cross of connect

ユーガ

文字の大きさ
上 下
11 / 42
絆の邂逅編

第十話 求める事

しおりを挟む
「・・・えっと、最後の日は・・・三ヶ月前か・・・」
ユーガはフルーヴの日記の最後のページの日にちを見て呟き、一番最初のページへ戻った。
「最初は・・・十一年前みたいだ」
「・・・『今日から日記をつける事にした。このふざけた世界に復讐するためだ』これが一番最初か」
トビがフルーヴの日記を読み、ユーガがページをめくる、という事を繰り返していると、あっという間に最後のページに辿り着いた。
「これが最後か。・・・『日記をつけるのは今日が最後になるだろう。僕は僕の野望を叶えるために自分の道を行く。そのための準備も整えた。復讐の始まりだ』・・・だってよ」
「・・・今の日記を読む限りでは、フルーヴの目的は何者かへの復讐、という事ですか・・・」
と、ルインが顎に手を当てる。そうだな、とトビも腕を組んだ。
「自分の野望を叶える・・・その方法が今フルーヴと行動を共にしてる奴がそれを叶えてくれるって考えるのが妥当だな」
そうでしょう、とルインが答えた。
「でも、兄貴の野望、って何だろうな・・・」
ユーガの言葉に、全員が黙り込む。確かに、その質問をしたところで答えられる者がいるとは思えなかった。
「・・・と、とにかくもう少し色々探してみましょう」
ミナがそうなるべく声を大きくして言い、ユーガ達は、うん、と頷いた。ーと、何気なく本棚を調べていたトビは一つの本を手に取った。
「『太古エルスペリア辞典』・・・?」
太古エルスペリア。確か、遥か昔。元素戦争が起こるさらに前の時代に栄えていたという古代の文明、だった筈だとトビは思い出す。トビは付箋が貼ってあるページを開き、赤いマーカーが引かれている文字を見つけた。
「『滅び・滅亡 現トルフォスク語でスウォー』・・・?」
「トビ?どうした?」
ユーガがひょこ、とトビの後ろから辞典を覗き込んだ。トビはユーガの頭を掴みながら振り返り、ユーガの眼の前に辞書を突き出した。
「・・・自分で読め」
「わ、わかった!わかったから手放して!痛いから!」
顔を掴まれてじたばたと暴れるユーガにため息をつき、『仕方なく』トビはユーガから手を離した。
「いってて・・・で、何だ?これ」
ユーガは目の前に突き出されている辞書を手に取り、先程トビがめくったページを見た。
「・・・『スウォー』?」
だから?とユーガは首を傾げる。トビはもう一度ため息をついて、
「だから、お前の兄貴がどうしてその言葉を調べたのか、って考えになるだろ?馬鹿が」
と呆れて言った。あ、とユーガが手を叩いた。
「なるほど!じゃあ、兄貴が何でこの古代エルスペリア語にマーカーを引いたかを調べれば良いんだな!」
納得、とユーガは頷いた。そこへ、他を調べていたネロがユーガとトビに近づいた。
「ユーガ、トビ。ちょっとこっち来てくれるか?」
「?ああ、わかった」
「何だよ、ったく・・・」
そう言って先に歩き出したネロに付いて行くと、壁に何やら文字が刻んであった。
「何だ?この文字・・・」
ユーガは首を傾げたが、トビはハッとして辞典をもう一度開いた。
「・・・これは太古エルスペリア語で・・・『滅び・滅亡』と掘られてる」
「それって」とユーガ。「さっきその辞典で調べた・・・」
「『スウォー』ですか・・・フルーヴがその言葉を調べたのなら、心のどこかに留めておくべきでしょう」
ルインの言葉にユーガは頷き、その後もしばらくフルーヴの部屋の探索を続けたが、有益な情報となるものはこれ以上なかった。

「ありがとうございました」
ネロが全員を代表してヘルトゥス王に頭を下げた。いや、とヘルトゥスは首を横に振った。
「貴公らの力になれるのなら、いつでも遠慮なく言うといい。力になるぞ」
「・・・わかりました」
ネロが、では、と礼をして城の出口へ向かい、外へ出たところでしかし、とトビが呟いた。
「この後どうすんだよ?目的もないんだろ?」
「そうだよなぁ・・・」
ユーガがうーん、と唸った。なら、とネロが前置きして、
「一度、ガイアに帰らないか?俺も四大幻将についてヘルトゥス王から聞いた事を祖父上に報告しなきゃいけないし」
と提案した。ルインが、そうですね、と頷く。
「私達も突然ソルディオスからミヨジネアへ連れて来られてしまいました。私達ももう一度、ソルディオスへ向かうべきでしょうし」
「ああ、あの街には何かある。じゃないと、村長の家にミヨジネアまで運ばれた理由がつかねえ。それに、あの村長の家に誘導したじじいも気になる」
トビが忌々しげにそう言って、腕を組んだ。
「じゃあ、一度ガイアに戻ってからもう一回ソルディオスに向かう・・・これが目的でいいかな」
だな、とネロが頷き、港に向かって歩き出す。
「ですが」とミナ。「ネロさんがいて助かりましたね。ネロさんがいなければ、私達はミヨジネアから出る事はできなかったかもしれません」
ですね、とルインも頷く。
「ネロ様が来なければどうなっていたか・・・。ネロ様、本当に心より感謝申し上げます」
「い、いいって!それに、来たのだってたまたまなんだから・・・」
ネロは頭をぽりぽりと掻き、手を横に振った。
「そういや、ルイン・・・。何でお前、ネロに『様』付けなんだ?」
とトビが頭の後ろで手を組んで言った。確かに、ユーガも気になっていた事だ。
「・・・ネロ様はルーオス家の貴族ですから。それに、昔ネロ様が私の研究を支援してくれた事がありますし」
「支援っつっても、研究費用をちょっと出しただけだけどな・・・」
ネロが、いやいや、と手を振ると、ルインも、いやいや、と手を振った。
「ちょっと、など・・・とんでもございません。四万セルも頂いたのですから・・・」
それを聞いたユーガがあ、と声を上げた。
「もしかして、ネロが昔、四万セルも公爵様にねだってたのってそういう事なのか⁉︎」
「・・・四万セル・・・ですか・・・」
ミナが苦笑いしてネロを見る。昔、ルインの研究の支援金として四万セルもネロはプレゼントしたのだ。ネロがルーオス公爵に四万セルもねだった、としかユーガは聞かされていなかったが、やっと合点がいった。
「・・・金銭感覚バグってるだろ、お前・・・」
トビの言葉に、ネロ以外の全員が苦笑いして頷いた。

「やっとケインシルヴァに帰れるな・・・」
と、ユーガは船室で椅子に座って呟いた。ネロが港のミヨジネア兵に話しかけ、身分証明の証を見せると兵は飛び上がって慌てふためいた。すぐさまユーガ達は船に案内され、高速艇に乗る事ができた。メレドルからガイアまでは高速艇で二日。一日目はネロと稽古をして過ごしたユーガは、二日目の朝はルインと話していたのだった。ええ、とルインも頷く。
「まさか四大幻将に封じられているとは思いませんでしたが・・・ね」
「そうだな・・・」
そう言って、ユーガは椅子の背もたれに背を預けた。ーその時、ずずん、と船が大きく揺れ、ユーガは椅子から落ちそうになったが何とか耐えた。そして、どたばたと走る音が聞こえて船室の扉が激しい音を立てて開いた。そこに立っていたのは、ケインシルヴァの兵士だった。
「ユーガ様!大変です!」
「何かあったんですか?」
それが、と兵は荒くなった息を整えて答える。
「魔物と共に、ミヨジネア兵が・・・襲撃を!」
「なんだって⁉︎」
ユーガが勢いよく立ち上がったせいで椅子が鈍い音を立てて倒れた。しかし、誰もそれに触れずにルインが、ふむ、と顎に手を当てた。
「襲撃、ですか・・・ともかく外へ向かいましょう」
「わかった!」
ユーガ達は兵を押し退けて扉の外へ出た。そこにはトビ、ネロ、ミナが立っていて、どうやらユーガ達を待っていたようだった。ルインがトビ達を見回して言う。
「話は聞きました。ミヨジネア兵が襲撃をしているとか」
「そういう事だ。甲板を取られたら少し厄介だ。ともかく甲板へ急ぐぞ」
トビが腕を組んでそう言って、ユーガ達は頷いた。走りながら、しかし、とネロが呟く。
「どうしてミヨジネアの奴らが襲撃なんか・・・」
「さあな」とトビ。「来航するのは良いが出航するのはダメ・・・何か知られたくないことでもあるのかもな」
それを聞きつつ、ミナが腕を組んだ。
「・・・口封じ、という事でしょうか・・・」
「ま、今は話してる場合じゃねぇ。ともかく甲板へ急ぐぞ」
ああ、とユーガは頷いて甲板へ上がる階段を登った。先にトビが少し顔を出し、ミヨジネア兵を確認してから階段を登っていった。もちろん、全くいないという訳ではなかったがトビが魔法で気絶させる程度に兵を倒れさせた。
「甲板はまだなのか?」
ユーガは船の廊下を走りながら誰にとは言わず聞いた。それに、ネロが答える。
「もう少しだ!この階段を登れば・・・!」
ネロが言葉を切った。ユーガもその理由を理解し、急ブレーキをかけて後ろへ飛んだ。ユーガ達の前にある階段から誰かが降りてくる音が聞こえたのだ。
「・・・あなたは・・・」
ミナが短剣を抜いて、そう呟く。ユーガ達の視線の先には、雪のように白い肌に、白銀のような銀髪。青氷を思わせるローブを身に纏っている男。その名を、ルインが言う。
「四大幻将、『絶雹のキアル』・・・!」

「『絶雹のキアル』・・・⁉︎こいつが・・・!」
ユーガは腰の剣の柄に手を置きながら男をーキアルを見た。キアルが、ゆっくりと口を開く。
「・・・初めまして、皆様」
ぞくり、とユーガは鳥肌が立った。その声は、まるで氷のようにー、氷そのものが話しているように冷たかった。まるで感情がこもっていない。どうやらそれは、仲間達全員に伝わったーしかし、トビは平然と腕を組んでいるーようだった。
「・・・私の事を存じ上げているようで助かりますねぇ・・・。ご存知の通り、私はキアル。今回はあなた方にお願いがあって来ました」
お願い、とトビが目を細めて呟いた。足を踏み出そうとしたキアルに、トビが目にも止まらない速さで銃を抜いた。
「・・・動くな。動けば腕が吹き飛ぶぞ」
「おっと・・・心外ですねぇ」
本気なのか冗談なのか、キアルは両手を上げた。トビは目を細めてキアルを見たが次の瞬間、トビの左手に持っていた銃が吹き飛んだ。トビの眼が、動揺に見開かれた。
「なっ・・・」
「油断してはいけませんよ・・・ねぇ?トビ・ナイラルツ様・・・」
キアルの口が悪魔のように歪んだ。キアルの手には銃が握られており、トビの銃を弾き飛ばしていたのだ。ユーガは剣を握って引き抜き、キアルに向ける。
「お前・・・!」
「銃が得意なのは、あなただけではないのですよ」
キアルがそう言うのを聞き、ルインが魔法の詠唱を始める。しかし、キアルの銃がルインに向けられてルインは唇を噛んで詠唱を止める。
「・・・さぁ、立場が逆転しましたよ・・・最後まで、油断してはいけませんねぇ」
ユーガは剣を握りながら、どうする、と考えを巡らせた。下手に動けば、キアルはルイン達を撃つだろう。けど、とユーガは眼をトビに向ける。銃をキアルに構えてはいるが、トビも下手に動けばキアルは撃つとわかっているのか動けずにいた。
「・・・さて、どうなさるんです?このまま死んでもらえればお得なのですがねぇ」
キアルがそう言ったその時、トビが急に姿勢を下げて小さい声で呟いた。
(・・・走って斬れ)
「!」
ユーガはその声は聞こえなかったものの、トビの口の動きでそれを理解して剣を握り直した。
(・・・失敗は効かない!)
ユーガはトビの指示通りに脱兎の如く駆けた。バン、とキアルが銃を放つが、ユーガは体を捻ってそれを避けた。キアルは、なに、と驚いた表情を見せた。
「はぁっ!」
ユーガはキアルの懐に入り、剣を振った。致命傷、とはいかなかったが、脇腹に傷を入れた。く、とキアルがユーガを殴り飛ばし、ユーガは地面を転がった。顔を上げたユーガの目の前にキアルの銃が向けられた。
「やってくれましたね・・・ですが、ここまでです」
「・・・そうかもな」
ユーガはそう呟いて、顔を上げた。その顔には、笑みが浮かんでいた。
「・・・俺一人ならな!トビ!ルイン!」
「行きますよ!烈風の揺曳、汝が揺らぐ刹那を刻め!」
「命令すんな。妖言たる静寂、かの者を討ち滅ぼす深淵の闇よ・・・」
キアルが顔を巡らせた時には遅く、トビとルインの魔法が発動する。
「フレアスパイラル!」
「シャドウウイング!」
二人の魔法が同時にキアルを包み、ユーガは後ろに飛んで被弾を避けた。魔法が収まると、キアルが膝をついていた。
「・・・ぐ・・・」
「あーらら、最後まで油断しちゃいけねぇな」
ネロが手を振り、嫌味を込めてそう言った。ユーガは剣を握り直し、キアルに向けた。
「キアル・・・お前ら四大幻将の目的は何なんだ⁉︎」
「私達の目的、ですか・・・そんなもの・・・」
そう言いながら、キアルは立ち上がる。ーその時、キアルの後ろの階段から鹿に似た魔物が降りて来て、キアルをその背に乗せた。気付いたトビが銃を放つが、それはキアルの持っていた銃の柄で弾かれた。
「・・・教える訳がないでしょう?」
そう言い残し、キアルを乗せた魔物は階段を一気に駆け上った。ユーガ達がキアルを追いかけて走るが、そこには既にキアルの姿は無く、トビが小さく舌打ちをした。
「・・・逃がしたか」
「・・・逃げてしまえば、仕方ありませんね・・・キアルを退ける事はできたのですし、ともかく甲板へ急ぎましょう」
わかった、とユーガは頷いて、甲板へと向かった。幸い、甲板には敵はおらず、辺りを見回してもミヨジネア兵の姿は確認できなかった。
「ミヨジネア兵がいないな・・・もしかして、キアルがいなくなっちまったから兵達も引いたのかな?」
ユーガは腕を組んでトビたちを振り向いた。なら、とネロが頭をぽりぽりと掻いた。
「ひとまずこれで帰れそうだな・・・ったく・・・」
だな、とユーガは頷くと、トビが顎に手を当てた。
「だが・・・四大幻将の目的は聞けずじまいだな。それにあのキアルって奴、何だか掴めねえ野郎だったし」
トビが溜め息混じりに呟くと、ミナが小さな声で、キアルさん、と呟いたのをネロは聞き逃さなかった。
「ミナ?」
「・・・あ、いえ。何でもありません・・・」
そう言ったミナの顔に、全員ーユーガ以外ーが違和感を覚えた。ネロがミナに近付いたところで、船の汽笛が鳴った。間もなく、船はガイアに到着しようとしていた。

「ただいま戻りました、父上」
ガイアへ帰ったユーガ達は夜が近い事に気付き、ネロの家で一晩休んで行く事にしたのだ。帰ったユーガ達を、ルーオス公爵が出迎えた。
「おお、ネロ。公務の方、ご苦労だった。それにユーガよ、話は聞いていた。ミヨジネアにいたんだそうだな。ご苦労だったぞ」
「はっ。ありがたきお言葉、嬉しく思います」
ユーガは頭を下げ、膝をついた。うむ、と公爵は頷き、ユーガ達の後ろに立つトビ達を見た。
「・・・貴殿があの、トビ・ナイラルツか」
「・・・何か?」
トビは不機嫌さを隠さずに腕を組んで答えた。慌ててユーガがトビを見るが、トビは変わらず直そうとはしない。
「噂はかねがね伺っていた。何でも、クィーリア随一の実力を争う程の力を持つそうだな」
「・・・俺はクィーリアの人間です。ケインシルヴァの人間と付き合う義理もなければ意味もない。・・・ここにはユーガとネロを置きに来ただけですし」
トビはそう答えると、ふん、と鼻を鳴らした。
「・・・では、失礼します。ユーガ、俺は宿で寝る」
「と、トビ⁉︎」
ユーガが呼び止める暇もなく、トビはルーオス邸の扉を開けて外へ出た。ユーガが慌てて外へ出てトビの姿を探したが、どこにもトビの姿はなかった。恐らく、もう宿に行ってしまったのだろう。ユーガがしばらく俯いていると、隣にネロが立ってユーガの肩に手を置いていた。
「・・・トビは宿屋にいるんだ。大丈夫だろ」
そうだな、とユーガは小さく呟いて頷き、ルーオス邸の扉を開けた。ユーガはもう一度振り返ったが、やはりトビの姿を確認する事はできなかった。
「・・・トビさんはいつも通り、ですね・・・」
ミナが苦笑いをして呟き、ルインも頷く。
「まぁ、トビらしいと言えばトビらしいですけどね」
ユーガ、とルーオス公爵に名を呼ばれ、ユーガは視線を上げた。
「あのような者は、以外と助けを求めていたりする。お前にはそれを救える力がある」
「・・・え・・・私に、ですか・・・?」
うむ、と公爵は頷き、ルイン達に視線を向けた。
「お前が共に旅をしている彼らなら、それを理解しているのではないか?」
ユーガもルイン達を見ると、そうだ、と言うように頷いていた。
「ユーガ」とネロ。「とにかく、疲れたろ?今日は休んで、明日また調査を始めよう」
と、ネロの言葉に公爵も頷いた。
「客人、今日はゆっくりしていってくれ」
そう言って、公爵はネロに何事かを耳打ちして部屋を出た。ネロが、さて、と手を叩いた。
「皆、お腹空いたろ?今から料理するから、食堂で待っててくれるか?ユーガ、料理ちょっと手伝ってくれよ」
「え?あ、ああ。わかった」
ネロがルインとミナを食堂へ案内して、厨房へと向かった。すると、
「・・・んで?」
と、唐突にネロがユーガを見た。なんの事かわからずに困惑しているとネロが溜め息混じりに、
「トビがさっさとどっか行っちまって落ち込んでる・・・わかりやすいんだよ、お前」
と答えた。う、とユーガは言葉に詰まってしまい、ユーガは思わず視線を逸らした。
「そりゃま、トビがあんなんだから落ち込むのもちっとはわかるけどさ・・・結局、お前はトビに何を求めてんだ?」
「・・・何を求めてるか?」
ああ、とネロが頷く。
「人は生きてる以上、何かを求める。何も求めないのは死んでいるのと同じだ・・・って、母上が言ってたんだ」
「・・・ルーオス夫人が・・・?」
「だから、何かをユーガはトビに対して求めてるんじゃないか?」
求めてる事か、とユーガは復唱し、あ、と声を上げた。
「どうした?ユーガ」
「・・・俺、トビに認めてもらいたい」
「・・・・・・はぁ?なんだそれ」
ははは、とネロは笑った。むっとして、ユーガは頬を膨らませてネロを見た。
「わ、笑うなよ・・・」
悪い悪い、とまだ笑いながら手を振るネロはひとしきり笑って、ま、とユーガを見た。
「いいんじゃね?それくらい単純な方がお前らしいよ」
「・・・単純かなぁ」
十分すぎるよ、とネロは答えて冷蔵機械(コルドブロスト)から食材を取り出した。ユーガも調理器具を取り出して、ネロの横に並んだ。
「・・・ありがとな、ネロ」
「どういたしまして」

翌日、ルーオス邸を出るとトビが立っていた。腕を組み、どこか不機嫌な顔をしている。
「おせぇ」
と言って腰に手を当てた。悪い、とユーガは頭を掻いた。
「ネロが起きなくてさ・・・」
それでネロがいないのか、とトビは少し納得した。
「ですから」とルイン。「ネロ様が起きるまでにトビをルーオス邸に招き、朝食でもどうかと公爵様のお誘いです」
「・・・いらねぇよ」
トビは腕を組んでルインから顔を背けた。
「まぁ」とミナがユーガを見て、「そう言わず。ユーガさんの料理、美味しいんですよ」
は?とトビは声を上げた。
「お前が料理ぃ?毒でも入ってんのか?」
入れてないよ、とユーガは苦笑いをした。とにかく、と前置きをしてルインが言う。
「中へ行きましょう。今日のメニューはチキンフィレオ、卵スープに・・・」
どこか怖い笑みを浮かべ、ルインは少し溜めた。何だよ、とトビがいらいらしながらルインに聞く。
「プリンです」
「そこまで言うなら仕方ねぇ、行ってやろうじゃねえか」
と、トビがそう言ったのを聞いて、ユーガとミナは顔を見合わせて苦笑いをした。
「・・・ルインってトビの扱い上手いんだな」
ユーガが頬を掻きながら言うと、ルインが、ふっ、と微笑んだ。
「あのタイプは、好きな物を言えば大体は乗ってくれますから」
「・・・なんか悪どい気がしますが・・・」
「うん、俺も・・・」
ユーガとミナが苦笑いを浮かべながらそう呟いた。
「まぁまぁ、トビが来てくれるのですから良しとしましょう」
ルインはそう言って、トビと共にルーオス邸の扉を開けて中に入った。ユーガはミナに視線を向けて、
「・・・ルインって、以外とアレだよな・・・」
と失笑しながら言った。
「・・・そ、そうですね・・・」
その時、扉が唐突に開き、中からルインが顔を出してユーガ達を見つめていた。
「ユーガ、ミナ。何か言いましたか?」
「い、いや・・・なんでもないよ」
「い、いえ・・・なんでもないです」
はは、と二人はほぼ同時にそう言って、扉を開けて中に入った。
しおりを挟む

処理中です...