? 一体だけならまだしもこの数──五、六体を相手にするのは無理だ。ブライトで目を眩ませてその隙に山を下りるか──いや、マーナ・ガルムは素早いうえに鼻が利く。血の臭いを辿られたらむしろ道場までマーナ・ガルムを連れていくことになる。

 それも逃げきれたらの話だ。当然この山に初めて来た俺よりも向こうに地の利がある。きっと学習してくるからブライトは何度もは効かない。なら、そもそも俺は逃げきることすらできないんじゃないか……?

 そこまで考えて背筋が凍る。これは俗に言う絶体絶命という状況だ。

 俺が取れる選択肢は二つ。闘うか逃げるかだ。

 前者を選んだ場合、まず間違いなく勝算はない。一対一でも手強かったマーナ・ガルムを一度に何体も相手にするのは不可能だろう。土壁を作って閉じ込めて一対一に無理やりしたとしても、きっと対策をとられてどちらにしろ何体かを相手どらなければならなくなる。

 可能性があるのは後者だろう。ブライトを使ってその隙に逃げれば道場まで辿り着けるかもしれない。もしかしたらサラさんがギルドにまだいてもう少しゴールが近くなる可能性だってある。

「ブライト!」

 目を瞑って詠唱をすると、目の前に光球が現れ──たはずだ。網膜を焼くような光が瞼ごしに伝わってくる。ちらりとマーナ・ガルムたちが怯んでいるのを確認してから風魔法と魔力操作を使って全力で山を下る。

 風魔法で臭いがマーナ・ガルムのいる方へあまり行かないようになっている分、少しは時間が稼げるだろうか──いや、落ち葉を踏みしめる音で方向は丸わかりかもしれない。

 後方からすぐにガサガサと落ち葉の擦れあう音と、マーナ・ガルムの鳴き声が聞こえてくる。予想よりも早い。成功するかは分からないが、追いつかれる直前に土壁を作って押しとどめるしかないか。

 土魔法のタイミングを計るために一度足を止め振り返った、そのときだった。

「ゲヘナ」

 どこからか声が聞こえたかと思うと、マーナ・ガルムがいた俺の前方一帯が燃え上がる。直後、キャン、キャンと鳴き声がいくつか上がるが、それもすぐに止む。

 この静かに燃え上がる青い炎には見覚えがある。そして<ゲヘナ>という詠唱──この魔法を使える人物を俺は一人しか知らない。

「いきなりブライトを使うから私まで動けなくなってしまったさね」

 木の陰からサラさんがひょっこりと顔を出し、ゲヘナを解除する。火が燃え移ってしまった枝もいくつかあるが、山火事にならないようにサラさんが的確に水魔法で消火していく。

 器用だなあと感心しながら見上げていたが、ふと視線を地面に落とすと、ゲヘナがあったところにはマーナ・ガルムと思われる骨が転がっていた。

 あの一瞬で骨しか残らないとは──間違えて触れでもしたら大変だった。

 消火活動を終えたサラさんは、俺の方を見て言う。

「動けるかい? 火も消したし、あとは素材を回収するだけさね」

 素材? マーナ・ガルムはもう消し炭になっているではないか、こんな状態では回収などできはしない──そう思ったが、あることに思い至る。俺が倒した一体が山の上に残っている。

 俺はさっきまで絶体絶命だったのに、今からあそこまで戻って素材を取ってくるのか──そう思ったが、サラさんが妙にご機嫌だったのと、サラさんがそう言うのならモンスターが出てきても平気なのだろうと思い、来た道を引き返した。
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