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ワンライ企画
番外編 ミナからの誘い
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「・・・へぇ~!これがミヨジネアで開かれてる・・・夏祭り?ってやつか!すっげぇ~!」
そんな素っ頓狂な声をあげながらミヨジネアの首都、メレドルの門を潜ったユーガは、辺りを見渡して眼を輝かせた。仲間達もどこか楽しそうにートビとシノは除いてー辺りを見渡しながら、メレドルの街を一瞥した。その中で一人、トビはユーガに軽く視線を向けて小さく嘆息した。夏祭り、という物の存在を知らなかったトビ達だが、ミナからその夏祭りとやらの存在を教えられ、ユーガは真っ先にその話題に食い付いたのだ。
「ユーガさん、ケインシルヴァにはこういったお祭りはないんですか?」
「ない事はないけど、大体はおめでたい事とかがあった時だけかもなぁ・・・あ、何だあれ⁉︎」
ミナの疑問にユーガは答えたが、その途中で屋台の一つを目に入れると即座に屋台に近付いて『それ』に興味を示した。ユーガが手に持っている物はリンゴ飴で、嬉しそうに手に持ちながら仲間達の元へと歩いて帰ってきた。
「ん、うめぇ!」
ユーガは笑顔で仲間達にそう言うと、良かったねぇ、とリフィアが保護者のような視線で見つめてきて、ユーガは首を傾げた。
「ん?どうした?」
「いんや、別にぃ?」
リフィアの言い方はユーガに疑問を与えたがユーガはそれを追求する事なく、そっか、とリンゴ飴を齧りながらユーガは何となくトビの方へ視線を向けて、トビがユーガに視線を向けているーというよりは持っているリンゴ飴に対してであったがー事に気付いて、リンゴ飴をトビに差し出した。
「トビ、食べるか?」
「・・・なっ、いるかよ。てめぇの口が付いたもんなんか食えるか」
「えー、じゃあもう一個買いに行くから、一緒に行こうぜ!」
「そこまで言うなら仕方ねぇな」
即座に反応を変えたトビに対して仲間達は顔を見合わせて、やれやれ、と苦笑した。ユーガが無意識だとは思うが、トビの扱いに慣れてきている事に対して、苦笑せざるを得なかったのだ。
「おい、ユーガ!あまり離れるなよ!」
「わかってるよ!トビとこれ買ってきたら、すぐ戻ってくるからさ!」
ネロの注意にユーガは聞いた様子もなくトビの手を引いて走っていってしまいネロは再び、やれやれ、と肩をすくめる。
「・・・絶対寄り道してくるぜ、あいつ」
「同感です」
「アタシも~」
ルインとリフィアもネロの言葉にそう言って頷き、やっぱそうだよな、と困ったように腕を組んでユーガ達が走っていった方向へ視線を向けた。
「おじさん!リンゴ飴二つください!」
「待て。三つだ」
ユーガとトビは屋台に着くなり店主に飛び付いてそう言い、店主は豪快な笑みを浮かべて快く返事を返した。
「はいよ!・・・って、また君かい?」
その店主はどうやらユーガの事を覚えてくれていたようで、ユーガにそんな声をかけた。
「はい!お願いしまっす!」
「ほれ、どうぞ!一つ百十セルだから、三つで三百三十セルだな!」
ユーガは指定された代金を支払って、その内の二つをトビに手渡してー隣にあった屋台に視線を向けた。そこにはたらいのような物の中に小さな魚が沢山泳いでいて、そのたらいの側面には『金魚すくい』の文字と共にたらいの中で泳いでいる魚の絵が描かれた板が貼られていた。
「・・・『金魚すくい』?って何だ?」
「お、お兄さん!金魚すくいやってかないかい?」
その屋台の店主ー今度は年は四十代くらいの女性だーに声をかけられ、ユーガはその屋台にも興味を示した。
「なんか面白そうだな・・・!どうやるんですか?」
「簡単さ。このポイという道具で金魚をすくって、この器の中に入れるだけ。どう?簡単でしょー?」
その店主の手にはかなり厚めの器とーポイ、と呼ばれたそれを見て、ユーガは首を傾げた。
「それ、真ん中の部分・・・紙・・・?それで魚をすくえるんですか?」
「あはは!お兄さん、面白い方だね!」
店主に一瞬きょとんとした顔をされた後、いきなり笑い出した店主に、ユーガの方がきょとんとした顔を浮かべた。
「当たり前さね。物は試しに、一回やってみればいいよ」
「・・・わかりました!」
「あいよ、一回百セルね!」
ユーガは百セルを財布の中から取り出して店主からリンゴ飴を持っている方とは逆の手でポイと器を受け取って、下にゆらゆらと泳いでいる金魚を見つめた。そういえば、とユーガは一度金魚から目を逸らしてトビの方を見ると、トビは信じられない速度でリンゴ飴を食べ尽くしていて、自分の財布でリンゴ飴を大量に買っているところだった。
「お兄さん、とりあえずそのリンゴ飴、食べちゃいなよ。両手を使わないと取れないからさ」
店主にそう促され、ユーガは頷いて手に持っていたリンゴ飴を食べ尽くしてリンゴが刺さっていた棒をゴミ箱に入れて、今度は右手にポイを、左手に器を持ってたらいの前で座り込んだ。
「お兄さん初めてみたいだし、コツを教えてあげるよ。縦からスッとすくうんじゃなくて、横から拾い上げると良いよ」
「横から拾い上げる・・・?」
ユーガはいまいち理解ができずに呟いたが、物は試しにと思って金魚すくいに挑みー、数秒後、ポイが破れた状態で座り尽くすユーガが、そこにはいた。
「あらら・・・狙いは良かったんだけどねぇ・・・」
「おい、ユーガ?」
不意に背後から聞き慣れた声が聞こえ、ユーガは咄嗟に視線を上げて後ろを振り返った。ーすると、そこには。
「『金魚すくい』、ですか・・・面白そうですね」
仲間達が屋台を覗き込んで立っていて、ルインがたらいの側面に貼られた文字を読み上げていた。
「み、皆!」
「何やってんだよ、お前は・・・」
一番前に立っていたネロがそう言い、ユーガはとりあえずの事情を説明した。
「それで、気になったからやってみた、と・・・」
ネロは呆れ半分、関心半分にそう呟き、仲間達に向けて、な、と言った。
「俺の言った通りだったろ?寄り道してるって」
ネロの言葉にユーガは否定できず、頭をぽりぽりと掻いて立ち上がった。
「ご、ごめー」
「だが、面白そうな事やってるじゃんか。おばさん、俺も一回ね」
「え・・・」
「何だよ?お前がそんなに白熱するってんなら、かなり面白いって事だろ?やらせろよ」
ネロは百セルを財布から取り出して、呆気に取られる店主とユーガを置き去りにして両手にポイと器を持った。
「そうですね。私も興味がありますし、私も一度やりましょう」
と、今度はルインが。
「では、私も!」
ミナも。
「・・・私も」
シノも。
「アッタシもー!」
元気にリフィアも百セルを取り出して口々にそう言って両手にポイと器を持ってタライの前に座り込んで、ユーガはそれ以上言葉が出ずにその場に立ち尽くす。
「・・・ユーガ、何やってんだよ?お前ももう一回くらいやってこうぜ?」
「え、お、俺は・・・」
「いーからいーから!ほら、おばさん!こいつもう一回ね!」
ネロはユーガが止める間もなくもう百セルを財布から取り出し、ユーガにポイと器を手渡した。
「あんた達・・・仲良いわねぇ」
呆気に取られていた店主がにこやかにそう言ってネロは、でしょ、と気さくな笑みを浮かべた。
「俺達仲良いからよ!」
ネロはそう言い切ってタライに視線を向けて、ポイを構えて目にも止まらぬ速さで金魚をすくい上げて器に移した。
「おし、一匹!」
「おー!ネロ、すげぇな・・・!」
ユーガが素直にそう褒めると、ネロは得意げに鼻を高くして金魚をもう一匹すくおうとしてーその直後、ポイの紙部分が音を立てて破けてしまった。
「あー、破けちまった!これで終わりかよー」
「初めてにしては凄いよ、お兄さん。じゃ、これ袋に入れてあげるね!」
店主はそう言うとネロの手から金魚が一匹入った器を取り上げて、手慣れた手付きで金魚を小さな透明の袋へ移し替えた。
「はい、お兄さん!ありがとね!」
「さんきゅ、おばさん!へぇ、こんな感じに持って帰れるのか!」
「ネロ」と手に持った器に二匹の金魚を入れたルインがポイが破れたため立ち上がり、ネロの方へ視線を向けた。「あなた、金魚すくいに固有能力は使用しないほうがいいですよ」
「げ、ばれた?」
「バレないとでも思ってるんですか」
ルインに少し強い口調で言われ、ネロは小声で謝罪を口にして黙り込んだ。ルインの器に入っていた魚も小袋に移し替えられ、ルインはそれを手に持ってユーガ達を見つめた。
「ミナはどうです?」
「取れましたよ!」
んで、とネロがミナの声を聞きながらリフィアの方へと歩いて行くと、リフィアは一匹も取れていない状態でポイだけが破れていて、どこか放心状態でもあった。
「お前・・・もしかして『魔神』の固有能力使った?」
「うん・・・ポイに力込めた瞬間破れ散っちゃった・・・」
そりゃそうだろ、とネロは呆れたように呟いて、俺もそうか、と一人で勝手に納得した。そうしている間にミナとシノも終わったようで、ミナは二匹、シノは五匹の金魚を小袋に入れて、ユーガの後ろへ立った。
「ユーガ、お前やらねーの?」
まだ水にすら付けていないポイを手に持っているユーガは、どこか遠くを見つめていた。ネロ達がその方向へ視線を向けるとー。
「あ、トビはあそこにいたのか?」
まだ信じられない速度でリンゴ飴を食べているトビがいて、ユーガはトビの方を見ながら口を開く。
「トビにもやってもらおうぜ!これじゃ仲間外れみたいじゃんか!」
ユーガはそう言うと立ち上がり、ネロにポイと器を預けてトビの方へ向かって走り出した。リンゴ飴をちょうど食べ尽くしたトビは少し苛立ちを感じさせる表情で金魚すくいの屋台の前まで来て、ーそれから数分後。トビの手には十匹ほどの金魚が入った小袋が握りしめられていて、店主は飛び出そうな程に目を見開いていた。
「ユーガ。てめぇもやれよ」
トビに不意に視線を向けられてそう言われ、ユーガは頷いてネロからポイと器を受け取った。タライの前に座り込み、しっかりと集中してポイを構えてー。
ぱしゃり、と水音が立った。
「へへ・・・」
金魚すくいを終えて、ユーガ達はメレドルの正門前で集まっていた。その中でユーガは、小袋をー金魚が一匹だけ入った小袋を見つめて、によによとした笑みを浮かべていた。
「気持ち悪っ」
トビに一切の容赦なくそう言われて一瞬だけ、えー、と言いたげな表情になったがすぐに小袋の中で泳ぐ金魚を見て、またによによとした笑みを浮かべた。
「・・・ユーガの奴、相当に嬉しかったみたいだな」
ネロがそう言うと、隣に立っていたルインも、ええ、と頷いて腕を組みユーガを見る。
「金魚の事もそうですが、きっと仲間とこうして過ごせた事も嬉しいのでしょうね」
「俺達も、夏の思い出っつーのができたしな」
ネロが小袋をルインに見せるように持ち上げると、ルインは一瞬驚いたような表情を見せた後、ふっ、と笑みを浮かべた。
「ええ、そうですね。・・・楽しい思い出が、できました」
他の仲間達も同様に嬉しそうにしているところを見ると、きっと楽しかったのだろう。ーリフィアに関してはただただやらかしてたけど。完全に自分の固有能力の使い方ミスってたけどね?
「なぁ、皆!」
と、不意にユーガが仲間達に向かって叫び、仲間達の視線がユーガに一斉に集まった。
「どうしたんですか?」
ミナからそう声をかけられ、ユーガは手に持った金魚の入った小袋をなるべく揺らさないように手を振った。
「あのさ、今日すっげぇ楽しかったし・・・楽しい思い出ができたからさ・・・!」
ユーガはそこで一度言葉を区切り、一度息を吐いてもう一度口を開いた。
「来年もまた、皆で一緒に来ないか⁉︎」
ユーガのその言葉に、仲間達全員が黙り込んだ。ユーガは興奮した感情を抑えて、あ、と恥ずかしげに頭を掻いて仲間達から視線を逸らした。
「ご、ごめん・・・いきなりそんな事言って・・・迷惑、だよな・・・」
「うるせぇよ」
トビに言葉を区切られ、ユーガはトビに視線を向けた。
「迷惑?ああ迷惑だね。そうやって勝手に自分で決めつける事がな。・・・俺達に来年があるかはまだわからねぇ。スウォーを倒して、世界の安寧が訪れるまではな。・・・だが、もしスウォーを倒せたなら・・・考えてやるよ」
トビのその言葉に、仲間達も全員が頷きーユーガは、目に熱いものが込み上げてきて咄嗟に俯いて、ああ、と頷いて笑顔を仲間達に向けた。
「・・・皆、ありがとう!」
どうかその言葉が、嘘になりませんように。今度は確実な平和が証明された世界で、仲間達とこうして笑い合い、『絆』をまた確かめ合えますように。ユーガは腰に掛かっている剣を緋色の瞳で見つめて、そう、祈りを捧げた。
そんな素っ頓狂な声をあげながらミヨジネアの首都、メレドルの門を潜ったユーガは、辺りを見渡して眼を輝かせた。仲間達もどこか楽しそうにートビとシノは除いてー辺りを見渡しながら、メレドルの街を一瞥した。その中で一人、トビはユーガに軽く視線を向けて小さく嘆息した。夏祭り、という物の存在を知らなかったトビ達だが、ミナからその夏祭りとやらの存在を教えられ、ユーガは真っ先にその話題に食い付いたのだ。
「ユーガさん、ケインシルヴァにはこういったお祭りはないんですか?」
「ない事はないけど、大体はおめでたい事とかがあった時だけかもなぁ・・・あ、何だあれ⁉︎」
ミナの疑問にユーガは答えたが、その途中で屋台の一つを目に入れると即座に屋台に近付いて『それ』に興味を示した。ユーガが手に持っている物はリンゴ飴で、嬉しそうに手に持ちながら仲間達の元へと歩いて帰ってきた。
「ん、うめぇ!」
ユーガは笑顔で仲間達にそう言うと、良かったねぇ、とリフィアが保護者のような視線で見つめてきて、ユーガは首を傾げた。
「ん?どうした?」
「いんや、別にぃ?」
リフィアの言い方はユーガに疑問を与えたがユーガはそれを追求する事なく、そっか、とリンゴ飴を齧りながらユーガは何となくトビの方へ視線を向けて、トビがユーガに視線を向けているーというよりは持っているリンゴ飴に対してであったがー事に気付いて、リンゴ飴をトビに差し出した。
「トビ、食べるか?」
「・・・なっ、いるかよ。てめぇの口が付いたもんなんか食えるか」
「えー、じゃあもう一個買いに行くから、一緒に行こうぜ!」
「そこまで言うなら仕方ねぇな」
即座に反応を変えたトビに対して仲間達は顔を見合わせて、やれやれ、と苦笑した。ユーガが無意識だとは思うが、トビの扱いに慣れてきている事に対して、苦笑せざるを得なかったのだ。
「おい、ユーガ!あまり離れるなよ!」
「わかってるよ!トビとこれ買ってきたら、すぐ戻ってくるからさ!」
ネロの注意にユーガは聞いた様子もなくトビの手を引いて走っていってしまいネロは再び、やれやれ、と肩をすくめる。
「・・・絶対寄り道してくるぜ、あいつ」
「同感です」
「アタシも~」
ルインとリフィアもネロの言葉にそう言って頷き、やっぱそうだよな、と困ったように腕を組んでユーガ達が走っていった方向へ視線を向けた。
「おじさん!リンゴ飴二つください!」
「待て。三つだ」
ユーガとトビは屋台に着くなり店主に飛び付いてそう言い、店主は豪快な笑みを浮かべて快く返事を返した。
「はいよ!・・・って、また君かい?」
その店主はどうやらユーガの事を覚えてくれていたようで、ユーガにそんな声をかけた。
「はい!お願いしまっす!」
「ほれ、どうぞ!一つ百十セルだから、三つで三百三十セルだな!」
ユーガは指定された代金を支払って、その内の二つをトビに手渡してー隣にあった屋台に視線を向けた。そこにはたらいのような物の中に小さな魚が沢山泳いでいて、そのたらいの側面には『金魚すくい』の文字と共にたらいの中で泳いでいる魚の絵が描かれた板が貼られていた。
「・・・『金魚すくい』?って何だ?」
「お、お兄さん!金魚すくいやってかないかい?」
その屋台の店主ー今度は年は四十代くらいの女性だーに声をかけられ、ユーガはその屋台にも興味を示した。
「なんか面白そうだな・・・!どうやるんですか?」
「簡単さ。このポイという道具で金魚をすくって、この器の中に入れるだけ。どう?簡単でしょー?」
その店主の手にはかなり厚めの器とーポイ、と呼ばれたそれを見て、ユーガは首を傾げた。
「それ、真ん中の部分・・・紙・・・?それで魚をすくえるんですか?」
「あはは!お兄さん、面白い方だね!」
店主に一瞬きょとんとした顔をされた後、いきなり笑い出した店主に、ユーガの方がきょとんとした顔を浮かべた。
「当たり前さね。物は試しに、一回やってみればいいよ」
「・・・わかりました!」
「あいよ、一回百セルね!」
ユーガは百セルを財布の中から取り出して店主からリンゴ飴を持っている方とは逆の手でポイと器を受け取って、下にゆらゆらと泳いでいる金魚を見つめた。そういえば、とユーガは一度金魚から目を逸らしてトビの方を見ると、トビは信じられない速度でリンゴ飴を食べ尽くしていて、自分の財布でリンゴ飴を大量に買っているところだった。
「お兄さん、とりあえずそのリンゴ飴、食べちゃいなよ。両手を使わないと取れないからさ」
店主にそう促され、ユーガは頷いて手に持っていたリンゴ飴を食べ尽くしてリンゴが刺さっていた棒をゴミ箱に入れて、今度は右手にポイを、左手に器を持ってたらいの前で座り込んだ。
「お兄さん初めてみたいだし、コツを教えてあげるよ。縦からスッとすくうんじゃなくて、横から拾い上げると良いよ」
「横から拾い上げる・・・?」
ユーガはいまいち理解ができずに呟いたが、物は試しにと思って金魚すくいに挑みー、数秒後、ポイが破れた状態で座り尽くすユーガが、そこにはいた。
「あらら・・・狙いは良かったんだけどねぇ・・・」
「おい、ユーガ?」
不意に背後から聞き慣れた声が聞こえ、ユーガは咄嗟に視線を上げて後ろを振り返った。ーすると、そこには。
「『金魚すくい』、ですか・・・面白そうですね」
仲間達が屋台を覗き込んで立っていて、ルインがたらいの側面に貼られた文字を読み上げていた。
「み、皆!」
「何やってんだよ、お前は・・・」
一番前に立っていたネロがそう言い、ユーガはとりあえずの事情を説明した。
「それで、気になったからやってみた、と・・・」
ネロは呆れ半分、関心半分にそう呟き、仲間達に向けて、な、と言った。
「俺の言った通りだったろ?寄り道してるって」
ネロの言葉にユーガは否定できず、頭をぽりぽりと掻いて立ち上がった。
「ご、ごめー」
「だが、面白そうな事やってるじゃんか。おばさん、俺も一回ね」
「え・・・」
「何だよ?お前がそんなに白熱するってんなら、かなり面白いって事だろ?やらせろよ」
ネロは百セルを財布から取り出して、呆気に取られる店主とユーガを置き去りにして両手にポイと器を持った。
「そうですね。私も興味がありますし、私も一度やりましょう」
と、今度はルインが。
「では、私も!」
ミナも。
「・・・私も」
シノも。
「アッタシもー!」
元気にリフィアも百セルを取り出して口々にそう言って両手にポイと器を持ってタライの前に座り込んで、ユーガはそれ以上言葉が出ずにその場に立ち尽くす。
「・・・ユーガ、何やってんだよ?お前ももう一回くらいやってこうぜ?」
「え、お、俺は・・・」
「いーからいーから!ほら、おばさん!こいつもう一回ね!」
ネロはユーガが止める間もなくもう百セルを財布から取り出し、ユーガにポイと器を手渡した。
「あんた達・・・仲良いわねぇ」
呆気に取られていた店主がにこやかにそう言ってネロは、でしょ、と気さくな笑みを浮かべた。
「俺達仲良いからよ!」
ネロはそう言い切ってタライに視線を向けて、ポイを構えて目にも止まらぬ速さで金魚をすくい上げて器に移した。
「おし、一匹!」
「おー!ネロ、すげぇな・・・!」
ユーガが素直にそう褒めると、ネロは得意げに鼻を高くして金魚をもう一匹すくおうとしてーその直後、ポイの紙部分が音を立てて破けてしまった。
「あー、破けちまった!これで終わりかよー」
「初めてにしては凄いよ、お兄さん。じゃ、これ袋に入れてあげるね!」
店主はそう言うとネロの手から金魚が一匹入った器を取り上げて、手慣れた手付きで金魚を小さな透明の袋へ移し替えた。
「はい、お兄さん!ありがとね!」
「さんきゅ、おばさん!へぇ、こんな感じに持って帰れるのか!」
「ネロ」と手に持った器に二匹の金魚を入れたルインがポイが破れたため立ち上がり、ネロの方へ視線を向けた。「あなた、金魚すくいに固有能力は使用しないほうがいいですよ」
「げ、ばれた?」
「バレないとでも思ってるんですか」
ルインに少し強い口調で言われ、ネロは小声で謝罪を口にして黙り込んだ。ルインの器に入っていた魚も小袋に移し替えられ、ルインはそれを手に持ってユーガ達を見つめた。
「ミナはどうです?」
「取れましたよ!」
んで、とネロがミナの声を聞きながらリフィアの方へと歩いて行くと、リフィアは一匹も取れていない状態でポイだけが破れていて、どこか放心状態でもあった。
「お前・・・もしかして『魔神』の固有能力使った?」
「うん・・・ポイに力込めた瞬間破れ散っちゃった・・・」
そりゃそうだろ、とネロは呆れたように呟いて、俺もそうか、と一人で勝手に納得した。そうしている間にミナとシノも終わったようで、ミナは二匹、シノは五匹の金魚を小袋に入れて、ユーガの後ろへ立った。
「ユーガ、お前やらねーの?」
まだ水にすら付けていないポイを手に持っているユーガは、どこか遠くを見つめていた。ネロ達がその方向へ視線を向けるとー。
「あ、トビはあそこにいたのか?」
まだ信じられない速度でリンゴ飴を食べているトビがいて、ユーガはトビの方を見ながら口を開く。
「トビにもやってもらおうぜ!これじゃ仲間外れみたいじゃんか!」
ユーガはそう言うと立ち上がり、ネロにポイと器を預けてトビの方へ向かって走り出した。リンゴ飴をちょうど食べ尽くしたトビは少し苛立ちを感じさせる表情で金魚すくいの屋台の前まで来て、ーそれから数分後。トビの手には十匹ほどの金魚が入った小袋が握りしめられていて、店主は飛び出そうな程に目を見開いていた。
「ユーガ。てめぇもやれよ」
トビに不意に視線を向けられてそう言われ、ユーガは頷いてネロからポイと器を受け取った。タライの前に座り込み、しっかりと集中してポイを構えてー。
ぱしゃり、と水音が立った。
「へへ・・・」
金魚すくいを終えて、ユーガ達はメレドルの正門前で集まっていた。その中でユーガは、小袋をー金魚が一匹だけ入った小袋を見つめて、によによとした笑みを浮かべていた。
「気持ち悪っ」
トビに一切の容赦なくそう言われて一瞬だけ、えー、と言いたげな表情になったがすぐに小袋の中で泳ぐ金魚を見て、またによによとした笑みを浮かべた。
「・・・ユーガの奴、相当に嬉しかったみたいだな」
ネロがそう言うと、隣に立っていたルインも、ええ、と頷いて腕を組みユーガを見る。
「金魚の事もそうですが、きっと仲間とこうして過ごせた事も嬉しいのでしょうね」
「俺達も、夏の思い出っつーのができたしな」
ネロが小袋をルインに見せるように持ち上げると、ルインは一瞬驚いたような表情を見せた後、ふっ、と笑みを浮かべた。
「ええ、そうですね。・・・楽しい思い出が、できました」
他の仲間達も同様に嬉しそうにしているところを見ると、きっと楽しかったのだろう。ーリフィアに関してはただただやらかしてたけど。完全に自分の固有能力の使い方ミスってたけどね?
「なぁ、皆!」
と、不意にユーガが仲間達に向かって叫び、仲間達の視線がユーガに一斉に集まった。
「どうしたんですか?」
ミナからそう声をかけられ、ユーガは手に持った金魚の入った小袋をなるべく揺らさないように手を振った。
「あのさ、今日すっげぇ楽しかったし・・・楽しい思い出ができたからさ・・・!」
ユーガはそこで一度言葉を区切り、一度息を吐いてもう一度口を開いた。
「来年もまた、皆で一緒に来ないか⁉︎」
ユーガのその言葉に、仲間達全員が黙り込んだ。ユーガは興奮した感情を抑えて、あ、と恥ずかしげに頭を掻いて仲間達から視線を逸らした。
「ご、ごめん・・・いきなりそんな事言って・・・迷惑、だよな・・・」
「うるせぇよ」
トビに言葉を区切られ、ユーガはトビに視線を向けた。
「迷惑?ああ迷惑だね。そうやって勝手に自分で決めつける事がな。・・・俺達に来年があるかはまだわからねぇ。スウォーを倒して、世界の安寧が訪れるまではな。・・・だが、もしスウォーを倒せたなら・・・考えてやるよ」
トビのその言葉に、仲間達も全員が頷きーユーガは、目に熱いものが込み上げてきて咄嗟に俯いて、ああ、と頷いて笑顔を仲間達に向けた。
「・・・皆、ありがとう!」
どうかその言葉が、嘘になりませんように。今度は確実な平和が証明された世界で、仲間達とこうして笑い合い、『絆』をまた確かめ合えますように。ユーガは腰に掛かっている剣を緋色の瞳で見つめて、そう、祈りを捧げた。
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長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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